よしだ・ゆみこ/東京都出身。システムアドミニストレータ、 システム開発エンジニアとしてキャリを積み、フリーランスに。 その後、出産を経て、財団法人生涯学習開発財団認定コーチ資格を取得。IT化支援とコーチング業で独立。趣味は家族とのアウトドア体験。
長男・直矢くんが2歳の頃にコーチングに出合い、育児 と仕事の両立を決意した思い入れのある写真。右は、 2011年3月の初セミナーの参加者に配布したチラシ
大学のゼミがコンピュータ系で、それ以来ずっと技術畑です。新卒入社した大手企業で希望どおりに運用管理部門に配属されたのですが、当時はまだ女性がのびのび働くにはまだ時期が早かった。「ここで自分が成長できる職に就けるまで何年かかるんだろう」。そんな思いから英国への語学留学を決め、退職翌日に渡英。意外と向こう見ずな性格なんです(笑)。しかも、ベルリンの壁が崩壊したと聞けばドイツへ、近いからフランスへ、イタリアへと、授業の合間に友人と近隣各地へ旅行しちゃったものだから、7カ月後には生活費が危うくなって(笑)。タイミング良く元上司が出張ついでに会いに来てくれた際、現地法人の仕事を紹介してくれて金欠病は解消。結局2年近く滞在し、帰国後は外資系の会社に再就職して念願のシステム開発に携わりました。そこは女性だろうが中途入社だろうが関係なく、やる気さえあれば応援してくれる社風の会社。深夜残業も休日出勤もざらでしたが、「仕事している!」達成感も充実感もとてもありました。ですがもっと技術力を高めたいと感じ、私にとって第一段階の独立となるフリーランスになりました。
当時はフリーSEという業態は業界では珍しくなく、IT案件も多くて、自分の得意分野の開発言語や学びたい領域の仕事を選べる時代だったんです。そして金融企業のシステム開発部門の請負契約で、2年間がかりの大プロジェクトに携わりました。エンドユーザーは日本人なのですが、エンジニアは私以外全員がインド人。つまり、仕事以外の文化的通訳も私がやるという、とても刺激的な職場でした(笑)。ゼロを発見した国の人だけあって、プログラムの考え方、数学的センスなど、とても参考になりましたし、特殊な金融の世界、しかも大企業ならではの複雑なシステムも多々あり、勉強になりました。ただ、プロジェクトをまとめる、双方のコミュニケーションを図る難しさも同時に痛感したのです。このプロジェクト終了後、語学力を買われて技術校閲というマニュアルやプログラムコマンドをチェックするIT翻訳の仕事依頼も受けるようになり、「これなら在宅で続けられるなぁ」と思い始めた頃に、妊娠したことがわかったのです。
リーダーのためのコーチングを「チーム快然トレー ニング」と命名。1対1のトレーニングで自発的な 部下を育て、チームのコミュニケーションUPに貢献する
IT業界では「システムエンジニアは35歳まで」という暗黙の掟のようなものもあって、年齢的にも焦りを感じて、出産前は早く仕事に戻ろうと考えていました。ところが、いざ出産するとずっと子どものそばにいたい、保育園にも預けたくないと思うように。不思議ですよね、仕事が楽しくて大好きで復帰のことばかり考えていたのに、我が子最優先になった自分に驚きでした。「仕事に復帰する? 自分はどうしたいの?」と考え始めたのは、出産して1年くらいたってから。それまで育児で慌ただしくて、自分の将来を考える余裕がなかったのでしょうね。そんな頃、とあるメルマガの一文が目に留まったんです。「答えは必ずあなたの中にある」と。コーチングのコーチが書いたその一文にハッとして、コーチを付けようと思い立ったのです。それまでは、「他人に相談しても迷うだけ。コーチングって何か怪しい感じ」と思っていたのに(笑)。
私はとても動物的なのか、出産してから「もう私の時代ではない。この子たちの時代を考えなくちゃ」と漠然と考え始めたんです。それがコーチングを受けたことでより明確になり、「私の子だけではなく、次代の役に立てる仕事がしたい」と思うように。やっぱり、答えは自分の中にあったんですね。そう決めたら不思議なもので、また仕事の依頼がくるようになりました。ただ、在宅ワークのゆっくりペースでいいのだろうかと、少し不安に。その不安を解消してくれたのが、息子が通う幼稚園の園長先生でした。この先生が、子どもを育てると同時に、保護者も育ててくださる先生。定期的に保護者へのレターを発行していて、子どもの年齢ごとに「いくつの時は何が大切か」と短文で書いてある。その一つひとつを大切にすれば大丈夫と、気持ちが落ち着きました。「9つまでは子どものそばに」とあって、それで9歳までは在宅仕事をベースにし、次のステップは9歳からと決め、コーチングを学ぼうと決意。そして本格的にコーチ・トレーニングのプログラム受講を開始し、息子が9歳になった年に2度目の起業を果たしたのです。
これまでのキャリアや経験、コーチングの技術を生かして、IT業界や中小企業のIT活用に貢献しようと始動しました。でも、始めてから、私は誰の役に立ちたいのか、改めて見直す機会を得たのです。「想定する対象者それぞれが抱えている、解決したい問題点は何だろう?」と。そうすると、中小企業の社長さんは、後継者を育てることに悩んでいる。ママたちは子育てに悩んでいる。同世代で仕事を続けている友人は中間管理職が多く、部下の育成に悩んでいる。みんな、“育てること”に悩んでいる!と、共通点が明確になったのです。そして今年、東京商工会議所さんの依頼でセミナー講師の仕事を受けたのを機に、私は誰にコーチングを受けてほしいのか、さらに突き詰めて考える機会をもらったんです。知人のマンガが得意なデザイナーに、セミナー会場で配布する販促チラシの制作を依頼したのですが、「マンガイラストの主人公を誰にしますか?」と質問されてハッとした。主人公イコール自分が定める焦点。その時、幼少からの自分を振り返ってみたことで、答えが見えてきたのです。
