起業のヒントになる!? 米国発☆ビジネス最前線

起業のヒントになる!? 米国発☆ビジネス最前線 / 月2回更新

取材・文 / 田中秀憲

都会で注目!?のカーシェアリング
――Zip Car

省エネやエコ、環境への対応は、今や世界的な時代の流れともいえる。企業はもちろん個人の生活においても関心は高く、様々な分野で環境への取り組みがなされているが、今回のテーマは車。「カーシェアリング」というシステムが持つ先進性と、環境保護の観点をうまく取り入れてユーザーから人気を博しているニュービジネスである。

車関連の新ビジネス

カーシェアリングという言葉をご存じの人も多いだろう。レンタカーのように不特定多数が利用するのではなく、会員だけが共同で利用できる車の貸し出しシステムだ。所有するよりも、車両代金や保険料、整備などのコストを削減できるうえ、「毎日は乗らないが短時間だけ利用したい」といった細かいニーズにも合うことから、欧州を中心に徐々に人気が高まっている。一方で、車両の種類の少なさや利用者同士のトラブル、最悪は盗難などの問題に悩まされるケースも多いという。

今回ご紹介するZip Carは、2人の女性によって99年に創業。マサチューセッツ工科大学でMBAを取得したチェイス氏がビジネスモデルを作成し、環境問題に詳しいダニエルスン氏がその運営を担っている。当初は10台ほどの小型車両と500人に満たない会員でスタートするも、現在の会員数は20万人超で、都心部に集中しているという。米国各地とトロント、バンクーバーそしてロンドンなどにも進出。BMWやミニなどおしゃれな車を中心としたラインアップが特に大都市に住む人に人気で、マンハッタンだけでも数百台、トータルで約5000台を保有し、年商は100億円に達しているという。2007年には西海岸で同様のビジネスを展開していたFlex Carを買収し現在に至っている。

利用方法はシンプルだ。会員になると専用のICカードが届き、それを利用してオンラインのサイトから使いたい車種や保管場所を選んで予約。当日は車の保管場所に行って、窓ガラスに張り付けられた装置にカードをかざすとドアロックが解除される。それから車体とチェーンでつながっているキーを使って車を走らせればよいだけ。各車両からは利用時間などのデータが無線で本部に送られる。

大都市ほど人気、その理由は?

1時間から利用可能で、小型車なら1時間当たり10ドル以下。180マイルまでは一律料金だが、それ以上は超過料金がかかる。時間単位で貸し出すことから返却時間には厳しく、遅れると高額の反則金を支払わねばならない。また何度も遅延を繰り返すと会員資格を剥奪されることもある。

例えばニューヨークのような大都市であれば、同社のシステムは非常に有効だろう。車両価格はともかく、保険料金や駐車スペース確保も高額だし、出かけた先でも駐車が困難。何より日々の生活に車がなくても不便がないともなれば、車を所有しない人が多くても不思議ではない。

Zip Carが創業された、マサチューセッツ州ボストンでも似た事情がある。このエリアはもともと高所得者層が多く、環境問題に関心が高い人が多い。また米国では、環境への意識の高さが“知的レベルの高さを表すバロメーター”と見なされる傾向にある。実際には高級車を所有する余力があっても、あえて環境問題に取り組む姿勢を示したいという人が多いこともあり、ビジネスとしても成立しているというわけだ。

今米国で日本製のハイブリッド車が人気だが、プリウスだけが突出して売り上げを伸ばしている。その人気の訳は多々あるだろうが「遠くから見てもすぐにハイブリッド車とわかる」という見た目にも理由がありそうだ。それは、他者に対して、意識の高さをアピールすることにもつながるのだ。Zip Carも車体には大きく同社のロゴが入っているが、そういったサービス利用者の「気持ちよさ」をくすぐる意味もあるだろう。

“消費者の心をくすぐるサービス”は容易ではない。ターゲットを明確にし、どんな生活・思考で、何に不便さや喜びを感じるかなど徹底したマーケティングなしには実現できないだろう。その点でも、Zip Carの事例は読者の皆さんにとって注目に値するのではないだろうか。

次回は2008年12月12日更新予定。お楽しみに!

ページの先頭へ