ささがせ・だいち/静岡県出身。高校卒業後、アメリカに遊学。自分が日本人であることを強く感じ、5年後帰国。自然体験施設、イベント会社、NPO団体などで勤務した後、デザイナーをしていた姉をパートナーとして独立した。
個展会場にて画家のAKIさんと。「AKIは絵が大好きで、それが仕事になっているなんて、理想的な生き方」と尊敬。だから全力で応援できるという
慈善事業を行う組織やNPO団体などで働く中で気づいたことがあります。たとえば、アフリカなどの貧困層を助けるために寄付金を集める活動では、当事者不在と言いますか、現場の人々が望んでいることを本当にできているのだろうか。最適な「支援」とは何か。常にもんもんとしながら業務に当たっていたのです。一方、アメリカ遊学から帰国して勤めた自然体験施設では、早々に会社役員になって施設の総支配人に抜擢されたり、イベントの興行の仕事に携わる中、お金にかかわる利権が渦巻く世界を見たり……。自分は何のために働いているのか、考えさせられることが多かったんです。そんな最中にリーマンショックが起きて、ますます働く意義を考えさせられていた頃、現在、僕がマネジメントを行っている画家のAKIと、そのお父さんと会話する中、一筋の光明が見えてきたのです。
AKIとお父さんとは、自然体験施設に遊びに来てくれた時に知り合い、僕が上京してから、一緒に食事に出かけるなど、徐々に親密になっていきました。AKIには軽度の知的障害があって、彼は絵を描くことが心底大好きで、小学校時代からずっと絵を描き続け、その大好きな絵を描くことを仕事にしていました。「何て理想的な生き方なんだ」と。しかも、AKIのお父さんは自分が亡くなった後でも、遺されたAKIが一番得意な絵で食べていけるようにと自分の仕事は手放し、AKIを全力でサポートしていました。「本気度が違う」と圧倒されると同時に、ずっともんもんとしていた「支援」と「働く」が、自分の中でくっついた気がしたんです。彼の素晴らしい絵を「障害がある人が描いたので、かわいそうだから買ってください」ではなく、ひとりの才能あふれる画家が描いた絵として売り出していきたいと強く思いましたし、彼の絵がもっと評価されるようになるには、夢や希望をバカみたいに信じて突き進む人間が必要だと思ったんです。あ、それ、僕じゃないかと(笑)。そうやって、独立を決心しました。
AKIさん初の絵本『だあれ?』は、色鮮やかな動物たちの絵に「○○しているの、だあれ?」とシンプルな文章が続く。あまりの人気に2冊目の出版も決まった
独立するに当たってまずしたことは、姉を巻き込むことでした。マネジメントだけですぐに事業が成り立つとは思えませんでしたし、AKIを売り出すことは長期戦で考えていました。なので、アートとデザインの2本柱でいこうと、デザイナーをしていた姉を誘って、グラフィックやWeb、パッケージなどのデザイン会社という側面を持たせました。姉の才能と技術力にはほれ込んでいましたし、姉自身も僕と一緒に仕事ができることを喜んでくれていました。僕は営業担当として事業を支えることにしました。
また、AKIのお父さんは以前マーケティングの専門家だったので、その知識や技術を教えてもらい、そこにFacebookなどの今どきのITツールを使って調査や広報などをしていきました。そこからわかったのは、ちゃんとやれば、ちゃんと認められるということ。障害者のアートを広めようと活動している人は多いですが、ボランティアの傾向が強く、絵の価値を正当に評価してもらうためにビジネスとして活動している人は少ないんですよね。でも、アートに限らず、障害のある人がつくったものは、特に女性を惹きつける魅力があります。店舗で雑貨などが並んでいる場所に、障害のある人がつくった作品が混じっていると、買うか買わないかは別にして、とっても気になる存在になるんです。AKIと取引していただく企業などには、そんな話をするわけです。そうやって、取引先を増やしていきました。
