CASE60学校アドバイザー
生徒獲得に苦しむ私立学校改革を支援する元教員コンサルタント
日本全国にある私立学校は約2000校。近年、このうち約半数が、少子化の影響で定員割れを起こしている。定員に満たない私立学校は運営コストを補うために、会社でいえば資本金のようなものを食いつぶしての経営を余儀なくされている。もし、生徒数が回復せずに資金が底を突けば、その学校は「廃校」、企業で言えば倒産してしまい、その学校の卒業生は母校を失ってしまう。
こうした危機的状況を背景に、6、7年前くらいから始まったのが学校コンサルタント業である。主たる業務は学校経営や現場の教育活動、業務などの支援、コースの新設や改善、教員向けセミナー開催など。請け負うのは、民間企業をクライアントに持つコンサルタント会社や大手学習塾、そしてごくわずかではあるが、荒居さんのような元教員というキャリアの持ち主だ。
東京の学習塾や予備校で講師をしながら大学院でMBAを取得した荒居さんは、生まれた我が子を見て「田んぼのある環境で育てたい」と考えた。そこで長野県にあるスポーツで名の知れた私立高校に転職する。ところが、担任をする気満々でいた荒居さんが命じられたのは、付属中学校を新設する担当者だった。
「何もかも初めてのことでしたが、何とか創設した後、今度は理事長から『新しく入ってくる中学生100人のうち5人くらいを東大に合格させよ』という至上命令を下されました(笑)」
以後6年間、担任や社会科の教師と並行してプロジェクトの担当者も務め、結果5名の東大合格者を出した。ほかにも首都圏からの生徒獲得のために東京で入試を実施。プロジェクトチームを組んで中学受験の進学塾に営業をかけるなど、学校改革を目指して様々なアイデアを敢行していった。
荒居さんは「この経験を違う場所で生かしたい」との思いから、学校コンサルティング会社に活躍の場を移す。そこで約100校の私立校関係者と付き合いながら、あることに気付いた。
「私立学校というのは非営利法人。利益という目標が定めやすい民間企業と異なり、いろいろな価値観が錯綜する独特の世界です。でも、私が元教員だということがわかると壁が一気に取り払われて、同じ仲間として話ができる。これは学校コンサルタントとしての大きな強みだと思いました」
意を決して会社を辞め、プロワーカーになったのが今年2月。いきなり知人から大口クライアントの紹介があった。今は、その学校を軸にビジネスを展開している。
実は、荒居さんがコンサルタントに転身して一番つらいのが「教壇に立てないこと」。そのためか、要請があればいつでも教壇に立てるように準備だけはしている。この現場を忘れない「教員魂」がクライアントの信用獲得につながっている。
「もっとも得意としているのは、教員によるコア・チームの育成支援です。これは30代を中心とした若手教師を刺激してチームを作り、学校改革に着手するというもの。これを通じて、次代を背負って立つような教師を育てていきたいと考えています」
PROFILE
荒居 隆行さん(47歳)
1961年、東京都生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業後、塾や予備校の講師を務めながら、南クイーンズランド大学大学院修了(MBA取得)。子どもが生まれたことを機に、長野県の私立中・高校に転職、13年間教員を務める(地歴・公民科)。同校退職後、学校コンサルティング会社勤務を経て、2008年2月、プロワーカーに転身。A工房を設立する。
取材・文●山根洋士 撮影●加納拓也
協力●NPO法人インディペンデント・コントラクター協会
[ 2008.06.06 ]

マインドマップを書くためのB4サイズのスケッチブック。考えがまとまりやすく、提案書を書く時などに欠かせない道具
POLICY
「生徒のためになるか」。顧客が学校だけに、すべてに関してこの基準だけは外せないし、この視点から物事を考えている。
HOLIDAY
以前は仕事より通勤ラッシュに疲れて寝ていた。今ではやろうと思ってもできなかったスペイン語の勉強などに充てている。
MONEY
給料をもらっていた時は、仕事でコストを意識するのも限界があった。今、コスト=自腹。コスト感覚はかなり厳しくなってきた。
SATISFACTION
クライアントに提案書を提出したり、セミナーで話し終わったりと、ひとつの仕事の区切りが付いた時に満足感を感じる。