CASE68人材コンストラクター

成長企業の土台を支える人事の総合プロフェッショナル

独立することの「不安」といえば、間違いなく「安定した仕事が取れるかどうか」がトップだろう。成長企業の人事部門の制度を企画・構築し、その運用支援や教育研修を中心に行っている西尾さんは、わずか半年間で15社以上に携わるまでに。だが、20代の頃はプロワーカーになることなど考えもしなかったという。

「新卒入社した自動車メーカーは、2年半で退職してしまいました。多少の異動はあったかもしれませんが、定年までずっと労務部門でキャリアを積むことに魅力を感じなかったからです。仕事は面白かったけれど、先が見えすぎてしまったことに不安があったのかもしれませんね」




その後、本当にやりたいことを見つけるために転職した人材総合サービス会社では、企業の人事部と付き合う営業職に就いた。それでも当時は30歳をめどに転職したいと思っていた。

「給料もよくとても居心地がよかったのですが、心のどこかで本当に自分の力で稼いでいるとは思えなかったんですね。自分の年収が高いことが、かえってつらく感じるようになってしまったのです」

転職先の大手エンターテインメント会社では、人事部に配属となった。尊敬できる上司にも恵まれ、仕事に没頭した。残りのキャリア人生の軸を「人事」に定めることもできた。だが、やがてここでも西尾さんを悩ませる事態が起きる。社内でポジションを上げていくことを考えたら、人事制度のベースを構築して運用した次は、人事以外の仕事も担当すべきであることを自覚してしまったのだ。

「次の会社でも似たような経験を後にすることになるのですが、自分の心に問いただした時、会社の中でポジションを上げることが目標でないとわかったのです。そのために社内で人事以外の仕事に幅を広げるよりも人事という仕事をベースにいろんな会社と付き合おうと思い至りました。つまり、自分がやりたいことをやっていくには、会社の中にいないほうがいいと思ったのです。これが独立の直接のきっかけですね」

こうして2008年春に独立し、組織と人の成長を「人事」という視点から支援する会社「フル・オフ・タイム」を設立。名刺に記載された「人事コンストラクター」という肩書には、西尾さんの仕事に対する思いが込められている。

「コンストラクターというのは、通常は建設業者のことを指します。人事に言い換えれば、その土台をつくるのが私の使命という思いからこの肩書を思い付きました。単なるコンサルタントではなく、人事を取り巻くすべての職種においてスペシャリストになりたい。今の仕事で影響力を高めて、いずれは若手の人事担当者を育てていくような事業も手がけてみたいですね」



PROFILE

西尾 太さん(43歳)

1965年、東京都生まれ。大学卒業後、自動車メーカーに入社し人事労務部門に配属される。2年半後の90年に大手人材総合サービス会社に転職。営業職を中心に約8年勤務。98年に大手エンターテインメント会社に転職。人事部に配属され、最後は人事部長を務める。その後人材エージェント会社に3年間勤務し、2008年に(株)フル・オフ・タイムを設立。

取材・文●天田幸宏 撮影●松本朋之
協力●NPO法人インディペンデント・コントラクター協会

[ 2008.10.03 ]

営業ツールの写真

24インチのモニターは、今や人事の仕事に不可欠のアイテムとなった。画面が大きく作業効率がとてもよくなるからだ

POLICY

仕事とは「社会をよりよくするためのもの」だと思って取り組んできた。その思いは今も変わらない。

HOLIDAY

仕事モードをオフにする「休み」の感覚は、独立してからなくなった。それでもかまわない。

MONEY

ほぼ目標どおりの売り上げを確保できており、収入面は会社員時代よりアップした。

SATISFACTION

会社員時代と違い、自分が必要だと思える仕事だけをできることが楽しい。