先輩たちの独立事例集

先輩たちの独立事例集


加藤 仁さんの写真

顧客満足度にこだわる
ホームページ運営代行業

株式会社BALANCe(バランス)/東京都杉並区
加藤 仁さん(37歳)

かとう・ひとし/東京都出身。音楽でプロを目指すが断念し、建設業界、食品業界を経てIT企業に就職。5年後、上司とともに独立するが、1年後に退職し、自ら起業。社員旅行は研修を兼ねた富士山登山などチームワークを重視。趣味は犬の散歩と、小中高時代のサッカークラブ仲間とのフットサル。

独立準備のがんばりどころ

これからはITの時代と感じ、勉強するために29歳で就職

3人肩組み

最初の勤務先から行動を共にしてきた、同社の創業メン バーの川路洋介氏(写真左)と伊藤慎氏(写真右)。 加藤氏にとっては右腕であり気心が知れた大切な同志

10代の頃から仲間とバンドを組んでいたんです。高校卒業後は働きながら、みんなでプロを目指そうと建設会社に就職。若気の何とかってやつですよ(笑)。でも、20歳を過ぎると、メンバーも将来を真剣に考えるようになり、ひとり抜け、ふたり抜け、自然とバンドは解散。そのまま僕は建設業界で5年間、職人を続けていました。アーク溶接、クレーン、フォークリフト、玉掛け技能などの資格を取得しましたが、自分の将来はどうなるのか不安を感じる日々。実家は個人事業の工務店で、子どもの頃、給料日になると職人たちがうちに集まって、みんなが父を囲んで一緒に食事しながら酒を飲むのが毎月の恒例でした。子ども心に、「自分で会社を経営して、仲間と一緒に仕事するっていいな。父ちゃんすげーなー」と、憧れていました(笑)。

そんな父の影響なんでしょうね。漠然とですが、自分もいつか会社をつくりたいと思っていたので、そのためにはまず資金づくりだと。築地市場の鮮魚卸に転職し、夜はピザの宅配のバイトも掛け持ち。当時、ピザ店でキャラクターグッズのキャンペーンをやっていて、お届けに行くと、お子さんがピザよりもキャラクターを目当てに待っているんです。主従逆転、何かおかしいぞと。少子化や教育が社会問題視され始めていたこともあり、次代を支える子どもたちにいい影響を与えるような会社をつくりたいと考えるようになりました。でも、自分には学歴がないから、学校の先生にはなれません。その頃、ちょうどITが世の中に浸透し始めていて、ITを活用すれば自分にも何かできるかもしれないと直感。そのためにまずは勉強と、29歳の時にIT企業へ転職したのです。

上司に誘われ共同経営者になるが1年で脱退し、再び挑戦!

打ち合わせ中

アパレル事業としてネットショップ「Standard Farm」を初年度から開始。この日は革職人の春の新 作を掲載するためのスタッフミーティングが行われていた

サイト制作できるくらいになりたいと思っていたけれど、入社したのはサイト制作とリースで急成長していた営業重視の会社で、僕は営業担当に。それでも言われたことはきっちりやるタイプなので、営業成績も良く、それなりのポジションを与えられるまでに。IT業界全体に勢いがあったし、会社も時流に乗って上場。上司や同僚とも戦友のような濃い関係が築けました。でも、役員や創業メンバーは、ストックオプション行使のことばかり気にするようになり、会議の話題は、お客さんのためにというより株価や数字のことのみ。そんな社風に疑問を持つようになったんです。担当したお客さんからは契約解除の相談が多くなり、社内の雰囲気もギスギスしてきて、「自分は何のために働いているのか」と。このまま勤めていたら、どんどん自分が汚れていくような気がして1年近く休職しました。

その間に、最初の上司が心配して連絡をくれたんですよ。「何かやるなら一緒にやります」と言ったら、数カ月後、「独立しないか?」と。「この会社ではできなかった顧客視点に立ったITコンサル会社を起こすから共同経営者にならないか?」。この人と一緒にやれる。IT業界の悪しき慣習を何とか改善したい。それが、1度目の独立です。が、結局1年後に、その会社を離れることになります。というのも、元上司といえども共同経営者ともなれば、ちょっとした意見の違いが大きな溝を生むんですよね。前の会社から何人か仲間を連れて独立したので、上に立つ者としての責任も感じていました。このままでは、仲間にもお客さんにも良くないと思い、別々にやろうと結論を出したんです。そして、メンバー5人を引き連れ、2度目の独立を果たしました。

実践に基づいたサイト運営サービスで、成果報酬型と定額繰越型を提供

共同経営に参加した際の出資金は置いてきましたから、資金面は厳しかったですが、退社2カ月後には始動。自宅を仕事場にして週に1回顔を合わせればいいというメンバーもいましたが、リアルで顔を見ながら仕事をすることが大事だと思い事務所を構えました。幸い、メンバーのモチベーションは高く、働く場所が変わっただけ、という意識だったようで、それが何よりも嬉しかったですね。僕らがやりたかったのは、ホームページを単なるWeb上のチラシではなく的確な情報発信ツールに仕立てること。薄利多売的なIT業界の様々な問題を解決して、お客さんに本当に必要なサービスを提供することでした。そこで、成果報酬型と定額繰越型という2本柱を考え、サイト運営代行のシステムを確立。しかも、お客さんの商材の企画開発から実践検証、実店舗の経営戦略にまで深く入り込むので、一社一社とのお付き合いが濃くなるだけでなく、時間も労力も要します。でも、IT化した分ちゃんとお客さんに成果が生まれ、さらに期待以上のプラスアルファを提供できるよう努めています。また、独立したネットショップをつくるまでは投資できない個人店や職人さんにもスポットを当てたくて、自社で初年度からアパレル関係のネット・セレクトショップも開設しました。

