読者の中にも、フランチャイズチェーン(以下FC)への加盟を検討されている方は多いことだろう。居酒屋、コンビニエンスストアや学習塾、自動車販売など選択肢は無数だ。今回ご紹介するFCは、日米問わずポピュラーなハンバーガーのチェーンで、決して大手ではない。しかし、大手がひしめく業界にもかかわらず、堅実な成功を収めている。その秘けつはどこにあるのだろうか。そのハンバーガーチェーンの名は「ファット・バーガー(Fatburger?訳:太ったハンバーガー)」という。
ファット・バーガーが同社の特徴として、彼ら自ら挙げているのは
・すべてのハンバーガーは注文してから直火で焼く
・100%高品質の牛肉だけを使用し、冷凍肉などは使用しない
・オニオンリングやフライドポテトも冷凍ではなくその場で調理
・アイスクリームも自家製
・コレステロールゼロの油で調理
・常に店内がジュークボックスによる音楽で満たされている
などたくさんある。冷凍肉を使用しないというのは、調理に手間もかかるし、安定した仕入れも困難。もちろんコスト面からもできれば避けたいことである。高級店ならいざ知らず、市中のハンバーガーショップの経営では市場変動に合わせて値段が上がれば客足が遠のく可能性もあり、経営側からはリスクも大きいだろう。そして50年以上、品質を維持するとなるとこれはますます容易ではない。ここにファット・バーガーの成功の要因がある。ファット・バーガーの他社に対する優位点とは、その面倒なことを地道に継続してきた点にあるのだ。
創業者のラビー・ヤンシーがファット・バーガーの第1号店を開いたのは1952年のこと。とあるジャズバーで働く彼女の作るハンバーガーのおいしさに感銘を受けた友人たちの勧めで、店を開くことになったという。彼女には潤沢な資金はなく、友人の助けを得てなんとか開店にこぎ着けた。しかし料理には手を抜かなかった。そしてファット・バーガーは50年以上たった今でも同じようにおいしいハンバーガーを作り続けているのである。
現在では全米20州に80店舗ほどを展開。ハンバーガーのチェーンとしてはさほど大規模なものではなく、またその価格帯や調理の手間などを考えれば、どちらかといえばファミリーレストランの範疇に近いともいえるだろう。実際、注文してからテーブルにハンバーガーを乗せるまでには10分ほど時間がかかり、決して「ファスト」ではない。また他の大手チェーンと異なるのは、店舗の雰囲気で、50年代風の内装に統一されている。これもまた人気の秘けつである
そして同社のもう一つの特徴は誰もが一度で覚えるその名前だ。これが同社のもう一つの大きな柱であることは言うまでもない。しかもその名に恥じないボリュームのあるメニューと味とぴったりマッチ。しかしこの健康志向が強い時代、「太った」ハンバーガーなどという店名は、悪影響を及ぼさないのだろうか?
全米には無数のハンバーガーチェーンがある。しかし全米規模で成功したチェーンは少ないし、味で勝負できるところはさらに少ない。
「FAT」という名前にすることで同社の知名度がグンとアップしていることは言うまでもない。実は英語の「FAT」には「太った」という意味以外にも、「裕福な」や「豊かな」といった意味もあり、更には肉などを指す場合は、「最も良い部分」を指すこともある。つまりファット・バーガーとは、「とっても高品質なハンバーガー」という意味でもあるのだ。90年にNBCテレビが主要なハンバーガーチェーンをいくつか取り上げ、健康への影響を調査したことがある。そこでなんとファット・バーガーは一番健康的な素材を使用していることが実証されたのだ。素材にこだわった結果であることは言うまでもない。同社は「最後の偉大なるハンバーガーショップ」と呼ばれることさえあるのだ。
ファット・バーガーの年商はおおよそ20億円。80店舗のチェーンとしては好調なセールスといえる。そう、ファット・バーガーには熱烈なファンが多いことでも知られているのだ。経営陣には元バスケットボール選手のマイケル・ジョーダンが名を連ね、女優のクイーン・ラティファは、自身のキャラクターと合わせる形でファット・バーガーのファンであることを自認している。また多くのコメディドラマやミュージシャンのアルバムなどで同社のことが取り上げられ続けている。このように各界からの熱烈なファンが成功を支えているともいえるし、これまでの地道な企業努力がファン獲得に結びついているともいえる。同社では自社マーク入りのTシャツやトレーナーまで販売している。人気の程が伺える一面である。
どこの店舗も成功を収めているという点で、FCビジネスとしてもファット・バーガーはご紹介するに値するだろう。実際同社の経営手法には成功のためのヒントが多い。
同社広報のケリー・テンプレアーさんはこう述べる。
「フランチャイズビジネスの成功は、最初にどこに加盟するかで決まります。既に成功事例がある当社のようなFCへの加盟は、最も良い選択でしょう」
と、自社の我田引水はともかく、その選択が重要であることは筆者も同意見である。
FCの加盟を検討する人にとって、会社の規模や知名度は、本部の信頼度にもつながり、重要な選択基準といえる。しかし、その名前や見た目、規模や数字に表れない企業姿勢や将来へのビジョン、ユーザーへの提供価値に対するこだわりも十分吟味したいものである。
今後も、折に触れ米国のFCのご紹介をしていくつもりだ。読者の方々の今後の参考にしていただければと思う。