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犬を使って企業PR。社員犬が大活躍
「社員犬」という言葉を知っているだろうか? 文字どおり、犬を社員にしている会社がある。テレビや雑誌など多くのメディアで紹介されたので知っている方も多いかもしれない。 試しにインターネットの検索サイトで「社員犬」というキーワードで検索をしてみよう。なんと100万件を超える検索結果が出てくる。そのトップに表示されるのが、日本オラクルの社員犬、「ウェンディ」を紹介するホームページだ。 日本オラクルでは、2001年より、犬を社員として採用している。ある社員が、先代のブッシュ大統領が愛犬をホワイトハウスの執務室に連れて来ている映像をテレビで見て、これをヒントにしたのだという。犬を人間のように会社に出社させ、社員に「癒やし」を与える。一見、突飛なアイデアとも思えるが、大きな効果があった。 社員犬ウェンディがオフィスの中に入ってくると、スタッフは自然と笑顔になり、ウェンディとコミュニケーションを取ろうとする。来社したお客さんでさえも、ウェンディに話しかけようとする。実はその後がもっと大切だ。その人は自分の会社に戻って上司や同僚に、あるいは飲み会の席で友人や知人に、「今日、日本オラクルで『社員犬ウェンディ』に出会った」という話をする。驚きが口コミとなるのだ。そうして社員犬を見た多くの人々が日本オラクルのPRをする伝道士になっていく。こうして「ユニークな会社」のうわさはたちどころに広まって、すぐにマスコミの取材が殺到するようになっていった。 同社の社員犬ウェンディは、現在、三代目だ。毎週水曜日に日本オラクル本社に、金曜には他地域のオフィスに出社する。マスコミの取材対応、広告・イベント出演など、様々な企業PRをこなし、社員顔負けの活躍をしているそうだ。こんなに成果を挙げても、高い成果報酬をねだることも、ほかの会社への移籍をほのめかすこともない。かかる人件費、いや「犬件費」はペットフード代と、世話をしてくれているペットショップに支払う費用のみだ。何億円にもなるだろう広告効果から考えると、驚くほど高い費用対効果だといえる。
成功事例にふれた時、起業家はどう動くのか?
さて、ここからが今回の本題。この話を聞いてあなたはどう思っただろうか? 「うーん、うまいことやったな」と感心したとしよう。しかし、それでは起業家としては不十分だ。この話をどうやって生かしていくのか? そこがカギになる。 こういった業界の成功話は今や、テレビ、新聞、雑誌、インターネットと、あらゆるメディアにあふれている。いつでも、この手の成功情報は簡単に手に入れることができるのだ。 成功事例にふれた時、2つの利用方法がある。「コピー学習」と「発展学習」だ。まずは「コピー学習」から説明してみよう。 この犬の話を聞いて、自社でも犬を社員として導入しようと考えたのならば、それは「コピー学習」である。何らかの成功事例を見聞きし、それをそのままの形で導入するというやり方だ。これはお手軽な学習方法だが、問題点もある。何の加工もないまま導入すると、うまくいかないことがある。環境の違いが影響を与えるのだ。同じ種類の種でも環境が違うと芽が出たり、出なかったりするのと同じだ。またコピー学習の場合は、当然ながら、二番煎じなのでニュース性が弱まってしまう。どこもやってないことをやるからマスコミは取り上げてくれるのだ。また、新規性がなければ、それを見聞きした人たちの口コミが連鎖していく、ということも考えにくい。 ではどうすればいいのか? もう一つの学習法、「発展学習」を使えばいい。発展学習とは、文字どおり、学ぶべき素材を自分の環境で生かしやすいように発展させて利用する方法である。例えば、今回の社員犬の話を雑誌で読んだとしよう。なぜ社員犬がこれほどまでに成功したのか? これを徹底的に自問自答してみる。なぜマスコミに取り上げられたのだろうか? 隠された上位概念を懸命に探し、言語化することによって、今まで見えなかった重要な何かがが見えてくる。その流れを見てみよう。 「うーん、そうだなー。犬が会社にいるってこと自体に驚きがあったからなのかな〜?」 なるほど、確かに犬が会社にいるのは驚きだ。では、「驚き感」があれば何でも良かったのか? 例えばヘビを社員にするとか? 「いやー、ヘビだとなんか怖いし気持ち悪いから犬ほどは受けないだろう。ある意味ヘビでもマスコミは面白がって取材に来るかもしれないけど、逆に変な会社だっていうイメージを持たれてしまうかも……。企業PRとしては逆効果かもしれない」 なるほど、だったら犬とヘビの違いを言語化すると何が違うのだろうか? 「そうだなー。犬とヘビの違い……。うーん、簡単に言うと『愛着感』のあるなしってことかな?」 なるほどなるほど、ここまでを整理すると「驚き感」と「愛着感」の相乗効果が今回の成功の上位概念ということが考えられる……。 といった感じである。このように具体事例からその成功を導き出した「上位概念」を導ける思考回路を持っていると、ここからさらなる下位概念、つまり、全く新しい成功事例を導けるようになってくる。さらなる思考パターンを疑似体験してみよう。
アクティブラーニングの導入実例とは?
