起業のヒントになる!? 米国発☆ビジネス最前線

起業のヒントになる!? 米国発☆ビジネス最前線 / 月2回更新

取材・文 / 田中秀憲

NY版の細腕繁盛記!?
――Sakura

起業が大変な苦労を伴うことは誰もが想像できるとおりである。どんなビジネスをするかに始まり、場所選びや人材の確保。事業資金の準備といった、起業であれば当然ついてくる諸問題をいかに解決できるかが成否のかぎといって良いだろう。ましてや外国での起業ともなればなおさらだ。言葉や文化風習、商慣習といったことに加え、何より外国人としての不利も承知で自らのビジネスに取り組まねばならない。しかし苦労が多いからといってしり込みしていては始まらない。どうやったら大変な困難に立ち向かえるのか。ある女性起業家の姿に学ぶことができそうである。

技術・品質・サービスに注力

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ニューヨークに、ある一軒のネイルサロンがある。もちろんこの街で珍しいわけではない。しかしそれが日本人の経営となると話は少し違ってくる。ニューヨークのネイルサロンは、中国系もしくは韓国系の方の経営であることが多く、海外からの進出というのは有名大手以外では皆無に近い。しかしこのお店「サクラ」の経営者は実は若き女性。彼女は日本からたった一人でニューヨークにやってきて起業。順調な成長を果たした後に今年2店舗目の開店を目指して奮闘中である。絵にかいたような成功事例ではあるが、実は彼女は本当に自分一人の力でここまでたどり着いたのである。

加納由美子氏がニューヨークに店を開いたのは2007年の春先のこと。この記事が読者の方々の目に触れる頃にはちょうど1周年を迎えようとしているわけだ。アッパーイースト地区、有名人も多く住む高級エリアだが、その一角にサクラはある。高い技術はもちろんのこと、素晴らしいセンスと卓越したサービス。そして何よりスタッフたちの心遣いに感銘したセレブたちや常連客が足しげく通うのがこのサクラなのである。

「最初は、『ニューヨークなんてねえ』って思っていたんですよ」
 と彼女は屈託なく笑う。アート面の充実や街の雰囲気などから、海外1店目は当初は欧州を計画していたそうだ。そう、実は彼女が開業したのはサクラが初めてではなく、故郷である熊本で数店舗のネイルサロンを経営している。でもちょっとした縁があって、ニューヨークでも展開することに。今ではこの街の魅力に取り憑かれているという。若い女性が独力で切り開いた日米のネイルサロン。彼女のその細身の身体のどこにそんなバイタリティがあるのか、ちょっと見には想像もつかない。しかし一度彼女と会って話を聞けば納得だ。ビジネスを語る彼女は、そのときだけは普段より素晴らしく大きく輝いて見えるのである。

「最初にネイルを始めた時には、ただ人が喜ぶ顔が見たかっただけなんです。そのためには高い技術も、より良いサービスも必要。厳選された品質の材料も絶対です。そのことに気付いてからは特に細心の注意を払ってきました。そして、こっちに来ても本質に違いはないとわかりました。だからこちらでも受け入れてもらえる。『アメリカだからそこまでは必要ないのでは?』というスタッフには徹底的に理解してもらうよう努力しました。こっちでも日本での高い水準を再現できなければ絶対失敗すると思いました。そこが私のお店の最大の点だと信じていましたから、頑固にやりましたよ(笑)」

ビジョンを伝える

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「とにかく、人が大切です」
 はっきりとそう言い切るその姿には、毅然とした経営者としての風貌が満ちあふれる。
「スタッフの教育の徹底にはとにかく時間をかけました。私のビジョンを共有できる方を選んでいます」
「良い悪い、技術が高い低いではなく、方向性の問題です。私は自分が良いと思った方向へ進みたい。だからそれに同意してくれるスタッフをそろえたい。それだけなんです」
 やむなく辞めていったものに対しても、技量不足などを指摘することなく、ただ路線が違うだけだったと気を使う彼女。こういうところが起業家として、経営者として、そして店ではトップの技術者としてスタッフたちに慕われる大きな要因となっているのであろう。

また、店の実現に向け進み始めてからは、本当に苦労の連続だったという。しかし彼女は全くの正攻法でこれらの諸問題を次々に解決していった。
「店の場所はやはり悩みました。でも良いところを見つけて、外国人がいきなりやってきて貸してくれって言っても相手にしてもらえないんですね。また近所の同業者が客を取られるのではないかと圧力をかけてきたこともあります」
「でもどんな時でも、いつかそのうちわかってくれました。不動産業者も理解してくれたし、近所のネイルサロンとはそもそも競合しないので、今では良い関係を築けています。様々な経費も、自分が頑張れば出費を抑えるやり方はいくらでもあるものですよ。そういう時にはやはりいろいろな人のサポートがあるものです」

あきらめないこと

海外で起業するという夢を持つ方は多いと思う。しかしその多くが、「資金提供者がいない」「知り合いもいないし」「英語もできない」といった、ネガティブなことばかりを最初に口にするのではないだろうか。事実そのとおり、「ニューヨークで自分の店を持つ」のは華やかでカッコいい。しかしそれを実行に移そうと思ったら苦労は想像を絶するだろう。しかし彼女はこう語る。
「あきらめないこと。だってできない理由は簡単にいくらでも見つかりますから」

加納氏もコネも後ろ盾も資金提供者もない中で開業し、そして自身のビジネスを成功へ導いている。海外の大都会で細身の女性が素晴らしい成功を収めているのだ。彼女に聞いたその信条とは、
「スピードです」
「とにかく早くアクションを起こすこと。決断力が何より大切です」
 なのだそう。彼女の普段の穏やかな口調からは伺い知ることはできないが、しかし成功者から発せられる言葉故に、重みを持って聞こえてくるから不思議だ。

今年中には2店舗目、それも全く違う種類のお店を開きたいと語る彼女の目は輝いている。
「いつかニューヨークの良いものを日本に持って帰りたいですね」
 夢はまだまだ終わらないようだ。

次回は2008年04月25日更新予定。お楽しみに!

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