家財道具の収納に悩まされている方は多いだろう。特に、衣料品や趣味の道具など、年のうちの一定期間は収納しても構わないものだけでなく、本来手元に置いておきたいものまでがその収納場所を圧迫しているケースも多い。米国でそんな人々に人気なのが今回ご紹介するストレージサービスだ。
広大なアメリカといえども、マンハッタンなどの大都会ではやはり部屋は狭く、当然その収納スペースにも限りがある。そしてそんな都会に住む人ほど、季節ごとのワードローブに加えゴルフ/スキーといった趣味も多く、それぞれが結構なスペースを占拠してしまうのが悩みの種だ。
ところで、景気が良ければ街には新しいビルが次々と建てられ、人々はこぞってそんな新しいビルへの入居を希望する。不景気の場合には逆に不動産の売買や賃貸の動きは減り、結果として、古く汚いビルはいつまでたっても入居者を見つけることが困難となる。ビルのオーナーは建て替えか改築かを選択しなければ資産を無駄にしてしまいかねず、しかしそれには多額の経費を必要とする。
そんな両者の悩みを解決するのが、今回ご紹介するストレージサービスだ。マンハッタンはもとより近郊の住宅地、他州まであちこちで多く見られるこの事業。いつ頃から始まったのか、また誰が始めたのかなどははっきりしない。しかし今では、ニューヨーク/マンハッタンのみならず、全米各地で当たり前のサービスとして市民に親しまれている。
ビルの所有者は入居者が見込めそうにないビルの内装を手直しして、利用者が彼らの所有物を収納しやすいように区切ってかぎを取り付けるだけ。ちょうど大型のコインロッカーをビル全体に設置するようなものと考えればよいだろう。その収納スペースは様々で、またその利用料金はニューヨーク郊外の住宅地で六畳程の大きさで月額100ドルから150ドル程度。都心に近ければ比較的高めとなり、セキュリティや各種付帯サービスによっても価格は上下する。従って利用者は収納したいものの量や各自の都合にて業者を選べばいい。
たとえば大学卒業後にマンハッタンで就職して数年を経たビジネスマンが転勤で西海岸はロスへ引っ越したとする。西海岸での勤務はたったの3年程度。また本社に戻ることが予想されるのなら、スキーの板や冬物の衣料をわざわざ運ぶ必要はない。そこで近郊のストレージサービスの登場となるわけだ。彼の場合は荷物を出し入れする機会はほとんどないだろうし、料金は安い方がいい。貴金属や資産価値のあるようなものは転勤先に持参するので、セキュリティが特に厳重である必要はない。であればやや遠方の、しかしスペースが広く料金が安い業者を選択するとなるわけだ。
一方、田舎町でもこのサービスは有効だ。家族が代々住むような旧家では、おばあちゃんやおじいちゃんの宝物や先祖の遺品、孫たちの子供の頃の記念の品まで、家の中にあふれる品々はいかに大きな屋敷といえどもなかなか収納しきれるものではない。また、古い家を大改築する際などでも家具や食器類などを一時保管する場所として利用されることも多い。町役場や地方裁判所などがその資産や過去の記録を保管する目的で利用したり、鉄道会社が遺失物の保管に利用することもある。
そもそもアメリカでは、不動産は個人/企業を問わず、購入後も生活/ビジネススタイルの変化や収入の多寡により、その時その時でどんどん変更していくという考えがある。特に都会ではその傾向が強く、いったん購入した後は一生の資産として見なす傾向が色濃く残る日本とはいささか状況が異なる。またかねてより冬物衣料の保管サービスなどは一般的であり、そのような社会背景から、このストレージサービスは市民にとって、なんら躊躇する理由は見あたらないサービスといえる。
ビジネスユースでもアメリカならではで、さらに利便性を求めての利用が多い。温度や湿度の管理まで行き届いた施設も多いため収納物を選ばず、また早朝から深夜まで自由に出入りできるところが大半で、24時間出入り自由なところも多い。電子キーによる入出管理も普及し、その安全性は貴重品をオフィス内に所蔵するよりも安全なほどだ。このような状況から、狭いオフィス近くの業者と契約することで、オフィスの家賃を抑えたまま収容スペースの確保も実現するといった、経済的メリットの大きい利用方法は今や当たり前。セキュリティの厳重な場所を選択し、一般社員が重要書類に手を触れることが出来ないようにしたり、出歩くことが多い営業マン向けに、社員の自宅近くにスペースを確保し、資料や商品を適量充当しておくなどという利用方法も目立つ。
空きビルをもてあます不動産業者にとっては手っ取り早く資産を活用する手段であるとともに、もしそのビルに入居者や買い手が現れたら、近隣の同業者へ保管物を移管することで、利用者へ迷惑をかける度合いも少なくなる(注1)。利用者にとっても業者にとってもメリットが多く、簡便かつ費用対効果を見込める秀逸なニッチビジネスといえるだろう。日本では倉庫や押入れとしてのニーズが中心のこのビジネスだが、今後は米国同様日常のビジネスのサポートとしてのサービスの充実が進むことだろう。
インターネット時代を反映してか、各社で見積もりや空き状況、予約や期間の延長手続き、支払いなどをオンラインで行うことができるようになってきた。また需要の多さから、一戸建てに住む家主が、自分の家の空きスペースをストレージサービスとして貸し出したりするサービスも現れ始め、そのためのオンラインサイトまで出てきている(注2)。日本でも空きビルを所有するオーナーたちは一考に値するのではないだろうか。
注1)おおむねどの業者も、ビルの売買や解体などの際の特約事項が契約書に含まれているのが一般的。
注2)各家庭の空きスペースを売り買いするサービスのオンラインビジネス。
http://storeatmyhouse.com/