個展とライブペイントを中心に活動を続け、AKIのマネジメント会社としては今年2011年で3年目。彼は武蔵野美術大学で講師もしていますが、知的障害のある大学講師は世界初なんじゃないかと思います。最初は、AKIと大学の学食に行ったことないから一度行ってみようという話をして、知り合いに大学の人を紹介してもらったら、何がどう間違ったのか、講師をすることになりました(笑)。普段、教授の言うことを全然聞かない学生たちも、AKIが絵を描き始めると、シーンとして食い入るように見ます。学生には良い刺激になっていますね。
また、最近では、念願の絵本出版と銀座での個展開催を終えたばかりです。個展では事前に新聞で紹介されたこともあって予想を超える来場者があり、計画よりも速いスピードで注目度が上がってきていると実感しています。マネジメントだけで5年目に利益が出せるように計画してきたのですが、早まりそうな勢い。でも、ここで焦ってはいけないと気を引き締めていますね。これは、ひとりのアーティストの人生をかけたビジネス。短期で結果を出すような事業ではないですし、根気よく、長く、少しずつ成長していくべきだと考えていますから。勢いに乗って成功へ加速させるようなことはしたくないと思っています。何でもそうですが、過去の積み重ねがあって、今があるわけなので、根気よく経験を重ねることが、目指すべき未来への近道だと信じています。目標は、まずアーティストであるAKIの夢をかなえること。それは「エリザベス女王の前でAKIがライブペイントをする」。画家のてっぺんになる、ということです。
中学生くらいの頃に、「30歳で独立するんだ」と決めていました。現在、マネジメントをしている画家AKIや、そのお父さんに背中を押されて、実際には29歳で独立することになったんですけどね。AKIの画家としての才能と、姉のデザイナーとしての技術力とセンスの高さを世の中に発信したい気持ちも強かったですし、面白い人生を歩みたいと思い、起業の道を選びました。
0円です。特に設備が必要のない仕事ですから。でも、生活費もままならなかったし、デートするお金も捻出できませんでした。でも、お金がない代わりに知恵を出す。それが面白かったですし、ずっとハッピーでした。
0円で始めたので、集めていないです。
言い出したら聞かない自分の性格を知っていますから、家族は「あなたのことだから……」という感じでしたね。パートナーである画家のAKIやそのお父さんは、もちろん姉も、止めるどころか「やれやれ!」と後押ししてくれました。
気を抜くと、安定を求めてしまう自分です。もう会社員とは違うわけですから、固定概念を捨てなければならないのに、やっぱり安定を求めたり、会社員時代のような守りの発想をしてしまうことも。その思考を変えないと、起業してもうまくいかないですからね。
税理士さんですね。起業することが決まってすぐ、知人から紹介してもらったのですが、その税理士さんに、お金の管理に関して最低限すべきことなどの情報をもらっていました。
画家であるAKIのお父さんです。お父さんはかつてマーケティング専門家でもあったので、そういった知識や社会の仕組みなどを教えてもらいましたね。
うーん、ないですね。考えたこともなかったなぁ。やりたかったことをしているわけですから、困るようだったら、最初からしていないでしょうしね。
みんなが幸せになれたことです。家族を持つことと、家族や仲間や自分が幸せになることを人生の目標にしていましたが、独立したことによって結婚できたし、姉と一緒に満足できる仕事ができた。AKIやそのお父さんという新しい仲間もできて、その仲間の活動を応援する仕事をしている。それによって、自分も幸せになれました。
とっても生き急いでいる人が多いような気がしますね。あれもやりたい、これもやりたいと欲をかいて成功を急ぐと、時短のためにお金ばっかり使うことになります。とにかく焦らないことだと思います。今の自分をつくっているのは、過去の経験じゃないですか。いろんな無駄をして、経験を重ねて少しずつ目標に向かっていけば、身の丈に合った成長ができると思います。
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