前のページへバックナンバーへ次のページへ  

 ●第4回 明日の自分をつくる「発力行為」


独立、起業家に必要なもの、
それは自分を突き動かすエネルギーである。
エンジンが動いていない車が前に進むことがないように、
エネルギーを発生させられない人もまた、
独立への道を進むことはできない。
今回は、日々の体験を、
明日へとつながるエネルギーへと変えていく
「発力行為」についてお話してみたい。

 

能動的な体験が学習効果を高める
 先日、アントレが主催するFC&独立開業フェア(以下、独立開業フェア)で講演を行ってきた。会場は立ち見があふれるほどの盛況ぶりであった。私が独立開業フェアでの基調講演を担当させていただくようになってから1年以上になるが、毎回毎回、本連載「独立力養成講座」を読まれた方が少しずつ参加してくださっている。つい先日など、講演を聞くためにフェアに参加しましたと言ってくださった方がいらっしゃった。コラムのみならず、リアル講演における「独立力養成講座」も、ご評価をいただけるようになってきたことは大変うれしいことだ。
 さて、私の講演は、一般的に皆さんがイメージされる講演とはかなり雰囲気が異なる。まず、私が一方的に話すだけではなく、参加者の皆さん全員で課題を解いたり、ペアやグループで意見交換を進めたりする。アメリカの大学などで広く取り入れられているワークショップスタイルだ。受講者に能動体験をさせることで学習効果を高めるこの手法は、一方通行の講義に比べ、学習効果が格段に高いといわれている。実際、私自身、様々な環境で体感型と非体感型の講義を行い、比較してみたが、内容の理解度、情報の定着度など、体感型の方が圧倒的に高い教育効果が得られることを実感している。「体験」がいかに重要であるかということだ。
「体験」の重要性は、教育に携わっているものとして、日々、痛感する重要な問題である。
 学習者にとって、体験の深さと理解、定着の度合いは比例する。例えば、子供に自然の大切さを教科書で伝えるよりも、実際に大自然の中に一度連れて行く方が明らかに教育効果が高い。その体験は深く心に刻まれ、一生、忘れることはない。「独立力養成講座」の教えも同様だ。このコラムを雑誌で読むだけの人、独立開業フェアやアクティブラーニングスクールに来て、私から直接話を聞こうとする人では、明らかに「得る」ものの質が違う。前者は、話を聞いたことがあるというレベルにとどまるが、後者は実際に体験したことで、強い刺激を受け、翌週には、事業計画書を書き始めるという行動にさえ、つながるかもしれない。「体験」は、次へとつながるエネルギーを発生させる有効な手段になりうる。

明日の自分をつくる原動力とは?
 自分の思いを実現したいと考える人は、次へとつながるエネルギーを生み出すことの重要性を理解しなければならない。特に、独立、起業家を目指すものにとってこのことを理解することは重要である。
 いったん独立してしまうと、実際に、わざわざ本を読んだり、学校に勉強しに行く時間がほとんどなくなってしまう。すべてを自分でまわしていかなければならなくなるので、独立前に比べると極端に時間が少なくなってしまうのだ。そうなると、走りながら、自分を高めていかなければならない。「自己成長力」が必要になるということだ。その時、日々の行動が大切になってくる。限られた時間の中で、どういう人と会い、どういう体験をするかが、そのまま自分のエネルギーとなり、明日の自分をつくる原動力となっていくのだ。このことをアクティブラーニングでは「発力行為」と呼んでいる。「発力」とは、アクティブラーニングの用語で、何がしかの行動により、次につながるエネルギーが生まれることをさす。ご飯を食べればエネルギーが生まれるように、ある種の「行為」「行動」を行った後に、その行動から自分を動かす強いエネルギーが生まれることがある。これを意図的に行っていくことで、自分の夢や目標をかなえることに利用しようというのだ。
 例えば、先ほどの独立開業フェアに参加した時も、ただ参加するという体験と、質の高い参加をするという選択がある。どういう体験が質の高い体験につながるのか? まず、何のために独立開業フェアに参加したのかを思い起こしてみる必要がある。
 独立開業フェアに来たのは、独立に興味があったからだ。であれば何よりもまず「独立」についてもっともっと真剣に考えられるような体験をしなければならない。例えば、会場で講演やセミナーに参加した後、隣の人に話し掛けてみるというのはどうだろう。
「どんな起業を考えていらっしゃるんですか?」
 話し掛ければ大抵の人が答えてくれる。初めは、少しびっくりした顔をされるかもしれない。しかしフレンドリーに話し掛けていくと、大概、照れながらも自分の境遇をあれこれと話してくれる。私が起業を目指していた頃も、よくこの手のセミナーに参加したが、多くの人に話し掛け、エネルギーをもらうことができた。