私は今でも向こう見ずなところがあるのですが(笑)、そんな私を心配してか、成人するまで親には厳格に育てられました。もちろん、愛情であることはわかっています。が、英国留学した時に解放感を得たのは、逆に言えばどこか窮屈に感じていたわけで、それだけ親も子も大変だったわけです。そして、留学後に入社した外資系企業の環境の良さ、その後の会社で感じたコミュニケーションの苦労。私のコーチングを一番受けてほしいのは、人を育てる立場の人。企業でいえば、チームリーダーだと。育てる立場の人、リーダーがコーチスキルを持っていれば、周りがどれだけイキイキできるかを私自身が体験してきたんです。リーダー自身が幸せになり、周りも幸せになり、さらに次へ次へとつながって、次代はもっと幸せになる。そう考えたら、とてもクリアになった。システムの開発もゼロからつくり上げるものですが、同じように、人を育て、人を生かす世のシステムをつくっていたけたらいいなと思いますし、自分自身もそんな世界の一員であり続けたい。自分がどうしたいか、そのためにどうするか。いろんなご縁に感謝しながら、人を育てることの大切さを伝えていきたいですね。
フリーランスのシステムエンジニア、IT翻訳を続けていましたが、出産で産休状態に。1年後くらいに、ようやく自分はどうしたいかを考えられるようになり、不思議なタイミングでコーチングに出合いました。自分はやはり仕事がしたい。息子が大きくなった時に、「ママが働いていてくれて良かった」と言ってもらえるよう、次の世代のために仕事を続けようと決意。ただ、本格始動は子どもが9歳になってからと定め、半在宅型で開発とIT翻訳をしながら、コーチングを学び始めました。それまで数々のITプロジェクトに携わる中でコミュニケーションの重要性を痛感していたので、コーチングを学ぶうち、IT業界や IT リーダーの役に立てることを確信。そして当初の目標どおり、息子が9歳になった年に屋号を新たに2度目の起業を果たしました。
開業資金はゼロです。コーチングの学費は、資格試験の受験料を合わせて約65万円です。
学費は貯蓄を充てました。
フリーランスでずっと仕事をしていたので、夫からの反応は特にありませんでしたが、IT業界の知り合いは驚いていました。「子育てもあるし、きっとこれまでのように在宅の開発とIT翻訳を続けるだろう」と思っていたのでしょうね。ビジネスのスタイルが変化しつつある業界なので、方向性に悩んでいる人も少なくありません。そういう人からの驚きが特に大きかったようです。
不安はありました。というか、誰をターゲットに定めればいいのか、独立後も定まっていませんでした。当初は、中小企業のITサポート、ITエンジニアのためのコーチングと考えていたのですが、改めて考えてみて、私がコーチングを提供したいと思うのは誰か?自分が迷っているから不安だったのだと思います。今はもう迷いがないので、不安を感じているよりも、やると決めたことを前に向かって進めるだけだと考えています。
IT プロジェクト関連のコミュニケーションに関しては、私自身がこれまでエンドユーザー側・ベンダー側で様々なポジションで 積んだ経験が大いに役に立っていると思います。
相談というより、まず話すのは夫です。セミナー講師の依頼を受けた時はマーケティング面での相談をしましたが、厳しく言われてしまって。「そこまでダメ出ししなくても」と少しムッとしましたが(笑)、やはり夫に話すことで私もどこか安心しています。
請求・入金管理です。IT系の仕事の時は企業のプロジェクト単位の請求・入金で、企業側がきっちりしていたため、私サイドの手間はほとんど感じなかったのです。でも、個人対象のビジネスとなった今、それらの作業が細かくて、こんなに大変なのかと。ちゃんとシステム化しなくちゃと思いました。まさに医者の不養生というやつですね(笑)。
クライアントが成長していくことを実感できるのがやはり嬉しいです。おそらくご本人も嬉しいと感じているでしょうが、それ以上に私が喜んでいると思います(笑)。子育てと同じく、その変化・成長スピードに個人差はありますが、私はずっと信じて寄り添って成長を支えていく。まさに子育てと同じで、とても大きなやりがいを感じています。
自分には無理!とあきらめなければ、道は必ず拓けると思います。子育てが一段落したぐらいの女性は、ちょうど迷いが生じやすいタイミングかもしれませんね。仕事に復帰しようと考えても、育児で休んでいた間のブランクがどうしても不安に感じるでしょうし、私自身も漠然とそう思っていました。でも、子育てしていた間というのも、何かしらの資源になっていて、何事も経験は次へつながる財産なのだなぁと実感しています。ブランクもひとつの経験であり、それはそれで資源になっていると考えて、前へ進んでほしいと思います。
独立した先輩の体験エピソード&独立支援情報