まだまだ駆け出しの企業で、メンバーも成長途中です。もっともっとスキルや知識を伸ばしてほしくて、給与とは別に資料勉強費として毎月1万円を支給しています。自分がけっこう本を読むからわかるのですが、IT関連の専門書は割と高額ですからね。この会社を大きくしたいというよりも、目指すは、すべてのお客さんから喜ばれるサイト運営のエキスパート集団。商品やサービスを売るサイトでも、企業の広報サイトでも、うちに任せてくれたら、成果を挙げる、期待以上の結果を提供する。それが僕らの使命だと思っています。ITとはいえ、それを利用するのはすべて「人」ですから、時には時間がかかることも回り道をすることもあります。でも、会社としての最大の目的は、社会貢献。全員がエゴにならないバランスを保ちつつ、自分にも仲間にも家族にも社会にも誇れる、そんなチームを目指しているんです。

取材・文 / 岡部 恵 撮影 / 岡本 寛

ちょっと気になる10問10答

  • なぜ独立した?

    経営者として職人仲間から慕われていた父の姿に、子どもの頃から憧れのようなものを感じて、「自分も組織をつくってみたい」と漠然と思っていました。IT業界に入り、自分が何のために働くのか悩んだ結果、もっとお客さんの役に立ちたい、本当に望まれているサービスを提供したいという気持ちが強くなったことが独立の動機です。ただ、共同経営の難しさから、短期間で2度目の独立をすることになりましたが、ひとつ壁を乗り越えた分、本当にやりたいこと、自分がやるべきこと、できることが見えてきたように思えます。

  • 開業資金は?

    500万円です。オフィスは住居用賃貸で、契約時に保証金の必要がなく、敷金礼金が計130万円。ちなみに家賃はメゾネットタイプの68uで月額20万円。その他は、PC、事務用品、会社設立登記費用などです。

  • 開業資金はどう集めた?

    自分と家族の貯蓄を充てました。

  • 周囲の反応は?

    2度の独立に家族は心配していたとは思いますが、一度言い出したら聞かない僕の性格を理解しているせいか、特に反対はしませんでした。自営業の苦労を知っている両親には反対されるだろうと思ったのですが、「やるならちゃんとやれ」くらいでしたね。

  • 不安だったことは?

    共同経営で設立した1年間はずっと厳しい状態でしたので、2度目の時は不安も何も(苦笑)。最初から従業員が5人いる状態での再出発ですから、「やるしかない!」という心境でした。経営者としてはまだまだ未熟者。マネジメントに関するノウハウを今も日々勉強しているところです。

  • 役立った情報源は?

    最初のIT企業に就職した時、まったくの業界素人でしたので、とにかく勉強しようと様々な本を読みあさり、セミナーにも積極的に参加しました。その時に得た知識、ノウハウが今も役に立っていますね。ただし、勉強はやればやるほど力となって蓄積されていきますから、今も毎日何かしら専門書を読み、見聞を広げ、事業に生かそうと努めています。

  • 相談相手は?

    元勤務先出身の先輩起業家たちが今でも良き相談相手です。独立当時は当然、ネームバリューもなく、実績もない。自分で会社を起こすとどうしても理想が高くなって、自分たちが考えた新しいサービスを第一に売りたい。しかも2度目の独立ですから、なおさらその気持ちが強くなっていました。でも、「おまえの理想なんてどうでもいい。従業員がいるんだから、その人たちの生活を第一優先として考えなさい」と言われたのです。理想を求めつつ、現実的に会社としての安定収入を得ること。そのバランスの大切さを改めて痛感したアドバイスでした。

  • 独立して一番困ったことは?

    前の会社から一緒だったスタッフと、設立後に採用したスタッフとの微妙な温度差が存在することです。設立してまだ3年の会社なので、僕の中ではスタッフ全員が“創業メンバー”のような感覚があって、会社経営や方針を全員と共有したいのですが、「いえいえ、一スタッフですから、そこまでは……」と引かれてしまうこともあって。その温度差はまだ埋まっていませんが、さらにコミュニケーションを深めていくことで解決するしかないと思っています。

  • 独立して一番良かったことは?

    僕ひとりでは何もできません。仲間がいて、スタッフがいて、お客さんがいてこそビジネスは成り立つんです。組織に雇われていたら、「一生お付き合いしたいかどうか」など考えずに、売り上げ重視で仕事を取ってきますよね? でも、独立すると、すべての責任を取るのは僕です。思ったら即行動の性格でしたが、いい意味で慎重になりました。よりお客さんのことを深く考える、長く付き合えるお客さんを探そうと、一生懸命考えるようになる。メンバーみんなで意見を出し合って、仕事をより純粋に選ぼうとするし、その思いをみんなで共有しています。自分自身の変化が、一番良かったことだと感じています。

  • 独立を志す人へのメッセージ

    独立は誰でもできます。ですが、何よりも大切なのは、継続させること。そのために市場動向を見極めながら、どうすべきかを常に考え続けることです。もちろん、まずやってみるという行動力は大事ですが、何のために起業したのかという理想と、継続のための現実的なバランスが大事であり、時には妥協も必要です。自分ひとりの個人事業なら思い立って即行動もありでしょうが、人を雇う、仲間がいる、お客さんがいるということは、その人たちの人生も背負うわけですから。どんなビジネスであれ、かかわるすべては「人」だということを忘れないでいてほしいです。

設立
2007年10月

資本金
500万円

従業員数
14人

年間売上高
5700万円(2010年12月実績)

アクセス
http://www.balance-inc.jp/


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