「発力効果」を高めるには他者をからめる
 意図的な体験の中に、他者をからめること。これが「発力効果」を高めるポイントである。動きのないものよりも、あるもの。動きの予測できるものよりも、できないもの。インタラクティブ性が強まれば強まるほど、人間はその対象物から刺激を受けることができる。その最たるものが人間なのだ。独立開業フェアの会場で、様々な会社の案内パンフレットをもらって帰るだけの場合。動きのある動画画面を見て帰る場合。そして、隣の人に話し掛けて、独立談義に花を咲かせて帰った場合。どれが一番深く記憶に焼きつくであろうか?
 独立開業フェア会場に一歩足を踏み入れたら、恥ずかしがらずに、次々とブースに足を運び、FC本部や代理店本部の人に質問をしてみてほしい。必ずや多くのエネルギーを得ることができるはずだ。すべての人から肯定的な印象を得られるわけではない。「こんな会社には加盟したくないな」と思うかもしれない。その印象もブースを訪れ、担当者に直接会ったからこそ、はっきりと認識することができたのだ。ここで得た印象が強ければ強いほど、次への行動がはっきりとしてくる。明日へとつながる行動が生まれてくるということだ。
 もう一つ例をあげておこう。講演会場などで、質疑応答の時間があれば、できる限り質問を行ってほしい。大規模なイベントで講演をする人は、実際に成果をあげた有名な起業家や専門家である。豊富な経験と優れた洞察力をあわせて持っている人が多い。こういった人に直接質問をしたということが、参加者にとって最大の「発力」のチャンスにつながるのだ。これを利用しない手はない。
 私自身、起業前に参加した起業家向けのセミナーで、バージングループの総帥、リチャード・ブランソン氏に直接質問する機会があった。「世界的な起業家として成功するための資質は?」。という抽象的な質問であったにもかかわらず、氏の解答は射を得ており、独立、起業していくことに対して少なからず迷いのあった自分に対して、大きなエネルギーを与えてくれた。実際、その時彼が言ってくれた言葉は今もなお心に深く刻み込まれている。
「自分の好きなことをするべきだ。そのことなら、あなたは人よりも多くのことを知っている」
 当時、私は貿易の仕事にも手を出していた。しかし、彼のこの一言で、仕事を整理し、教育一本に打ち込む決心がついた。おかげで、それからきっかり1年後に、アクティブラーニング社を設立することができた。この「体験」が自分の将来を変えたのだ。
 「発力行為」を自分の行動パターンに取り組もう。フェア会場だけの話ではない。日々の生活の中で、明日へとつながるエネルギーを生み出してくれそうな行動をどんどん意図的に行っていくべきだ。「体験」はあなたの心の食べ物といえる。良い「食べ物」が健康な体をつくるように、良い「体験」が健全な「独立力」をつくり出す。そこから生まれたエネルギーが、確実にあなたを独立、起業への道へ押し続けてくれるに違いない。

PROFILE
photo アクテイブラーニングスクール代表
羽根拓也
日本で塾・予備校の講師を務めた後、1991年渡米。ペンシルバニア大学、ハーバード大学等で語学専任講師として活躍。独自の教授法はアメリカで高い評価を受け、94年、ハーバード大学より優秀指導教授賞(Certificate of Distinction in Teaching)を受賞。日米10年以上にわたる教育活動の集大成として、97年、東京・神田に「アクティブラーニングスクール」開校。これまで日本になかった「学ぶ力」を指導育成する教育機関として各界より高い評価を得ている。新世代教育の旗手として教育機関、政府関係機関、有名企業などより指導依頼がたえない。


前のページへバックナンバーへ次のページへ