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世界を魅了した大ヒット商品
世の中で爆発的な大ヒットを飛ばした新商品や新サービスには、ある共通したポイントがある。例えば、カップヌードルにウォークマン。いずれも言わずと知れた大ヒット商品である。一見なんの共通項もなさそうなこの2つの商品、実はそれまであった世の中の「常識」を覆したという点で一致する。 まずはカップヌードル。それまでの常識では、「料理には時間と手間がかかる」という常識があった。料理をするには、食材を切ったり、火を通したりで、一定の手間と時間が必ずかかってしまう。それが面倒で、忙しい人はパンなどの出来合いの食品で済ませるしかなかった。そこでカップヌードルが登場。お湯をかけて3分待つだけ! 食器すら必要ない。それまでの料理の常識が見事にひっくり返された。多くの人がこの新しい商品に飛びついていく。1971年の発売以来、世界80カ国以上で販売され、販売累計200億食を超えるお化け商品になった。 次にウォークマン。それまでの常識では、「音楽は機器を前にしてスピーカーから聴くもの」という常識があった。技術革新のおかげで機器の大きさは少しずつ小さくなっていったが、スピーカーを通して聴くという点では変わりなかった。そこでウォークマンが登場する。手のひらに乗る小さなプレーヤーにスピーカーはついていなかった。機器をできるだけ小型化し、音楽を持ち歩き、ヘッドフォンを使って自分ひとりで音楽を聴くというスタイルを提案した。多くのユーザーがこれに飛びついた。爆発的なヒットとなり、それまでの音楽鑑賞の常識を劇的に変えてしまったといわれている。 いずれにも共通しているのは、それまでの「常識」をひっくり返したということ。この技法をアクティブラーニングでは「常識リバース」と呼んでいる。この「常識リバース」の原理原則を理解すれば、意図的に大ヒット商品の開発が可能になる。
口コミ効果による圧倒的な吸引力
「常識リバース」商品、つまり、既存の常識を覆した商品には「圧倒的な吸引力」が生まれる。なぜか? まず、その商品が常識を覆した商品であるゆえ、登場した時に強い驚きを買い手に与える。この驚きが「口コミ効果」を生み出す。私自身、初めてカップヌードルを食べた時のことをよく覚えている。親戚のおばさんがわざわざ買ってきてくれ、兄弟で喜んで食べた記憶がある。珍しいから「わざわざ」おみやげとしておばさんが買ってきてくれたのだ。翌日、学校で何人もの友達に自慢気にカップヌードルを食べた話をした。その話を聞いた多くの友達が、その後すぐ店に走ったのは言うまでもない。常識を覆すと買い手がその商品の伝道士になってくれる。それは「強い営業効果」が期待できるということだ。
商品に興味がなかった人までをとりこにする
さらに、常識リバースを行えば、それまでにこの商品を買わなかった人までを取り込むことが可能になる。「キシリトールガム」という商品をご存じであろう。10年前までは日本には存在しなかった商品だ。今では、どんなコンビニにも置いてある定番商品となった。これまでの常識では「ガムは歯に悪いもの」というイメージがあった。そのため親が子供にガムを大量に買い与えるという構図は生まれにくい。ガム販売の大手、ロッテでは「今までにないものを創造する」という社長の大号令のもと、常識を覆す商品の開発を行った。「歯に良いガム」である。キシリトールという成分が甘味成分を持ち、かつ歯を再石灰化させる(=つまり歯に良い)という機能性に着目。商品化のための研究を積み重ねた。こうして「かめばかむほど歯に良いガム」が日本に誕生した。商品開発後、徹底的にこの効能を市場にPRし、結果は大成功。カップヌードルやウォークマンといった、歴代の「常識リバース商品」と同じく、圧倒的な吸引力が顧客をつかんでいった。今では、年間1200億円を売り上げるヒット商品になったという。それも売り上げに貢献しているのがこれまでガムを食べなかった人というから驚きだ。800円もするボトルタイプのキシリトールガムを購入し、自分の職場のデスクの上に置き、仕事をしながらキシリトールガムをかんでいる人が増えているという。各いう私もその一人だ。それまで私は自分でガムを買うということはほとんどなかった。食べたいとも思わなかった。しかし、歯に良いといわれ、驚きを持って、ついそのガムを買ってしまった。原稿を書く時にガムをかんでいるとリズム感が出て集中しやすい。しかも歯に良いのならば、気兼ねなく口に運び続けられる。以降、私のデスクにはいつもキシルトールガムが常駐することになった。私や他の多くのファンをとりこにしたのは「歯に良いガム」という圧倒的なウリである。この強い吸引力があれば、それまでその商品を買わなかった人までをごっそりと取り込んでしまう。そんな魔力が「常識リバース」商品にはあるのだ。