「なるほど、大切なのは『驚き感』と『愛着感』だったのか。逆の言い方をすれば、この2つの要素さえあれば、犬にこだわる必要はないということがわかってきた。本来、会社にはないもので(=驚き感)、かつ誰もがそれに対して癒やしを感じられるもの(=愛着感)を探せばいいのだ。あるある、絶対あるに違いない。何かないだろうか? 考えてみよう」 この状態までくれば将棋で言えば王手がかかったようなものだ。ここですぐに具体例が思い付かなくても気にすることはない。「驚き感」×「愛着感」=Xという公式だけ、強く、心に焼き付けておけばいい。そうするとある時、ふとその回答が頭の中に思い浮かんだり、それにぴったりの具体例に遭遇することがある。 私自身が導き出した事例を紹介しよう。日本オラクルが実践している社員犬の話を聞いて、1週間もしないある日のこと、以前アクティブラーニングで働いていたスタッフが、生まれたばかりの赤ちゃんを連れてオフィスに遊びにやってきた。その瞬間にひらめいた。「これだ!」 「赤ちゃん社員」というのはどうだろう? 0歳児の赤ちゃん社員を採用し、社員証を持たせたら……? 十分な「驚き感」があるではないか。では、赤ちゃんに「愛着感」があるだろうか? 言うまでもない。ありありである。赤ちゃんがいれば、知らず知らずのうちに誰もが声をかけたくなるし、あやしたくなる。その愛着度は、ある意味、犬を超えているといってもよい。 冗談交じりに、その元スタッフにお願いしてみた。「彼女をうちの0歳児社員にしてみない?」 あゆみちゃんというその赤ちゃん社員はその日から毎月1回、うちの会社に遊びに、いや、癒やしと、広告という立派な仕事をしに来てくれることになった。「あゆみちゃん通勤日」が近づいてくると、スタッフのみんなはそわそわしてくる。「明日はあゆみちゃん来る日でしょ? おもちゃ買ってこようかな?」。こんな社員まで出てくる始末だ。当時、我が社ではスクール事業を運営していたので、当然、お客さんも我が社の看板社員、あゆみちゃんのとりこになった。その後、1年近くにわたってあゆみちゃんは我が社で立派な社員の役割をはたしてくれた。 さてこの話を聞いてあなたが次にすることは何か? さらなる発展学習だ。起業家を目指すならば、どんな情報も「次なる成長への素材」と受け止めるべきだ。ここで話を止めてはいけない。 「なるほど、赤ちゃん社員は面白いアプローチだ。ではなぜ、赤ちゃん社員はうまくいったのか?」 起業家として成功する人は、身の回りに発生するあらゆる情報を自身の成長のアイデアとして利用することができる。受けて終わりの「コピー学習」から、無限に発展できる「発展学習」へと思考回路を切り替えていこう。
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アクティブラーニングスクール代表
羽根拓也 |
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ハーバード大学などで語学専任講師として活躍。独自の教授法が高い評価を受け、94年、ハーバード大学より優秀指導教授賞(Certificate of Distinction in Teaching)を受賞。日米10年以上の教育活動の集大成として、97年、東京で「アクティブラーニングスクール」開校。これまで日本になかった「学ぶ力」を指導育成する教育機関として各界より高い評価を得る。新世代教育の旗手として教育機関、政府関係機関、有名企業などから指導依頼がたえない。現在は、デジタルハリウッド大学・大学院専任教授兼CLOも兼任。
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