やまもと・みほ/大阪府出身。大学在学中に学芸員、図書館司書資格を取得。卒業後は法律事務所に14年間勤務。様々な習い事をする中、カウンセリング、コーチングに出合い、転職。3年間公務員として勤務後に独立。岸和田だんじり祭では曳き手を担っていた。
コミュニケーションスキルアップは、幼児から青年、就職・再就職、企業の新人・リーダー、専門職、市民講座まであらゆる世代・分野に対応。山本氏の活躍の場は実に幅広い
大学生時代、女性新入社員は3年ぐらい働いて寿退社、というのが一般的な人生コースで、自分もそうなるのかなぁと漠然と思っていました。就職を希望した博物館の求人はなく、大手企業に内定が決まりそうだったのですが、就職課から「個人美術館を持っている法律事務所で、事務職を求めているけれど、どう?」と。そのほうがアットホームで、自分には合っていそうだと思えました。それが、人生の分かれ目でしたね。スタッフが30名ほどの個人事務所でしたが、女性社員が多かったんです。先輩にかわいがっていただき、ビジネスマナーも自然と身に付きました。あまりの居心地の良さに、気がつけば20代後半。法律事務所でキャリアを積む人の中には、行政書士や司法書士を目指す人が多いですが、法律書って漢文のようで、私にはまったく(笑)。それでも、周りからベテランと言われるようになって。法律事務のスペシャリストでもなく、ベテランの実感もないまま、勤続年数だけが増えていく……。このままでいいのかと、焦り、不安が募っていました。
仕事帰りに習い事をしたり、友人と旅行したり、スケジュールだけはいっぱいでした(笑)。気持ちのどこかで、焦りや不安を埋めようとしていたのかもしれません。ある時、友人とたまたまお寺を訪れたのを機に、少し世界が広がりました。そこのお坊さんが主催する食事会に参加するようになり、様々な業種の方と出会ったことで、「手に職を持つ人っていいな」と。今では事務職も大切な仕事と思えますが、当時の私には当たり前のことで、自分には得意なことが何ひとつないなと。その後、法話で「殺生」について聞いた時、ショックで涙が止まりませんでした。「現代は飽食の時代で、食べ物、生き物だけではなく、古くなれば捨てる。洋服やアクセサリーもタンスで眠っているでしょ。何でも粗末にしている」と。その話を聞いた時に、「私はものだけでなく、自分も粗末にしている。自分を生かしていない」と思えて……。その時から、自分を生かすものは何だろうと、以前にも増して習い事に精を出し、本も読みまくりました。その中で興味がわいたのが、カウンセリングだったのです。
日鐘技能開発センター平野校での緊急人材育成支援事業の職業訓練(基金訓練)で、2カ月間ワークガイダンスを担当。その受講生から最終日に贈られた感謝の手紙や色紙が宝物
年を取ることがマイナスのように当時は感じていたのですが、カウンセラーは年齢を重ねることが人生経験を生かせる職業だと思えたのです。それで、仕事帰りの平日の夜と土日に受講できる専門学校へ入学。ですが、学べば学ぶほど心理学は奥が深いことに気づきました。話を聞いてもらっている時は救われ、一時的に元気になれますが、根本的な解決にはならず、長時間を要します。そんな時に出合ったのがコーチングでした。カウンセリングが感情を扱うのに対し、コーチは感情を受け止めてくれるけれど扱うのは行動なんです。性格や感情を変えるのは難しいですが、行動は変えやすい。私自身、消極的で、石橋をたたいて、たたいて壊して「ほら、渡らなくて良かった」と正当化するタイプですが、でも、やってみたらできた!ということってあるじゃないですか。そのコーチが自分に役立ったので、自分のような人にコーチングで可能性を開いてほしいと思うようになったのです。
コーチングの勉強が私の水に合ったのか、学んですぐに生かせる環境に身を置きたいと思うようになっていきました。居心地の良い職場だったので、1、2年悩みましたが、退職を決意。たまたま会った友人に近況を話した時に、地元に「岸和田市立女性センター」というのがあると教わり、ボランティアができるかもと申し込んだんですが、今はカウンセラーの募集はないと。ところが数日後に電話があって、「事務職の職員募集をしている。カウンセリングが顧客対応に生かせるから受験するだけしてみたら」と。わざわざ連絡をくださったので、これもご縁かと。ところが、公務員試験は1週間後! あわてて問題集を買って、勉強しました(笑)。その甲斐あって、岸和田市立女子センターに転職。1年目は業務の流れを覚えるのに必死でしたが、2年目から「こういうのをやりたい」とカウンセリング講座をやらせてもらい、翌年はコーチングも取り入れさせてもらいました。ですが3年目になって、もっと勉強に集中したいと思い切って退職。それを機に、独立となりました。
独立を目指してというよりも、好きに勉強しながら流れに乗って、今があるという感じ。のんきなんです(笑)。独立後、コーチングの講座修了後も勉強は続けていましたし、お寺の寺子屋教室のボランティアをしたり、自分でWebサイトを立ち上げたりと、マイペースでした。サイトをつくった以外、特に営業活動はしていないですが、センター在職中に講座をやらせていただいた他の地域から講師のお話をいただいたり、また元職場から、「こういう講座してくれる人探しているけれど、できるのでは?」と連絡をくれたり。徐々に話が広がって、2年目、3年目と、わらしべ長者のように、お仕事をひとつ終えるたびに次から次へとつながっていきました。独立当時は、まだコーチという名称そのものがあまり知られておらず、スポーツコーチのように誤解されるため、カウンセラーと名乗っていたのですが、2年目からは「コーチ・コミュニケーショントレーナー」としました。
