起業のヒントになる!? 米国発☆ビジネス最前線

起業のヒントになる!? 米国発☆ビジネス最前線 / 月2回更新

取材・文 / 田中秀憲

お客とショップが互いに癒し合う――はんなり

ペットを愛する人は多い。それはアメリカでも同様だ。ペットショップは無数にあり、また大手チェーン店も多いアメリカで、ある日本のお店が意外な人気を集めているという。それが今回ご紹介する「はんなり」だ。

ニューヨークの東20kmほどの郊外に、大規模なショッピングモールがある。その昔『翼よ、あれがパリの灯だ』で有名なリンドバーグがパリに向かって出発した場所だ。かつて滑走路だったその広大なモールの一角に「はんなり」は2005年の春先にその小さなお店をオープンした。

米国進出は堅実に

犬の洋服

実は「はんなり」を経営する「クリエイティブヨーコ」社は日本で雑貨やドッグファッションを展開して、すでに25年ほどの歴史がある企業だ。社員の一人がニューヨークでの研修中に自社製品の可能性を感じたことが、米国進出のきっかけだったという。

まず最初に決めなければならないのは出店場所である。「はんなり」が選んだのは先述のとおり、ニューヨーク近郊の大型ショッピングモール。通常日本から出店するとなると、マンハッタンなど華やかなエリアを選びがちだが、同社は、ペットを飼う家庭が多く比較的裕福な層が中心のエリアを選択。実質的なメリットを重視した結果だ。

ショッピングモールへの出店も前提条件だったという。モールは安定した集客が見込め、マーケティング面ではメリットも多い。一方、入居のための条件やその契約には制限も多く、出店する側にはある程度の長期計画が必要とされるが、そのいずれも「はんなり」には好都合であった。モールの担当者も非常に気に入ってくれたこともこの場所を選ぶ後押しとなったという。

場所が決まった後は商品の選定だ。日本で売れ筋のものを中心に吟味を重ねてラインアップを決定。事前に考えられる限りの手を尽くし、準備万端整ったうえでの米国進出であった。

日本で売れるものはアメリカでは売れない?

そんな堅実路線の「はんなり」だが、それでもやはり当初は苦労の連続だったそうだ。まず最初は、オープンが大幅に遅れたのだという。

「内装工事が長引いて、2004年12月のオープン予定が翌年3月にまで遅れてしまいました」

プレゼントが飛び交うクリスマスを逃した痛手は大きかったが、人事面でも困難が待ち受けていた。

「せっかく雇用したスタッフもオープンが遅れたことで離れてしまいました」(小野淳二氏:Pretty Yoko,LTD 「Mother garden」ストアマネージャー任者)

「日米の就業慣習の違いなど大変苦労しましたね」(古川勝伯氏:株式会社クリエイティブヨーコ、海外事業部マネージャー)

店内風景

そして一番の見込み違いが露呈する。日本で人気の商品が全くと言っていいほど売れなかったのだ。

「アメリカらしいカジュアルなものが人気で、(日本で人気だった)ディスニーキャラクターなどは全く駄目でしたね」(ケイコ・ギルバート氏:「はんなり」ストアマネージャー)

また、日米の商慣習の違いにも驚かされた。

「ハロウィーンの仮装用に購入して、終わったら返品ということなどもあり、日米の違いには本当に驚きました」(小野氏)

成功は地道な努力の上に

しかし現場スタッフの奮闘もあり、徐々に固定客もつき始めた。また、日々の売れ行きを見ながら細かく商品構成を検討し直し、日本側へリクエストを出すなど地道な作業も続けられたという。

「例えば雌の小型犬だと、日本ではピンクでフリルがついたようなものが人気ですが、こちらではすっきりとしたカジュアルなものが人気です。センスの違いは大きいですね」(ギルバート氏)

プレゼントとしての需要が高まると、知人のペットのサイズがわからないことから、購入した後に返品交換というケースも増えた。その対策として大小様々なサイズのぬいぐるみを用意し、それをお客さまに実際に抱きかかえてもらうことでペットのサイズを確認し、サイズ間違いが起こりにくいような工夫も取り入れている。実際にこの方策を取り入れてからは、サイズ違いでの交換はずいぶん減ったと言うことだ。このような細かな試行錯誤を重ね、今ではモール内でも人気のお店になったという。

人気の秘けつはスタッフにあり

「はんなり」の人気の秘密は、
1. センス良いデザインと質の高さ
2. バラエティあふれる商品構成
3. 手頃な価格
などがあるだろう。確かにこれらは成功の大きな要因だ。しかしそれらは目に見える理由でしかないようだ。

「モールに来るたびに最初に店を訪れてくれるお客さまなどいます。もちろんペットたちが一緒のことも多いのですが、それで我々スタッフも癒やされています。あり難いことですね」(ギルバート氏)

「もっと多くの方に我々の商品を知ってもらい、皆さまが癒やされてほしいのです」(古川氏)

ハンガーに並べられた衣類と、美しいケースに収められたアクセサリー類。品よく展示される商品と笑顔で接するスタッフたち。「はんなり」はペットと飼い主、双方のためのブティックなのである。そしてそれを支えるのは、日々の努力と感謝の気持ち。それらがいかに大切かは、この米国でも同様のようだ。2006年11月にはマンハッタン内のSOHOにも出店。また近々、三店舗目もオープン予定とのこと。着実に米国のペットオーナー達の心を掴みつつあるようだ。

次回は2007年9月21日更新予定。お楽しみに!

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