新規ビジネスを始める場合、すでに大企業が参入済みだったり、競合が多い分野だと、顧客は簡単に振り向いてはくれない。何か独自性や際立った特徴がなければ、長く続けることも難しいだろう。今回は、競合が多い業界に新規参入しながらも、独自の方法で人気を博している企業だ。ユーザーとのコミュニケーション手法がうまく、HPの活用方法も他社にはない特徴が。さて、どんな手法で顧客を離さないのだろうか?
今回ご紹介する「DAFFY’S」をひとことで言うなら「低価格の洋服販売チェーン」。様々なルートから仕入れた衣料品を、安く消費者に提供することで人気を得た企業だ。現在、ニューヨーク市とその近郊を中心に全18店舗、マンハッタンだけでも9店舗を展開中だ。特に、マンハッタンにはGAP傘下のオールド・ネービー、欧州から進出してきたH&M、日本から来たユニクロなど、同様のチェーンが無数にある。各社が厳しいシェア争いを続ける中、個人事業からスタートしたDAFFY’Sの健闘は意外なほどだ。同社のビジネスモデルには特に突出したところはないが、確実なファンをつかみ、ニューヨーク市内外で人気を集めている。
DAFFY’Sはニューヨークのお隣、ニュージャージー州のエリザベス地区で61年に創業。港湾の産業都市であった同地区は、かねてより様々な製品の流通拠点となっている。また同州の税金がニューヨーク州よりも安いことや、欧州からのおしゃれな洋服を安く手に入れられるとあって、DAFFY’S は早くから人気店として知られており、地元エリザベスでは、同店のことを「バーゲンタウン」と呼んでいたという。
早くからマンハッタンの中心部にも店舗を構えた同社は、ニューヨークでも成功を収めていたが、景気拡大とともにほかのライバルも多く出現し、また大手メーカーによる自社ブランドや躍進するデザイナーズブランドなどにより、創業初期ほどには安閑とはしていられなくなったという。
ところが近年、折しもインターネットブームが、意外な形で同社の人気を復興させることとなる。大手企業に比べ資金力でも人的資源でも見劣りがする同社の取った作戦は当時としては意外なもの。どこでもやっているチラシやTVCMではなく、ネット上でのPRを展開。しかもオンラインショップを開設したのではなく、単にお店で買い物をしてくれた客の生の声をどんどん公開したのである。
最初は文字や写真だけであったが、ネットインフラの整備が進んだここ数年は動画でのPRにも着手。ユーザー自身の生の声がそのままサイト上で公開されている。「FOUND IT/LOVE IT(見つけたわ、気に入ったわ)」と名付けられたページには、ショッピングに満足した人々からのメッセージが公開。男性も女性も、若い人も年輩の人もニコニコしながら話しているのが印象的だ。
「当社は、有名ブランドや大手チェーンと同じことはできませんからね」(同社広報、以下同じ)
世界的な物流拠点だからこそスタートできたDAFFY’S は、流通機構の合間からうまく商品を見つけだしてくるため、カタログやラインアップを整理することが事実上不可能。彼らはそれをデメリットとせず、逆にPRポイントとして活用している。映像からはこんな声が聞こえてくる。
「こんな素敵な商品がたったの○○ドルで買えたのよ!」
どんな掘り出し物がいつまであるのかわからない点も、ユーザーの購買意欲を刺激するのだろう。折しも金融危機を迎えたニューヨーク。同店の人気は一段と増しているようだ。 さらに近々同社は「BUZZ(うわさ話/クチコミ)」と呼ばれるメニューをサイト上に用意し、ユーザーからの様々な投稿を受け付ける予定だという。そして言うまでもなくインターネット上でのマーケティングとして、「BUZZ」は非常に有効な手法として認識されつつある。
宣伝広告にはコストがかかる。新規のビジネスこそ宣伝は重要だが、お金をかけすぎるわけにもいかない。今回の事例は、ユーザーの生声を宣伝活動に活用したことで顧客の購買意欲を高めることに成功し、安心にもつながった。発想の転換が売り上げや利益につながった好例だ。これから起業する人にとっても、新規事業を考える人にとってもアイデアのヒントになるだろう。