CASE67人事コンサルタント

“リストラ推進”業務を超え退職。現在は人事全般を支援するプロに

大学卒業後に入社した大手アパレルメーカーで、中澤さんは35年間人事一筋で働いてきた。その経験と実績を生かし、人事コンサルタントとして独立。今年、プロワーカー歴11年目を迎えた。

前職では、労働条件や人事諸制度の構築、採用教育、海外研修制度、メンタルヘルス対策など幅広い視野で人材育成や組織の活性化に貢献する業務を手掛けてきた。しかし、中澤さんに課せられたあるひとつの業務が、会社員生活にピリオドを打つ結果を招いた。それは「リストラを推進すること」だった。







「不景気のあおりも受け、会社の経営にかげりが見えてきたことで、ついに会社としてリストラに取り組まざるを得なくなりました。希望退職制度を作り、各事業所を回って説明会を開きました。すると、前のほうの席に座っている人のほとんどは私がかつて採用面接をした幹部候補生たち。彼らに退職を考えてもらえないかと切り出すのは、本当につらかったですね」

そして希望退職者の募集は1回で終わらず、2回目の募集を行うことに。しかし、その業務は中澤さんを苦しめた。心理的に「さらにリストラを進めるのに、このまま自分が在籍していてはいけない」と感じて、3回目の募集を行う前に退職を願い出た。

「入社当時は東証2部に上場したばかりで小さな会社でしたが、皆の努力で労働条件も業界トップクラスまで引き上げることができましたし、人事として会社の成長を支えてきた自負がありました。会社に愛着もあったから、余計につらくなったんですね。それまでは『50代半ばで独立できたらいいな』と漠然と考えることはありましたが、まさかこういう形で独立のきっかけを得るとは考えてもみませんでした(笑)」

退社してしばらくは、どんな仕事を手掛けていくか、どんな形で働いていくか、あらためて考える時間を設けた。並行して、キャリア・アドバイザーと産業カウンセラーの資格取得にも臨んだ。こうして、新たに身につけたスキルを生かしながら、中小の企業を相手に人事に関する総括的な相談やコンサルティングを行う仕事を生業にしようと決めた。

「会社員時代との大きな違いは、組織に縛られることなく、自分の気持ちに正直にやりたいことに取り組めることですね。50代後半での独立でしたが、営業面では会社員時代に築いた人脈が生きました。紹介で仕事をいただけるのも、社外との交流を積極的に図っていたおかげです」

中澤さんは様々な業界の役員クラスが集う勉強会にいくつか参加して活動したり、アパレル業界の主要数社で人事部長会を作って定期的な会合なども開いてきた。現在でも当時のメンバーと勉強会等で顔を合わせる機会があるという。

「多くのメンバーは定年でリタイアし、数人は監査役として会社に残っている者もいます。プロワーカーとして働いている者はほとんどおらず、みんなから『いいねえ』と言われます。同世代にももっとプロワーカーが増えていくといいですね」



PROFILE

中澤 健さん(67歳)

1941年、福島県生まれ。大学卒業後、大手アパレルメーカーに入社。人事として勤務し、労働条件・人事諸制度構築、採用教育、人事・組織管理、福利厚生などを手掛ける。98年4月に独立。キャリア・アドバイザー、キャリア・コンサルタント、産業カウンセラーの資格を有し、人事コンサルティング業務全般で活躍中

取材・文●岩見浩二 撮影●松本朋之
協力●NPO法人インディペンデント・コントラクター協会

[ 2008.09.19 ]

営業ツールの写真

カウンセリングや講習会で使用する道具。受講者の質問など生の声は勉強になるので、ICレコーダーで録音しておく

POLICY

取引先や、講座の受講生に対して「それぞれの価値観があるので、ていねいに接していく」ことを心掛けがけている。

HOLIDAY

土日はできる限り休むように決めている。セミナーや講習会で録音した参加者の真剣な声を聞き直して勉強することも。

MONEY

年金も受給しているので、必要以上に稼ぐことは重視していない。人を雇って売り上げを増やすことも性に合わない。

SATISFACTION

時間が自由になることはとても満足。しかし会社員時代のように仲間との達成感やがんばり抜いた感動のような感覚は減った。