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考えを「練る」ことの重要性とは?
多くの人が夢や希望を持っている。しかし、「思い」はあっても多くの人がそれをうまく実現できていないという場合がほとんどだ。
先日、テレビで、ある起業家がちょっとしたアイデアで新商品を開発し、大成功したという内容の番組が放送されていた。
「うらやましいな。でも、あのくらいのアイデアなら僕でも簡単に出せますよ。実際、いくつかすでに思いついている商品のアイデアがあるんです。いつか必ず自分も起業して、大成功してみせますよ」
私の隣でテレビをいっしょに見ていた20代の若者の言葉だ。しかし、そんな「思い」が頭の中にあっても、それだけで実現へと向かうわけではない。ここで必要なのは、「思い」を「実現」へと向かわせるために、考えを「ねる」という行為だ。
例えるなら、小麦粉とパンの関係がそれに近い。小麦粉はそれだけではパンにはならない。必要な材料をどんどん加え、そして、何度も何度も「ねる」ことで初めてパンという食べ物に近づいていく。
「思い」も同様だ。「思い」それ自体があるだけでは実現に向かうことはない。
「思い」に必要な情報を加えながら、何度も何度も「ねる(=考える)」ことではじめて「実現」へと近づいていくのである。
インターネットで他者とアドバイス交換
自分の「思い」をもっともっと深く「ねる」ために、アクティブラーニングでは「テイクオフ」というトレーニング方法を指導している。自分の思いを、他者に「アウトプット」し、何度も「フィードバック」をもらうことで、自分の思いに磨きをかけていくという手法だ。 これまでに多くの企業や教育機関に導入し、高い成果を挙げてきた。このテイクオフを、インターネット上で誰もが簡単に利用できるようにしたのが、今回、経済産業省が後援する、起業家支援サイト、ドリームゲートのホームページ上でリリースされた「つっこめーる」というサービスだ。
特許も出願中のこのサービスは、インターネットを通じて、知人や全国のつっこめーる仲間と24時間いつでもどこでも「アドバイス交換」ができるという画期的なシステムだ。
「天使」「悪魔」「神様」の親しみやすい3つのキャラクターを通して、良い点、悪い点、具体的な対策をアドバイスに盛り込むことがルール化されている。物事を両面から見せた上で、具体的な対処法をアドバイスさせあうので、効果的なアドバイス交換が可能になっている。
「つっこめーる」利用者は、まず、自分の「思い」を、自分の知人やドリームゲートのメンバーにメールでアウトプットする。例えば、会社で上司とうまい関係を作りたいとか、携帯電話を使ったコンテンツビジネスを始めたいとか……、実現したいと思っている「思い」をメールで他者に伝えるのだ。「思い」を他者にアウトプットするという行為は、想像以上に大きな意味を持っている。単純にあれをしたいこれをしたいという「思い」は、実は感覚的なものにしかすぎない。これを他者に伝えるためには、その「なんとなく」をきちんと「言語化」する必要がある。そのプロセスを通じて、「思い」は形になっていくのだ。
メールを受け取った人には、そのアウトプットに対して感想、アドバイスを述べることが依頼される。これをフィードバックという。しかし、ただ「良いアイデアですね」。とか、「是非、頑張ってください」といった杓子定規な感想では、小麦粉はねられない。「アウトプット」されたものを「ねる」ためには、その「アウトプット」されたものに対し、アウトプットした人とは異なった視点から「評価」を与えられることが重要なのだ。
そこで、この「つっこめーる」では、すべてのアウトプットに対し、「良い点」「悪い点」「ネクストステップ」を評価として述べるということがルール化されている。良い点と悪い点の両方を出すということで、ただほめられるだけ、ただけなされるだけという場合に比べ、客観的評価として受け取りやすくなる。
さらに、明確なネクストステップを評価者自身からも出してもらうことで、具体的に何を求められているのかがわかり、さらに「思い」をこね、より実現性の高い次のアイデアへとつなげていきやすくなる。
しかし、ルールがあるといっても他者の評価はしにくいという人がいるだろう。我々日本人は、「遠慮する」ことが身に染み付いているので、他者に評価を与えることに慣れていない。企業研修などで、この手法を導入した時にも、上司には評価がしづらい、あるいは部下からは評価をもらいにくいと考える人が多くいた。
そこでそういった考えを持つ人をうまくサポートするために、評価そのものをゲーム感覚で行える方法を研修時に導入してみた。
良い点を「天使」、悪い点を「悪魔」、ネクストステップを「神様」に言わせるというものだ。それぞれの役割を書いたカードを持ち、良い点を述べる時には「天使が言うにはですね……」と述べてもらうことにした。効果は絶大であった。遊び感覚で評価できるので、より多くの評価を出しあうことが可能になった。
お互いの理解度が深まるコミュニケーションツール
さらにおまけの効果もついてきた。この手法を用いたワークショップを繰り返した企業などで、ワークを行った参加者同士が、ワーク前よりもお互いのコミュニケーションがとりやすくなったという報告を受けたのだ。
我々日本人は、自分の思いをぶつけあうということを普段あまりやっていない。アウトプットとフィードバックを繰り返し、お互いの思いをぶつけあえば、お互いの理解度も深まっていくのだ。「つっこめーる」においても同様の効果が期待できる。
「つっこめーる」は、インターネットメールを利用したシステムなので、お互いに都合の良い時に24時間アドバイス交換が可能だ。電話では時間があわない、直接依頼しにくい、遠くに住んでいるので最近会ってないといった知人にも気軽に相談が可能になる。しかも、お互いにアドバイスを交換しあうギブ&ティク方式なので、双方にメリットがあり、アドバイスの依頼もしやすい。
また、自分の周りに相談相手がいない人でも、「つっこめーる」のマッチングシステムで、ドリームゲートユーザーである、全国の仲間とアドバイス交換できるので、相談相手がいないといった問題で悩むこともない。同じ夢や悩みをもった全国の仲間から何回でも好きなだけアドバイスをもらうことが可能なのだ。
自分の思いを伝えてみよう
「つっこめーる」は、アウトプットとフィードバックが苦手な日本人を変える大きな可能性を秘めている。
一人でも多くの人が、自分の思いをアウトプットし、多くのフィードバックを受けることで、夢を実現する人が増えていくことを我々は期待している。日本を元気にしていくために、早速あなたの「思い」を「つっこめーる」を使ってアウトプットしてみてほしい。
小麦粉を練るために最も簡単な方法は、他者を使って、自分の思いにアウトプットとフィードバックを返すことだ。今日からでもすぐにできることである。試しに1週間でいい。「今こんな目標があるんだけど、どう思う?」「こんなアイデアで起業したいんだけど、成功の可能性は?」といった、なんとなく思っていたことを「つっこめーる」でアウトプットしてみよう。
様々なフィードバックをもらっていくうちに、少しずつ「思い」が育っていくのを実感できるだろう。
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アクテイブラーニングスクール代表
羽根拓也 |
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日本で塾・予備校の講師を務めた後、1991年渡米。ペンシルバニア大学、ハーバード大学等で語学専任講師として活躍。独自の教授法はアメリカで高い評価を受け、94年、ハーバード大学より優秀指導教授賞(Certificate
of Distinction in Teaching)を受賞。日米10年以上にわたる教育活動の集大成として、97年、東京・神田に「アクティブラーニングスクール」開校。これまで日本になかった「学ぶ力」を指導育成する教育機関として各界より高い評価を得ている。新世代教育の旗手として教育機関、政府関係機関、有名企業などより指導依頼がたえない。
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