起業のヒントになる!? 米国発☆ビジネス最前線

起業のヒントになる!? 米国発☆ビジネス最前線 / 月2回更新

取材・文 / 田中秀憲

地元で愛され続ける老舗の味
――JOSH EARLY CANDIES

伝統的な手作りの製法を維持する、地方都市の製菓業。家族経営ですでに5代目となった家業は、事業拡大よりも伝統の味を維持することが使命であり、事業の拡大や利益確保は2の次。このような老舗は日本にも存在するが、この話はアメリカの地方都市でのこと。今回取り上げるチョコレートショップがあるのは、ビリー・ジョエルの曲で日本でも有名になった街なのである。

約100年続く老舗

1980年代、ニューヨーク在住のアーティスト、ビリー・ジョエルが歌ってヒットした『アレンタウン』。フィラデルフィア郊外に位置するこの歴史ある街は、かつては鉄鋼などの重工業で栄えていたものの、その後不景気や恐慌などで衰退。今ではやや廃れた感のある地方都市だ。この街に小さなチョコレートショップがある。20世紀初頭に創業され、いまだに伝統的な製法を守り続ける老舗だ。その店の名前を「ジョシュ・アーリー・キャンディース」という。

同社は1900年代初頭、J・マーク・アーリー氏が創業。当初はあくまで内職のような形で始められ、多くのショップやレストランにチョコレートを卸す業務が中心であったという。ジョシュ・アーリー・キャンディースの哲学は、品質をおろそかにしないこと。1930年代に2代目であるジョシュ・アーリー4世が確立した製法を今でも維持しているため、大量生産はかなわないともいう。素材も新鮮で厳選されたものだけを使用しているが、その詳細は企業秘密とのこと。1953年に法人組織として登記されてはいるものの、現在でも経営は一族の手でのみ行われ、地元だけでたった2軒のお店での小売りと、卸売り業務を切り盛りしている。

現在の本店も、高速道路の建設でやむなく移動はしたものの、創業の地アレンタウンを離れることはなく、また近隣の大都市、フィラデルフィアやニューヨークへの出店予定もない。家族経営は自社の哲学を徹底させるためであり、事業拡大のために上場することなどは、品質をおろそかにすることになりかねないとして断固避け続けている。現在もこの2店舗と10人ほどの従業員で、年間売り上げ6000万円弱を計上し続けている。

地元で愛され続ける理由

商品の価格帯は相場よりは若干高めだが、品質や味を考えれば安価ともいえる。地元でしか購入できないことから、主たる顧客は地元の人々だが、大事な方へのプレゼントやお祝いの品としての地位をしっかり築いているという。家族代々「何かの時にはジョシュ・アーリー・キャンディース」となっている家庭も多いそうだ。こういった点も、日本の老舗とよく似ている。アメリカでは、ビジネスが成功すると、フランチャイズ化など事業拡大をはかるケースが多い中、同社のようなケースは珍しいといえよう。

取材時にいくつかのチョコレートを購入したところ、
「今日は暑いから車のエアコンを効かせて持って帰ってくださいね。軟らかいのですぐに形が崩れるんです」
と気遣いの一言をかけられた。店員はニコニコしながらチョコレートの箱を包んでくれたが、こういった対応はアメリカではかなり希有なこと。またプレゼントの場合、ラッピングは無料。長きにわたって顧客に愛される理由は、味や品質の確かさのみならず顧客にとっての「心地よさ」にもその秘密はあるのだろう。

海外の老舗メーカーや小売り・サービス業などが発掘され、ライセンス契約・フランチャイズ化などを経て日本に紹介されて成功を収めているケースも少なくない。今回ご紹介したジョシュ・アーリー・キャンディースは、当面拡大志向はなさそうだが、こういった「地元で大人気の老舗」を研究してみるのもよいかもしれない。日本では知られていないビジネスがまだまだありそうだ。

次回は2008年8月22日更新予定。お楽しみに!

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