起業のヒントになる!? 米国発☆ビジネス最前線

起業のヒントになる!? 米国発☆ビジネス最前線 / 月2回更新

取材・文 / 田中秀憲

ゴミは最先端のアート
――アーティストの挑戦

アーティストを志す若者は多いことだろう。しかし、将来の生活のことや、成功するかどうかを考えると最も困難な職業の選択であることもまた事実だ。実際絵かきやイラストで成功するのはほんのわずか。多くはアルバイトなどしながら作品を作っていくのが精いっぱいだろう。しかしここニューヨークに意外なアイデアで成功したアーティストがいる。彼は時代の先端を走り、そしてビジネスとしても成功を収めているのだ。彼はどんなアーティストなのだろうか。

ゴミがアートに!?

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ニューヨーク出身のアーティストを挙げていくとなると枚挙にいとまはない。バスキアやウォーホールといった世界的に有名な人もいれば、知る人ぞ知るといった人も。そして無数の無名アーティストがひしめくのがニューヨークという街の大きな特徴の一つである。世界で最もアートに適した、そしてアートの似合う街の一つがここニューヨークであることに異存を挟む人はいないだろう。

ところで大都市には大都市ならではの問題も多い。例えば今では大きな社会問題となっている都会のゴミ。もちろんニューヨークも例外ではなく、通りや地下鉄の線路にはゴミが散乱し、観光名所やスポーツ施設、時には公園までもがゴミだらけとなっている。そしてこの2つを組み合わせてアート作品として販売をしているアーティストがニューヨークに存在するのだ。

その人の名前はジャスティン・ギグナック。まだ若い彼は、つい最近までグリニッジビレッジに住む貧乏アーティストにすぎなかった。しかしある日彼は新しい作品として、市中のゴミをアート化することを思いつく。四角い箱にゴミを詰めた作品は1つ50ドル。中身は空き缶や古新聞。たばこの吸い殻に映画の半券等々。どこの街にでもあるただのゴミでしかない。しかし彼の作品はあっという間にニューヨーカーの話題となり、売れ行きも上々。これまでに1000個以上が売れたという。

メディアでも話題に

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もちろんアートとして成立させるためにいろいろな工夫を凝らしている。すべての作品は同じプラスチックケースに入れられ、ゴミを回収した日付、場所、そしてシリアルナンバーが記載される。アーティスト自らのサインが入ることはいうまでもない。さらには腐敗やにおいのために生ゴミは扱わないといった配慮も行き届いている。作品は各方面で話題となり、アイルランドのパレードでのゴミを作品化するなど、活動は世界各地に及ぶようになってきた。逆に世界各地から観光客が集まるニューヨ?クのカウントダウンの時につくったゴミによる作品には、記念品として世界中から購入の申し込みがあったそうだ。

CNNは彼のことを「ジャスティン・ギグナック=ガベッジ・アントレプレナー(ゴミの起業家)」と称え、現代の都市社会におけるゴミ問題を提唱する起業家として紹介した。アイデアと社会性を併せ持つ、アートとしての価値は実際のその売れ行きが証明しているといえるだろう。政治集会やスポーツイベントでのゴミをアート化することで、社会への警鐘や各自の意識を高めるといった社会性が高いことも、彼の作品の評価を高める要因となっているようだ。共和党の集会で出たゴミによる作品は、市民の反ブッシュの意向を反映してかあっという間に完売になったという。

「街がきれいになるまでに私の作品を手にしてください」  なるほど、街がきれいになれば彼の作品は制作ができなくなるわけだが、逆説的にまさに彼は街の現状を憂えているというわけだ。痛烈な社会批判を込めているからこそ現代のアートとして認められ、そしてその社会性に共感する人々が彼の作品を購入していくのだろう。

最新ではシーズンが開幕したMLBに目をつけた彼は、すでにヤンキースタジアムのゴミの作品の販売を始めている。値段は限定品ということで100ドルだ。ゴミということを考えればいささか高額にも思えるが、飛ぶように売れているという。次はもちろんメッツのスタジアムからのもの。彼のアートに理解ができなくても大丈夫。サイトでは同様の主旨のもとにTシャツなども販売が始められている。そう、ビジネスとしても大成功しているが、いかにも現代のニューヨークアートシーンを象徴しているといえるだろう。

起業はお金儲けだけが目的ではないはずだ。社会へ何かを訴えたり、現状を変えたいという志が何かを起こす原動力になる。彼の場合、アートを通じて社会に発信したいという思いと、ビジネスとしての成立をあわせて考えたとき、このゴミ×アートのビジネスを考えついた。分野は違っても、これから起業を考える人には参考になるのではないだろうか。

次回は2008年05月16日更新予定。お楽しみに!

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