女性ならバッグやアクセサリーはいくつあっても困ることはないだろう。外出の目的はもちろん、出かける場所や一緒に行く相手、その時の気分などあらゆることに気を使ってその時々のファッションコーディネートをしたいものだ。しかし多くの女性たちは、自身の収入やクローゼットのサイズなどから、ワードローブには制限があるのが普通だろう。できることならいつでもお気に入りのバッグを持って出掛けたい。そんな女性たちの願いをかなえてくれるニュービジネスがアメリカに出現している。
日本でも近日公開予定の映画『セックス・アンド・ザ・シティ』。都会に生きる女性4人の華やかな生活ぶりを描いたこのドラマは世界中で人気となり、映画となって再登場した。日本でもバブル期初頭には「トレンディドラマ」がはやったが、いずれにせよ一般の人から見れば浮世離れした生活を描くこの映画は公開前から話題沸騰だ。そして出演者たちのファッションもまた大きな話題となっている。
彼女たち女優やモデルといった「セレブ」たちの姿は日々テレビや雑誌で取り上げられ、世の女性たちは彼女らが身にまとうファッションに興味津々だ。しかし彼女のファッションやバッグ、アクセサリーなどはいずれも高価で、しかもすぐに新しい流行がやってくる。通常は、流行の先端を追い求め続けることは難しいものである。しかしそのセレブたちの多くは有名ブティックなどから衣装を提供されており、企業側もPR目的もあって彼女らに最新の商品を提供し続けることとなる。
実は、かつて米国の大手のファッションブランドの多くが、即日配達でオンライン販売や試着のサービスを行っていた。しかしパーティやデートに一回だけ使ったあとにすぐに返品するという利用者が多く、売り上げに結び付かなかった。もちろん各社ともこのような状況は、ある程度予測はしていたものの、想定範囲を超える返品率の高さに、結局利益の確保ができないままこのようなサービスから撤退した経緯がある。以前にこの連載で取り上げた、「はんなり」の小野マネージャ?が述べていたように、日本では少し「ずうずうしいかな」と思うようなことでも、こちらではよくあることのようだ。
そこで始められたのが「Bag Borrow or Steal(バッグ・ボロウ・オア・スティール=バッグを借りるか、横取りします)」だ。セレブたちが愛用するような高価なバッグ類をはじめ、宝石などのアクセサリー類、そしてサングラスのような小物までをレンタルできるオンラインショップである。最初にメンバーフィー9.95ドルを支払えば、あとはお気に入りの商品を借りるだけ。レンタルは1カ月単位。料金は15ドル程度からと手軽で、何より種類が豊富だ。そして同社の面白いサービスは、商品が気に入れば買い取りもできること。社名の「スティール」はこの意味でもある。また、サイト上で簡単なコーディネートもしてくれるサービスも用意されている。
バッグ・ボロウ・オア・スティール社CEOのマイケル・J・スミス氏は、このような状況から、逆にレンタル専業でビジネスを始めればきっとうまくいくと考えたのだそうだ。しかもサイズ直しなどが必要なドレス類は除外し、商品をそのまま送り出せるバッグや宝飾類に絞っての展開だ。そして氏が「正直な質問」を問うた時、このビジネスが生まれたのだという。
「ハリウッドスターたちがパーティに行くのに、彼らは有名なブティックやデザイナーからバッグ類を借りて出席します。裕福な彼女たちにはバッグやジュエリーが貸し与えられるのに、一般の女性にそのチャンスがないのは不公平だと思いませんか」(スミス氏)
スミス氏はいくつかの大手オンラインショップの経営経験があるのだが、利便性にあふれたこのニュービジネスは、合理的精神にあふれたアメリカ女性たちにあっという間に受け入れられることとなった。そして今、バッグ・ボロウ・スチール社は映画『セックス・アンド・ザ・シティ』との提携などの様々なキャンペーンによって、このニュービジネス分野においては他社の追随を許さない企業となっている。
レンタル業自体は目新しいビジネスではない。しかし「どのような商品を扱うか」や「誰を対象とするのか」、また「どうやってそのサービスを届けるのか」などを考え抜けば、今までなかった市場が生まれることもある。今回ご紹介したビジネスの「着目点」は大変参考になるのではないだろうか。