起業のヒントになる!? 米国発☆ビジネス最前線

起業のヒントになる!? 米国発☆ビジネス最前線 / 月2回更新

取材・文 / 田中秀憲

セレブ令嬢は堅実な実業家
――ディランズ・キャンディバー

世は2代目ばやりだ。政治家やタレントに始まり、実業家の2代目なども様々な業界での躍進が目立つ。アメリカで実業家の娘として有名なのは、奔放な振る舞いや発言の数々でおなじみの、ヒルトンホテルグループオーナーの娘、パリス氏だろう。しかし大企業経営者の子息や令嬢たちが皆同様かといえばもちろんそんなことはない。今回は様々な面でいかにもアメリカ的な、ある実業家の2世でかつ起業家という人物を取り上げたいと思う。

実業家令嬢の新ビジネス!?

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事業家の2世には、親のビジネスをきちんと継承する人もいるし、自身で新しいビジネスに飛び込んでいく人もいる。もちろん資金面をはじめとして、彼らはビジネスを始めるに当たっても親の資金力やコネを最大限に利用し、失敗などはなから考えていないようにも見える。しかしそのような状況だからこそ、あえて厳しいビジネスに進出しようとする気概のある人材もいないわけではない。そんな一人がディラン・ローレン氏。名前を聞いて想像できるように、彼女はニューヨーク発のデザイナーとして著名な「ラルフ・ローレン」の創業デザイナーであるラルフ・ローレン氏の愛娘なのである。

2代目はしっかりもの

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ディランズ・キャンディと名付けられたそのお店は、当然のごとくマンハッタンの中心地に最初の出店を果たした。オープンは2001年の10月。テロ直後で景気は最悪な状況下ではあったが、華やかな店の雰囲気が暗い気持ちを吹き飛ばすとして、そしてもちろんあのラルフ・ローレンの娘の店として多数のメディアから取材を受けたことなどもあり、あっという間に大人気となった。

その業種はといえば、名前からわかるように「キャンディ」を中心とした菓子類の販売だ。店舗内外は現代風のおしゃれでポップなデザインが施され、商品の種類は数えきれないほどだ。店内にはカラフルなキャンディやチョコレートとともに、Tシャツやブローチ、バッグなどの小物類が並べられ、それらの包装も色鮮やか。当初は、メディアの報道や口コミであっという間にニューヨーカーの間で人気となった。ディラン氏いわく「アメリカ人はキャンディが大好きだし、値段も安く誰もが買えるのだから、ビジネスとしては可能性が高いと思ったのよ」と、このビジネスを選んだ理由を述べる。しかし彼女の真意は別なところにあったのである。

ビジネスの真意は?

いかに有名人の娘とはいえ、客単価を高額に設定しにくいキャンディという商品。最初は人気がでても、ビジネスを順調に成長させるのは困難だろうと推測されていた。オープン当初の取材でディラン氏自身が父親の援助を受けていることを公にしたこともあり、一過性の人気でしかないと冷めた見方が多かったことは致し方ない。事実アメリカには、有名人の名を冠したレストランやブティックが無数に出てきては破綻するということの繰り返しなのだからそれも当然だ。

ところがディラン氏は、菓子販売というビジネスでの成功を目指したのではなかったことが徐々に知られてくる。この「ディランズ・キャンディ」というビジネスは、店舗を利用して、他分野のビジネスのリサーチ、マーケティング代行業としての価値を見いだそうとしたのである。つまり、異業種の企業と提携し、店舗スペースに他社の商品などを展示して、消費者動向を調査したり、テストマーケティングを行うのが真のビジネスモデルなのだ。

起業家の気概とは

また「ディランズ・キャンディ」というビジネス名をそのままブランドとして認知させるために様々な工夫を凝らしている。店舗デザインやロゴマーク、商品のパッケージなどすべてがきちんと統一され一貫したイメージを醸し出すように細心の注意が払われている。また父の名前を公表し各種の取材を受けるのも、社名を認知させブランドとして成立させるためのものなのである。

もちろん最初の提携先はラルフ・ローレンであった。第1号店に並べられたTシャツ類のデザインを同社に委託。親の七光りだなどともやゆされたのは仕方ないが、しかしその最初の例が成功裏に終わったことで、すぐに様々な企業がディランズ・キャンディとの提携を申し出てきた。今ではTシャツやアクセサリー類、小物類などに始まり、なんとライバル視されてもおかしくはないほかの菓子メーカーまでも、ディランズ・キャンディの店内の一角に専用の商品を並べるまでに至っている。

ともすれば、資金力や知名度など2代目のメリットを活用して、ブティックやアクセサリーショップをオープンすることはたやすかっただろう。しかしディラン氏は自身の境遇を振り返り、可能性がありそうなビジネスモデルにチャレンジしたのである。  未来の起業家たちは彼女の恵まれた境遇をうらやむのではなく、彼女が持てるものをいかに活用したのか、そのセンスとアイデア、そして気骨とチャレンジ魂にこそ学ぶべきではないだろうか。考えることや工夫することは誰にでもできるはずである。

次回は2008年3月14日更新予定。お楽しみに!

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