常識リバースには方程式が存在する
さて、ここで重要な方程式をお教えしよう。「常識リバース」において重要なことは、まず、(1)「常識の言語化」である。どういった常識を一般人は持っているのか? 例えば料理の常識を言語化してみると「料理は時間と手間がかかるもの」という言語化ができる。この当たり前の常識を「あえて言語化」してみることが極めて重要だ。 次は、(2)「リバースの言語化」。「料理は時間と手間がかかる」という「常識の言語化」を行った後は、これをひっくり返し、どの方向に進めていくのかを言語化する必要がある。「だったら時間と手間がかからない料理法を提供すればよい」。これが、(2)「リバースの言語化」である。 リバースをあえて言語化することによって、商品開発の方向性が定まってくる。この方向にうまく攻め込んでいくことができれば、市場革命が起きる可能性は広がっていく。誰も手をつけなかった「暗黒大陸」にスポットライトをあてるのが、(2)「リバースの言語化」である。 (1)「常識の言語化」と(2)「リバースの言語化」を行ったら、最後に行うのは、(3)「商品の具体化」。それは、(2)「リバースの言語化」を行うことで定まった方向性に対し、具体的にどうやってそれを実現するのかを考えることである。方法は2つ。既存の技術を使うか、新規の技術を開発するか。この2つのいずれかの方法により、「手間と時間がかからない商品」を現実のものに近づけていくのだ。 この流れをもう一度復習してみよう。(1)「常識の言語化」→(2)「リバースの言語化」→(3)「商品の具体化」である。 あなたが起業すると決めたなら、自分の提供する商品やサービスを、最初からこの流れで考案していくことで、圧倒的な吸引力を持つ商品開発が可能になるかもしれない。
毎日できる常識リバーストレーニング
まずは簡単なトレーニングから始めてみよう。自分の家にある日用品を眺めてほしい。例えば「懐中電灯」を取り上げてみよう。これを眺めながら、常識リバースのトレーニングを行ってみる。まずは、(1)「常識の言語化」である。「懐中電灯って、電池が切れると困るよね」という誰もが当たり前のように思っていることを言語化してみる。多くの常識に我々が縛られていることがわかるはずだ。そして順番どおり、(2)「リバースの言語化」、そして、(3)「商品の現実化」である。
こんな感じで家の中にある様々な商品を「リバース」していってみてほしい。無限の可能性があちこちにころがっていることがわかるだろう。次号は、常識リバースのさらに突っ込んだテクニックを紹介したいと思う。
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アクティブラーニングスクール代表
羽根拓也 |
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ハーバード大学などで語学専任講師として活躍。独自の教授法が高い評価を受け、94年、ハーバード大学より優秀指導教授賞(Certificate of Distinction in Teaching)を受賞。日米10年以上の教育活動の集大成として、97年、東京で「アクティブラーニングスクール」開校。これまで日本になかった「学ぶ力」を指導育成する教育機関として各界より高い評価を得る。新世代教育の旗手として教育機関、政府関係機関、有名企業などから指導依頼がたえない。現在は、デジタルハリウッド大学・大学院専任教授兼CLOも兼任。
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