起業のヒントになる!? 米国発☆ビジネス最前線

起業のヒントになる!? 米国発☆ビジネス最前線 / 月2回更新

取材・文 / 田中秀憲

小規模でも大人気の書店
――ブック・オブ・ワンダー

マンハッタンの街角にひっそりとたたずむ小さな書店。店内には静かに音楽が流れ、常連客もたまたまの行きずり客も、わずかながらではあっても充実した時間を過ごしているように見える。そして実はこんな書店はマンハッタンにはなぜか多い。それがどんな業界であれ、大手が一気に市場を席巻することが多い現在にあって、小さな書店が意外なほどしっかりとした経営を行い続けることができるのはなぜだろうか。そんな書店の一つである「ブック・オブ・ワンダー」を例に取り、大手とは違う方向に活路を見いだす個人事業者の好例をご紹介したい。

小さな書店が点在するNY

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『恋におちて』や『ユー・ガット・メール』など、マンハッタンの書店を舞台にした映画は意外と多い。もちろん書店ビジネスの主流となるのは大手チェーンだ。バーンズ・アンド/ノーブルやボーダーズといったところは、広大な売り場スペースとDVDや音楽CDまで含む多様で膨大な在庫。市中の要所に位置する立地条件や併設するカフェなど、お客が満足できる店舗づくりには「さすが大手」とうなずかざるを得ない。

しかし同時に小規模?個人営業に近い書店も無数に存在するのがマンハッタンである。狭いマンハッタンではあるが、実は大小様々な500店以上の書店がひしめいている。そして数の上で主流となるのはやはり小規模な書店だ。大都会マンハッタンにあって、彼らならではの落ち着いた、そして都会の喧噪から一時離れられそうな雰囲気が絶好なのか、映画の舞台として様々なシーンで使用されている。ニューヨーカーにとっても観光客にとっても、そんな書店はマンハッタンにはなくてはならないものの一つといえるだろう。

独自性がキー

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日本なら、小さな書店の近くに大手のブックチェーンが出現すれば、あっという間に経営に支障を来すのが当然だろう。なぜそのような小さな書店が、マンハッタンでは健全に経営を続けられるのであろうか。それは、それぞれが独自の路線を貫くことで特色を出し、その結果、熱烈なファンを捕まえていることにほかならない。「何でもあります」の大手にはできない「個性」を前面に押し出しているからこそ、彼らは大手に押しつぶされることなく共存しているのだ。

マンハッタンにはその名を知られた書店がいくつもある。チェーンでないにもかかわらずその規模と歴史から、伝説の書店とも言われる「ストランド」。写真集だけを扱う「ダッシュウッド」。伝記を中心に扱う「バイオグラフィー」。寄付を中心に営業され、その収益を再度慈善事業に寄付をしている「ユーズドブックカフェ」。食事とワイン関連専門の「キッチンアートアンドレターズ」、ミステリー小説ばかりの「マーダーインク」。そして『恋に落ちて』で舞台となり一気に世界的に有名となった「リッゾーリ」。特色のある書店には枚挙にいとまがない。そして子供向けの本ばかりを充実させた「ブック・オブ・ワンダー」もそんな書店の一つである。

基本は顧客第一

「ブック・オブ・ワンダー」はマンハッタンの中ほどに位置する。市内外のどこからでも訪れやすく、また都心からは少し離れているために、子供連れのお母さんが喧騒に悩まされることもない。店内も陳列された本棚同士の間隔は広めで、ベビーカーを押しながらのお母さんの横を子供が駆け抜けても十分余裕がある。一方出入り口は勝手に子供が出ていかないように、こちらはあえて狭めで2カ所に絞ってある。

子供の視線で本を探しやすいように、そして一人で歩き回る子供を親たちが見つけやすいように本棚は低め。店内にカフェが用意されているのはほかの多くの書店同様だが、そのメニューはカップケーキなど子供とお母さんに喜ばれるようなものが中心。天井まで本棚がそびえ立ち、濃いカプチーノが人気の大手書店とはこのような面でも一線を画す。

マネージャーのマイク・カバナーフ氏は、「子供たちがお客様なのですから、我々の行為は当たり前でしょう」
と、ウインクをしてみせる。なるほど、あくまで主体は子供たちであり、そしてビジネスの基本は顧客へのサービスということなのであろう。事実、同店には米国内外からの取材も多いのだが、取材陣には店内で子供たちに万が一のアクシデントも起きないよう、厳しい取材制限を課せられる。ビジネスの基本は顧客第一ということを、たとえ子供相手でもきちんと実践しているからこそ、母親たちも安心してここにやってくることができるのであろう。

大手チェーン網というビジネススタイルは米国が発祥であり、現在ではあらゆる業種で主要な地位を築いている。しかしその一方で個人事業者が営むごく小規模のビジネスも、大手同様に多様な生き残りの道が残されているのが、米国産業界のおもしろい面であろう。

次回は2008年02月29日更新予定。お楽しみに!

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