大量生産・大量消費の時代を経た現在、改めて手作りのよさに目が向けられることは多い。前々回ご紹介した、着古したTシャツからキルトを作るビジネスも、手作り×リサイクルの新たな発想で、ユーザーに受け入れられた事例のひとつだ。世界規模で環境が問題となったことで、エコやリサイクル関連のビジネスは増大しつつある。今回取り上げるのは、ニューヨークのIT業界に出現した企業。彼らもまた手作りやエコロジーといったキーワードを前面に押し出している。
2005年6月、マンハッタンの南、ブルックリンの一角にIT企業が創業。その名はEtsy(エッツィー)、いわゆるオンラインショップだ。定価販売もあるしオークションでの販売も行う。その特徴は、「扱う製品がすべて出品者の手作り作品」ということ。いったい同社の成功の要因はどこにあるのか。同社を訪ね、広報のアダム・ブラウン氏にお話を伺った。(以下発言はすべてブラウン氏)
創業者のロブ・カーリン氏はもともと大工兼アーティスト。当時、自身の作品をオンラインで販売するも、どうにもうまくいかなかったという。アマゾンやeBayなどでも売れなかったが、その時、大手オンラインショップの持つ意外な欠点に気がついたのだという。
「商品があふれかえっているんですよ。だから名もない一人の手作り作品なんかどうやっても見つけてもらえなかったんですね」
どうにかして自身の作品を売りたかった彼は、仲間数人とエッツィーを創業。その後3年を経て、同社は世界に知られるほどまでになったのである。初年度でさえ1800万円以上を売り上げ、2007年には30億円弱、そして2008年には40億円ほどの売り上げを見込む。現在、従業員は60人あまりで、その急成長ぶりは各方面で話題となっている。日本からも250人ほどの制作者から出品があり、100カ国以上・1億を超える人々からアクセスがあるという。
エッツィーはインターネットビジネスだが、特別な技術を保有しているわけではなく、実際にはその視点や発想が成功の要因だ。手作りの商品限定で大きな市場を作り出せたのは、「売り手と買い手との円滑な連係を築くためのコミュニティ構築」によるところが大きいようだ。実際に、同サイトは一般の検索方式以外にも、色での検索や過去に売れた順から探すことも可能。さらに、出品エリアから探すなど、複数のユニークな検索方法が用意されている。
このサイトで買えるのは、絵やアクセサリー、洋服、バッグ、ペット用品など実に様々。すべてが手作りだけに、個性や温かみがある。
またエッツィーは、周辺にユニークなビジネスを生み出した。
例えば、ワシントン州の主婦が始めたLizette Greco(http://www.lizettegreco.com)の場合、彼女の子供の落書きをそのままぬいぐるみにして販売。人気を呼んでいるという。こういったエッツィーを活用したビジネスが次々と生まれている。
また2008年6月には「エコチーム」を設置。出品者の中から、特にエコロジーを重視する人をグルーピングして、クローズアップ。リサイクル素材の積極的利用や、梱包資材の省資源化などを推し進めている。その売り上げの一部を環境保護団体に寄付するなど、社外においてもその活動の輪を広げつつもある。
「ショッピングの楽しみは、ものを買うだけではないと思いませんか? ウインドーショッピングだって楽しいし、商品の話題で会話が盛り上がることもそう。同じものを選んだ人同士のコミュニティだってあり得る。購入するものが決まっているならいいけど、漠然と商品を探したい時には、大手オンラインショップは向いていないと思うね。『何となくこういうものが欲しい』といった時、意外と不便でしょ。我々はショッピングの社会性のようなものも大切にしたい。今は、大量生産と大量消費、そして大量のゴミという時代じゃない。今我々はこういうことの是非をきちんと考えるべきですよね」
実際に同社を訪ねた際、すべてのスタッフがにこやかに応対してくれた。創業者の哲学が会社全体に息づき、はぐくまれているのが同社の一番の強みではないだろうか。
そしてブラウン氏いわく、ビジネスとはやはり「アイデアと情熱」なのだそうだ。