おおむら・みきこ/神奈川県出身。大学卒業後、大手メーカーで24年間、商品企画・顧客対応に従事。在職中に大学へ再入学し、臨床心理学の研究に取り組みながら独立。自己分析は「やりだしたら止まらないタイプ」。日本産業カウンセラー協会会員。子ども3人。
仕事時に必ず身につけるのが、会社員時代に勤続10年記念で会社から贈呈されたネックレス。大学教材 の「臨床心理学キーワード」も辞書代わりに必ず携帯
学生時代は体育会バスケ部に所属しながらも、週に8種類のバイトを掛け持ちしていました(笑)。同時にいくつもの課題をクリアしていくのが、もともと好きな性分なのでしょうね。その感覚で、在職中に勉強がしたいと大学を再受験し、2009年に早稲田大学に入学しました。とはいえ、フルタイムで仕事をして、子どもが3人いて、大学の勉強もとなると、いくら時間は自分でつくるものだと思いながらも現実的には難しい。会社には四半世紀近く勤めたので、そろそろ会社員を卒業してもよいかと、早期定年退職を申し出ました。ですが業務の引き継ぎなどもあってすぐには退職できず、実際に自由の身になれたのは9カ月後。その後、大学の勉強もしながら、半年間、女性起業塾にも通いました。その当時は、今のクレーム対応の事業で独立するという考えはなく、医療福祉関係のBtoCビジネスでと思っていたのです。ところが塾の講義で、「自分は何が好きなのか、何が得意なのか」を掘り起こす機会があり、自分の経験やスキルを生かせるクレーム対応で独立したいと思うようになったのです。
というのも、私は会社員時代、お客様からのクレーム対応の仕事が大好きだったんですよ。BtoBの大企業でしたが、パーソナルなお客さまからの電話を受けるコールセンターもあり、その管理業務やスタッフ研修を担当していました。コールセンターには実に様々なお客さまから電話が入ります。対応する側のちょっとしたコツやスキルひとつで、怒って電話してきたはずのお客さまが、「ありがとう、また次回もおたくの商品を買わせてもらうよ」と言ってくださることも。私自身、新入社員だった頃にそういう感動を経験したことがあり、クレーム対応にやりがいを十二分に感じ、実績を積んできました。ですが、コールセンターのスタッフの中には、うまく対応できず、仕事に苦痛を感じ、精神的に耐えられず辞めていく人もいました。スキルさえ身につけば……。何とかできないかと、ずっと心を痛めていたことを思い出したのです。
顧客対応者の面談ではいたわりながら客観的データを聞き出し、状況を判断。今後の対応策を企業へ提案し、顧客対応者のスキルアップ研修やメンタルヘルス管理を行う
会社員時代、商品企画・営業も経験していて、販促のための社内研修や、ディーラー担当者を対象にした社外研修も受け持っていました。「自分は何が好きか、何が得意なのか」で言えば、クレーム対応が好き、研修で人に話すことが好き、人を育てることも好き。これがビジネスになるのかと考えていくうちに、せっかくスキルを積み上げてきた人材が、お客さまから電話で怒られ、上司からも怒られ、心身ともに疲れて辞めてしまうのは企業の損失ではないか。トラブルの原因を探り、解決策を見つけ、改善する。そういうクレーム対応のプロフェッショナルが対応技術を伝授したら、とても役に立てるのではないかと思うようになっていきました。クレームは怖いと思われがちですが、中には視点を変えて見れば、わざわざお電話をくださって商品の改善点や開発のヒントをくださるクレームもあるのです。企業にとっては、より良いプロダクトをつくり出すプラスの材料ですよね。
また、対応ひとつで一転してファンになってくださることもあり、企業にとってクレーム対応は、大切なマーケティングとも言えるのです。それにスタッフも、自分の対応次第で、上司にもお客さまにも喜んでもらえる、実にやりがいのある仕事にできる。クレーム対応というのは、ひとつのコミュニケーションですから、ストレスのない対応ができれば、とても素晴らしい職種になるはず。そんな、企業も顧客対応者も消費者も、三者にとってプラスになるクレーム対応スキルを提供する会社をつくろうと気持ちが固まりました。まずは自分自身、論理的にメソッドを強化しようと、起業塾を終えた翌月から、産業カウンセラー資格取得を目指し、研修を受講し始めました。カウンセラー試験の難しさは聞いていましたが,「なんとしてでも受かる!」と自分に言い聞かせつつ臨み,無事合格。大学生活のほうは、学部内でも1、2を争う厳しいゼミに属していたため,講義期間中は時間的な余裕がないと判断、夏休みの時期を利用して会社登記手続きをし,独立したのです。