現在は、個人セッション、企業や公共機関での研修セミナー、講義のほか、コーチングを生かした生活習慣病診療の著書に取り組んでいるところです。私の仕事は、必ず相手がいますから、人とコミュニケーションしますよね。なので仕事そのものが毎回、自分自身にとっても学ぶ場なのです。また、専門外と思っていたような機関からの依頼もいただくのですが、考えてみればコミュニケーションというのはどの分野にも当てはまり、人対人の関係が存在するところであれば、必ず生かせるものなのです。それを依頼先から教わりました。ですので、自分から分野を広げようとしなくても、ひとつお仕事の実践を積むことで、自然とほかへと広がっていくものだと感じています。また、自分で発している言葉が相手にだけではなく、自分にも必要な言葉だと気づくことも。コーチングは本当に奥深く、真摯に学び続ける世界だと思っています。ずっと勉強を続けながら、一人ひとりが自分の強みを発揮できるよう、これからも取り組んでいきます。
勤務先の岸和田市立女性センターで、自分がやりたい講座もやらせていただき、ほかの講座で起業家、異業種の方と話す機会も多く、コミュニケーションの勉強になりました。でも、自分はもっと集中して深めたい、専門的に学びたい。1年1年を大切にしたいと思い、退職を決意。「独立するぞ!」という意識は正直なくて、好きなことをするために退職を決めたことが、自然と独立につながったという感じです。その後も独立したという気負いはなく、営業活動する時間があればその分勉強しよう!くらいの気持ちでした。
20万円です。ちょうどパソコンが壊れたので購入しました。独立時のオフィスは実家を拠点にしていたので、事務所開設費はなし。ただ、これまでにカウンセリング専門学校や各種コーチング講座、ダンスセラピーなどに通った学費は、合計で約700万円になっていると思います。
これまでの貯蓄を充てました。
母は大反対でした。独立に対して、というよりも、法律事務所を退職する時も、公務員を辞める時も、「その後どうするの?」という心配から退職そのものに反対だったようです。センターの館長からは引き止められ、4時間説得されました。退職を反対されたり、引き止められたりすることは、ありがたかったですが、何か自分が試されている気がしましたね。意志は固まっていたので、気持ちは変わりませんでした。
不安でした。勤務先では自分がやりたい講座もさせていただけて、仕事も楽しかったですから。退職して独立すると、もうそんな講座もできないかなと思いました。でも、不安はきっといつまでたってもなくならないのだと思います。不安を乗り越えたのではなく、不安のままで行くんだろうなと思いました。ですので、独立後に初めてお仕事の依頼をいただいた時は、嬉しいというよりも驚きで、奇跡のように感じました(笑)。
勤務時代のすべてが役に立っています。14年間勤務した法律事務所で女性の先輩たちに自然とビジネスマナーを教えていただいたことが、今も就職ガイダンスの講座をする時に役立っています。公務員時代に自分で講座をさせていただけたことが、実績と信用になっていると思います。また、専門学校で2年間カウンセリングを基礎から学んだこと、お寺での法話や寺子屋教室でのボランティアをさせていただいたこと、岸英光コーチから学んだコーチング、高安マリ子さんのダンスセラピー研修。そのすべてが役立っています。
独立に関しては特に相談相手はいませんでした。決めるのは自分ですから。きっと勧められて独立しても後悔する、止められて独立しなくても後悔するのだと思います。
大人数の前で講義をする仕事は、とても光栄で嬉しいのですが、前の晩は緊張して眠れないことがありました(笑)。いまだにドキドキします。でも逆に、ドキドキするということは、まだまだ勉強して自信をつけなくちゃ、ということ。その意味では、緊張しやすい性格は学び続けるために適しているので、ラッキーといえますね。
参加者やクライアントが、今まで気づかなかった自分自身に気づいて喜んでくれることが何より嬉しいです。かつての私は、自分には取り柄がない、経済的にも精神的にも物理的にも自立できないと思っていました。そんな私でも、誰かの役に立てて、自立もできています。自分が生かされている実感が持てたことが、独立した最大の喜びです。
いずれ独立と考えながら、もし今、勤めているならば、今の仕事をまずは一生懸命やること。その経験が必ず役に立つと思います。独立への揺るぎない信念も大切ですが、時代や状況は刻々と変化します。信念にとらわれすぎず、柔軟性を持って取り組むことと、すぐに結果を求めず、試しながら判断をしていくことが大切です。できるかどうか、やってみないとわからないことが多いですが、自分の好き・嫌いは、自分が知っている狭い範囲にすぎません。それだけ選択肢も狭まります。可能性は自分でつくるものですから、自分の小ささ、狭さを自覚して、どうすればできるかを考えてみると、今まで見えなかった可能性が見えてくると思いますよ。
独立した先輩の体験エピソード&独立支援情報