起業のヒントになる!? 米国発☆ビジネス最前線

起業のヒントになる!? 米国発☆ビジネス最前線 / 月2回更新

取材・文 / 田中秀憲

古いTシャツがキルトに変身!?
――stitcht

すでに市場にある分野でこれといった特徴のない事業は、うまくいかないことが多い。しかし、そのようなビジネスでも、上手に組み合わせれば今までなかった新しいビジネスが生まれることがある。今回、取り上げるのは、アメリカらしい2つの文化を組み合わせた意外なもの。そこには新しさと懐かしさが同居する新しい市場形成の力があった。さて2in1のビジネスとは何なのだろうか。

着古したTシャツはどうなる?

最もアメリカらしいファッションといえば、Tシャツ。そもそもは下着でしかなかったのに、様々なデザインをプリントすることにより、特に若者を中心に流行し、今や年齢や性別を問わず「Tシャツを一枚も持っていない」人など探すのが難しいだろう。その種類も、著名なアーティストがデザインしたものや主義主張を訴えるものまで様々なものがあふれ、今では世界中の若者のベーシックなファッションアイテムになっている。

さてそのTシャツ。アメリカを代表する文化でありファッションでもあるが、かようにあふれてしまったが故に、手持ちのTシャツの保管場所や管理に頭を悩ませる人も多いという。また着古したものでも、思い入れがあるものやお気に入りのものだと、「捨てるのが惜しい」と思う人も。そんな状況に意外な解決策を提示したのがstitchtである。

stitchtはTシャツをつなぎ合わせてキルトを作るベンチャー企業だ。本来キルトは母親やおばあちゃんが、着ることのできなくなった古着をつなぎ合わせて作ったもので、これもまた欧米文化の代表だ。昔ながらの伝統と新しい流行を組み合わせたところに、ビジネスの妙があるのだろう。

創業者はアレサとジェイソンのフレイドマン夫婦。2004年の6月に始めたばかりのベンチャービジネスだ。そもそも2人は、それぞれ別の仕事をしていたのだが、ある時この新しいビジネスを思いついてからはそれに専念した。

「僕は建築関係、アレサはPR会社に勤めていたんだけど、今ではこのビジネスに集中しているよ。会社勤めとは違って、自分の会社となるとなかなか大変だね。でも何とかやってる。楽しんでるよ」(ジェイソン・フレイドマン氏)

海外からもオーダーが

「今でも我々夫婦と、3人のスタッフだけ。アレサはPRの専門家だから、助かっているよ。インターネットでのビジネスは垣根がないから小規模の企業には向いていると思う。全米はもちろん、ヨーロッパやアジアなど諸外国からの注文も多いんだ」(同氏)

同社の製作過程は至ってシンプル。はさみでTシャツを切り、手作業で縫い合わせていくだけ。手作業ゆえに、時間や作業量には制限も多いという。大きなテーブル一杯に様々なデザインのTシャツを並べ、美しいレイアウトを考えながらの作業だから一枚を作るにも結構な時間を要する。しかしキルトとはそうやって作られてきたものなのである。

「最初から起業を考えていたわけじゃないんだ。でも、何をやるにしても『プロ』になりたかった。『スペシャリスト』になるってことは仕事をするうえでは最も大切なことだと思うよ。そしてプロだからこそ、顧客への対応が一番大事なんだ。そりゃクレームも時にはあるけど、返金も含めてきちんと対応する。だってお客から見れば、大手も我々も変わりはないんだから当然さ。ネットショップだとさらに企業の規模は関係なくなるから、そういう面を特に大事にしなきゃね」(同氏)

個々に見れば目新しくないものでも組み合わせることで、各国からオーダーが来るほどのビジネスをつくり上げたこと、顧客への真摯な対応、手を抜かない丁寧な仕事ぶり……成功の要因はいろいろと考えられる。起業を目指す人にとって参考になるポイントも多いのではないだろうか。

次回は2008年9月5日更新予定。お楽しみに!

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