起業のヒントになる!? 米国発☆ビジネス最前線

起業のヒントになる!? 米国発☆ビジネス最前線 / 月2回更新

取材・文 / 田中秀憲

日本発!NYで人気のお店
――博多トントン

美しくなるための料理と聞いて、どのような料理を思い浮かべるだろうか。しかも日本からの進出。さらに、今までニューヨークには似た店すらなかったのだ。分厚いステーキやハンバーガーがアメリカ料理の代表だが、それらの対局とも言えるそのお店は今や大人気。今回ご紹介するお店、『博多トントン』には要注目である。

このお店は、美容に良い、コラーゲンたっぷりの豚を使ったメニューが中心。日本なら同様の飲食店も少なくないだろうが、ここはニューヨーク。都会ゆえ美容や健康に気を使う人や、ジム通いが日課というビジネスパーソンも多い土地柄。とはいえ、市中のレストランでは、まずその量に圧倒され、美容や健康に最適であるとは言い難い。一方、一流モデルや有名女優など美を追求する人々も多く、彼らのために様々なサービスが提供されている。そして博多トントンもそんな人々に大人気だ。店があるのはグリニッジビレッジ。北をチェルシー、南をソーホーに挟まれ、ニューヨークでも最もおしゃれな人々が多く住む地域の一つである。

海外起業ならではの苦労もあった

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オーナーの岡島氏は、九州の博多で数店のレストランを経営した経験を持つ実業家。病気をきっかけにそれまでの仕事に対する考えを改め、心機一転新しい方針でのビジネスをスタート。そしてその目標の一つとして「世界各国への出店」を掲げ、海外進出の第1弾としてここニューヨークに店を構えたのである。

岡島氏が、福岡のお店で出していた料理の中に、非常に人気のメニューがあったという。それが豚足を使った料理だった。もともと誰も使用しないことで格安で仕入れることができ、食材としても無駄にならない。にもかかわらず、美容や健康にも良く味は上質。お客もお店も、そして仕入れ先までも、皆が良いことだらけだった。
 「単独の店舗でやっていけるに違いないと確信した」
 と岡島氏は言う。(以下コメントは全て岡島氏)

そして氏が目指したのはニューヨーク。博多の店では黒豚を使用していたが、その黒豚の元となったバークシャー種の豚足が入手できることがわかり、一気に創業へと突き進む。しかしなんといっても海外でのこと。苦労は絶えなかったという。
 「お店の賃貸契約など法的なルールの違いから始まり、商慣習の違い、そして外国人としての制限や差別。いろいろと大変でしたね」

しかし自分の志を信じる岡島氏には、徐々に周りに手助けをしてくれる人々が集まり始める。各種法律業務を行っていた弁護士が、岡島氏の熱意にほだされ出資者として名を連ねることとなる。
 「豚を食べないはずのユダヤ人の弁護士2人が私のビジネスパートナーなのです」
 と笑う岡島氏だが、彼自身も日本からスタッフを招聘。岡島氏の夢は急速に形となって実を結んだのだ。

そしてオープンは2007年の10月10日。店の名前、「トントン」とかけているという。
 「ですから何が何でもこの日にオープンしたかったのです」
 氏はこう回想するのだが、海外での起業ともなればそう物事がスムーズに進むわけではない。実際店舗の契約を終えたのは10月の2日。たった1週間で開店までのすべての作業を終えねばならず、米国の事情を知る周りの人々は「とてもじゃないけど無理でしょう」と言っていたのだという。

オリジナリティが市場を形成する

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しかし10月10日、無事にお店はオープン。開店の日にはどこからか情報を聞きつけた三大ネットワークの一つ、CBSが中継を行うなどその注目度は最初から高く、オープン初日から予約で満席。その後も口コミなどもあり大人気の状況が続いているのだという。そしてお店にやってくるお客は日本人もアメリカ人も男性も女性も全く垣根がないというのも驚きだ。
 「最初は日本人とそれ以外で8:2くらいかなと思っていましたが、今は6:4程となっています。意外と早くアメリカに受け入れられたのかなと思いますね」

2人のアメリカ人パートナーはユダヤ人。共同経営者であるにもかかわらず最初はやはり豚足を食べることができなかったという。
 「しかし今ではおいしいと言ってくれるのですから、市場は我々が開拓していっているのだという自信があります。これまでなかったお店ですから、受け入れられるまでに時間がかかるかなとも思いましたが、意外と浸透は早かったです。こうなればもう亜流のお店など出てきても怖くはないですね」
 とその人気ぶりに自信を見せる。起業に関しては、
1.戦わずして勝つこと
2.敵を作らずに勝つこと
を心がけたというが、確かにそれは実行されている。

博多トントンの成功に刺激されたわけでもないだろうが、ニューヨークには近々博多から有名ラーメン店の進出が予定されている。
 「お店には絶対に『博多』とつけたかったのです。日本ってのは東京や大阪だけじゃないんだぞっていう気持ちはすごくありました。ラーメン店の出店なんかはとても素晴らしいことだと思いますね」
 と、郷土意識の隆盛にも目を向けている。
 「ニューヨークで『博多』ブランドが盛り上がったりすれば素晴らしいじゃないですか」
 地元志向というよりはグローバルな視点からの言葉であろう。

博多トントン、そして岡島氏の成功の秘けつはどこにあるのだろうか。もちろん氏には長年の起業経験、そして飲食業界での実績があったことは事実だ。しかしそれだけで日米での成功を手にしたわけではない。
 「自分が一番やりたいことは何なのか、そしてどこに向かうのか。この2つを最初に考えることが、仕事のうえ、そして人生のうえでも良い結果につながるのだと思っています。かつて『自分の店を持ちたい』という夢を持ち、実現しました。でもそれでは先がないのです。何をしたいのかとそこからどこに行くのか。これが大切だと信じています」
 その意味でも、最初の海外出店がニューヨークというのは良かったという。
 「日本人が忘れている『感じること』がちゃんと生きている街です。何より発想が自由ですし、今となっては『帰ることのできる場所』ですね」
 岡島氏の目は、すでに次の起業の地、スペインはバルセロナに向いているのだそうだ。ニューヨークでも状況を見る限り成功の可能性は高いと思われる。

次回は2008年1月18日更新予定。お楽しみに!

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