何かの習い事をしたいとき、何を情報源にし、どう見つけるだろうか? 今では、スポーツや料理、外国語、資格など無数のスクールや学校があり、その方法もネットでの通信教育から直接指導してもらうタイプまで実に様々である。今回ご紹介するのは、楽器演奏を習得したい人向けのビジネス。ニューヨークならではで、オンラインのメリットを生かしつつ教える側と教わる側をうまくマッチングする新たなビジネスだ。
音楽の街、ニューヨーク。マディソン・スクエア・ガーデンではマドンナが熱唱し、リンカーンセンターではニューヨークフィルが人々を酔わせる。そして夜のビレッジでは、毎日ジャズが演奏されている。プロのミュージシャンが無数にいて、音楽を志す若者も多い。この街に来て初めて楽器に興味を持つ人も多いのだという。
そんな街であるが故に、音楽学校をはじめ音楽を学べる場所は非常に多い。ただ、プロを目指すわけでなく、大人が趣味でちょっと楽器をたしなみたいというときには、「本格的な音楽教室の類はいささか敷居が高い」と感じることもある。ちょっと昔、日本で『もしもピアノが弾けたなら』というヒット曲があったが、このような気持ちは誰もが持つものだろう。しかしレッスンを受けたいと思っても、あらためてピアノ教室に通うとなると気後れもするし、何より場所が遠かったり、仕事の都合で受けたいレッスンをあきらめなければならなかったりすることが大半だろう。
エンコアはそういう人々に対する回答だ。同社は「音楽教師の派遣」を、ネットを介して行うビジネスだ。ウェブサイトから申し込めば、生徒が希望する場所・時間に、希望する楽器の教師がやってきて指導をしてくれるというわけだ。特にフレキシブルなのはレッスンの場所。生徒の自宅でもいいし、どこかスタジオのような場所を教師もしくは生徒が用意しても構わない。例えば、仕事帰りに習いたい場合には会社近くで、また週末に自宅でレッスンを受けたい場合は、教師が来てくれる。一回のレッスン時間も、習う期間も自由に設定可能。小さな子供からグループレッスンまでさまざまなレッスンに対応している。レッスン希望者は、サイト上から習いたい楽器と大まかな場所を入力するだけ。近所の講師たちが地図とともにずらりと表示されるのだ。
エンコアは2005年10月に活動を開始。事業化は翌2006年の2月。当初はニューヨーク市中心であったが、今年5月にはその活動を全米に広げるべくサイトを再構築したうえで、現在のような運営を開始したという。講師側にとっては音楽活動の範疇でのサイドビジネスを行うことが可能となる。生徒側だけでなく講師にも目を向けていたことが同社ならではのアイデアといえよう。
最近は日本でも、「この曲をピアノで弾けるようになりたい」という要望にこたえる教室の類はある。しかしピアノやギターだけならいざ知らず、ちょっと変わった楽器の教室を探すのは困難だろう。しかしそこはやはりニューヨークだ。ボーカルレッスンはもちろん、ピアノやギター、バイオリンといったメジャーな楽器だけではなく、ドラムやサックス、クラリネットやパーカッションなどまでラインアップされている。しかも楽器ごとに、「ジャズを」とか、「ハードロック風に」といったリクエストも可能。例えばギターだけでも「クラシック」「ジャズ」「ブルース」「ロック」そして「フォーク」と多様なコースが用意されているのだ。
そして、これもまたニューヨークらしいのは、講師たちのプロフィール。プロのミュージシャンや熟練の経験者、音楽では著名な大学の卒業生など幅広い。中にはバークレー音楽学校の大学院で博士号を取得したという面々も。しかし彼らが堅苦しい真面目なレッスンばかり行うのかというとそんなことはなく、その技量を生かして生徒からのリクエストに対応しているという。エンコアの教師でもあり、普段はニューヨークで演奏活動を続けているあるミュージシャンからも、「さまざまな音楽に触れることができ、教える方にも刺激がある」という声もあるそう。教える側の音楽活動にもメリットをもたらしているようだ。また多くのミュージシャンは、時間の余裕があり、生徒の希望に合わせやすいことも、プロを講師として起用するメリットなのだという。
まさに教える側、教わる側ともにうれしいサービス。エンコアのように、両者のニーズをうまく合わせるビジネスや、ネットとリアルを組み合わせたビジネスは、無限の可能性がありそうだ。