大企業のコールセンターは、社員よりもパート雇用が多いせいか、離職率が高くても、さほど気にしてないケースが残念ながら多いです。が、雇用形態にかかわらず、自社で働いてくれる人は財産であるはずです。顧客対応者も大切な“人財”と考えてくれるような、愛のある経営者や、企業や行政機関の人事担当者にアプローチしたいと、クレーム対応にかかる業績の影響や重要性を啓蒙するため、毎月無料で企業向けセミナーを実施しています。企業、行政、教育機関などのBtoBに加えて、BtoCでメンタルヘルス管理やストレスコーピング(ストレス対処法)も広めていきたい。また、クレームトラブルを面白おかしく取り上げるマスコミの風潮にも警鐘を鳴らしたいと思っています。トラブルの渦中にいる顧客対応者にとっては、退職に追い込まれることは死活問題であり、心まで病んで社会復帰できない方も数多くいるのですから。
まだまだ広報宣伝までは手が回りませんが、事業展開も準備中です。大学では抑うつとストレスの関連性を調査する神経心理学実験の佳境に入ったところです。研究って、テーマに向かって自分を追いつめて、掘り下げていく作業なのですが、毎日毎日、違う楽しさがあるんです。大学のゼミでは私以上に頑張っているすごい方がたくさんいます。企業にはいない、そういう人たちが私にはいい刺激になって、自分ももっと頑張ろうと思えます。こうして振り返ると、二足のわらじどころか、ムカデのような感じで走り続けていますね、私(笑)。でも、長年勤めた会社での経験も、大学での臨床心理学研究も、同時進行で独立したことも、それぞれが個別ではなく、連動しているのを確信できています。それらの経験がこれからますますつながって、組み合わせることができる。そう思うとワクワクしてきますよ。
勤務先は大企業だったので、企業の看板で今は仕事ができているけれど、看板がなかったらどうなのか、何か自分の力でやってみたいと漠然と思っていました。次のステップを勉強しながら考えたくて、思い切って大学を再受験。2009年、早稲田大学に入学しました。前後して、起業準備のためにトレンダーズの女性起業塾に入校したのです。その際、「自分は何が好きか、何が得意なのか」の講義を受け、自分はクレーム対応や研修で人を育てることが好きだった!と再認識。そこで,大学で専攻している心理学の考え方をベースに,クレーム対応研修を主軸とした事業での独立を決めました。
約60万円です。会社登記手続きに30万円、Webサイト制作費に15万円、オフィスの契約で15万円です。ちなみに資本金は300万円です。
退職金を充てました。
夫や子どもたちには事後報告でした(笑)。40過ぎて大学入学する時もですが、独立する時も、決まってから報告したので、「あぁ、またか」みたいな感じ。特に驚いてはいなかったのではないでしょうか (笑)。
特に不安には思いませんでした。ただ、クレーム対応事業を展開している企業が見当たらなかったので、ニーズがないのか?あまりにもニッチすぎるのか?わかりませんでした。潜在的にはニーズはあると思えたのですが、果たして独立して経営が成り立つのか、まったく予想がつきませんでした。でも、私ひとりでこぢんまりと起業するのだから、なんとかなるかと(笑)。リスクを考え出したらきりがないですから。
勤務時代の経験はもちろんですが、大学での研究、『アントレ』、トレンダーズの女性起業塾も役に立っています。女性起業塾で知り合った人脈は財産ですね。このオフィスも、登記手続きも、女性起業塾で知り合った仲間からの紹介です。
女性起業塾の先輩や同僚、起業支援ネットワーク「NICe(ナイス)」の仲間たちです。個人で経営しているつらさ、せちがらさを実感値としてわかっている人たちじゃないと、なかなか理解してもらえないし、批判もしてもらえません。が、同じような感覚で相談できる仲間がいるのは本当にありがたいです。
まだ困ったことはないです。これからではないでしょうか(笑)。
経営面ではまだまだですが、ご縁がどんどん広がることが嬉しいです。会社員だと、企業方針にも縛られ、時間も縛られ、人脈も限りがありますが、独立後は、考え方も時間も人のご縁もどこまでも広げていくことができる。それを実感しているところです。
独立してまだ日が浅いので、メッセージというほどのことは言えませんが、私自身が言ってもらって、勇気がわいた言葉を贈ります。「できない理由を考えるよりも、できるやり方を探せばいい」。やりたいことがあったら、恐れず、一歩踏み出してみれば、損得抜きに必ず助けてくれる人はいます。きっといつかかたちにできる! そう信じて挑んでください。私ももっともっと頑張ります!
独立した先輩の体験エピソード&独立支援情報