きとう・ひであき/愛知県出身。経営コンサルティング会社に 18年間勤務。常務取締役だったが雇われの身に限界を感じ、独 立。毎月1回東京で営業力と人間力を高める勉 強会「営業白熱カフェ!」も主宰。週末は地元少年野球チームの運営にも尽力。
「日本交流分析学会」の正会員であり、心理学を応 用した商談説得力強化プログラムも構築。経営者向 け月刊誌『近代中小企業』に4回シリーズで連載も
IT業界で起業していた友人のことが、ずっと気がかりでした。彼は前勤務先から仕事を受託していたのです。独立当初はそれもありですが、「いつまでもその状態ではダメだ、顧客を自ら開拓する力を持たないと」とアドバイスをしていました。が、リーマンショック後の不況で、とうとう経営困難に。気の毒とか、悲しいとか、そんな気持ちをとおり越して、友人を救えなかった自分が悔しかったですね。うるさがられても、嫌がられても、もっと強くプロのコンサルタントとして彼を助けるべきだった……と。仕事上の相談ではないからと、どこか私も遠慮してしまったのです。彼のような人を、もう二度と知り合いから出したくはない。それが独立を決意した一番の動機です。前々から漠然と、気持ちのどこかで物足りなさと限界を感じていました。
役員とはいえ雇われの身である以上、会社の方針が絶対です。と同時に、クライアントは私の仕事ぶりを認めてくれていても、雇われコンサルと、経営者の立場でコンサルするのは説得力が違うのではないかと自分で感じていて。もっとお役に立ちたいし、自分自身も納得できる仕事がしたい。そんな思いが、一気に強まっていったのです。ちょうど勤務先の形態をSOHO化することを提案していて、それを夏頃に実行できたことも独立の決意を後押ししてくれました。独立するならこのタイミングだと、SOHO化完了を待って11月に退職を申し出ました。残務整理などで実際に退職できたのは翌年の1月。それから3月の会社設立までの間、独立準備に一番注力したことは、自社の商品の強みは何かを徹底的に洗い出すことでした。商品とは、つまり私自身のこと。コンサルタントの商品は自分ですから自分の強みは何だろうと、それこそ眠れなくなるほど考え続けたのです。
セミナーでは、小道具に金屏風を用意することも。 ここまでやるからこそ、受講者にインパクトを与え、 考え方や行動に具体的な影響を及ぼすことが可能に
これまで18年間、経営的視点と営業改革による実践的なコンサルが私のやり方でした。営業に特化していることが特徴ですが、さらに差別化になると考えたのが、ゴールから逆算して組み立てる独自の営業の仕組みづくりの手法と心理学です。コンサルを生業にしている人の中には、中小企業診断士資格の取得を目指す人が少なくないのですが、私の場合にはその資格を取ることが特徴付けになるとは考えませんでした。とはいえ、独立したての個人事業主に社会的な信頼を示すものがあったほうがいいと考え、これまで学び、実践してきた心理学の知見を裏付けるために「日本交流分析学会」(本部:日本大学診療科内)に論文を提出し、正会員の審査申請をしました。アカデミックな学会なので、私のような立場の者が認定してもらえるか不安もありましたので、認定された時はさすがにホッとしましたね。
次に取りかかったのが、Webサイトの作成です。100%自分でつくりました。これは経費を削るためではありません(笑)。特に事業の立ち上げ期には、いろいろな修正点が出てきます。見栄えの良いサイトを専門家につくってもらうよりも、必要があればすぐに変更できる、そのスピードを重視したのです。コンサルでも指導していることですが、素早くリリースする、目的に向けて変化し続ける、変化スピードに対応する。この3点が、新たな取り組みをする時に欠かせない重要ポイント。この世の中、最初から何が正解かなんてわかりません。だからこそ、まずは動き、そこから変化し続けることこそが、今の経営に求められることなんです。それを自社のサイトでも実践したわけです。また、事務所は最初から持つつもりはありませんでした。資料作成は自宅でできますし、ほとんどはお客さんの会社へ出向きますから。事務所の場所や規模など、そんな体裁だけで仕事依頼の判断をするような方とは、お付き合いしなければいい(笑)。それに商品は私自身ですから、百戦錬磨の経営者の皆さんは本質をすぐに見破りますよ。セミナーも同様です。格好をつけても響かないし、普通に話せば普通にしか伝わらない。「そこまでやってくれるの!?」「すごい!」と言わせるところまで徹底することで、受け取る側の印象度は違ってくるのです。
独立前にもうひとつ考えたのは、自分ひとりだとどうしても視野が狭くなる、自分を客観視できる環境を得たいという思いでした。そしてネット検索して出合ったのが、「起業支援ネットワークNICe(ナイス)」です。全国各地の経営者や起業予定者が集うSNSで、リアルな勉強会も盛んでパワーを感じたんです。こういう前向きな人たちがいる環境に、自分の身を置くことが大事だと感じ、退職日の前日にオフ会に初参加。そこで、雇われない生き方に多くの共感やエールをもらい、晴れて退職。そして、独立してからセミナーや講演を通じて徐々にコンサルの依頼も入り、少し落ち着いてからNICeを見回してみて思うことがあったのです。「やはり営業面に不安を抱えている人が多いんだ」ということ。ただし、経営コンサルを依頼するには、それなりの費用を要します。みんながそんなに余裕があるわけでもない。ですが、私も放ってはおけない。もう二度と、友人のようなつらい目に遭わせたくない。仕事としてではなく、恩返しのようなことができないか。そう考え、NICeに「営業白熱カフェ!」というコミュニティを立ち上げました。
この「営業白熱カフェ!」では、営業に関することを話題に、SNSで自由に意見交換する。そしてNICe会員だけに限定しない、毎月1回のリアルな勉強会も開催しています。単に私が講義をするだけではなく、「カフェのような気軽さで、異なる業種・業界の人たちが共に営業力を高め、人間力を磨くための場」がコンセプト。毎月お題とこだわりのスイーツを私が用意し、ベースとなる講義の後に、参加者が抱える課題や相談などをフリーディスカッションしています。参加費3000円は、破格の安さだと自負しています(笑)。ひとりで事業を継続・成長させるには限界がありますし、ひとりで完結できる仕事もそうない。思いを同じくする仲間が集い、依存とは違う、自立した者同士が組み合わさって、つながっていけたらいいなと考えています。自社としては今後の事業アイデアもいろいろあり、また社会的にこれからますます重要になっていく心理学的なコミュニケーションスキルも広めたいし、“売り込まない”営業の仕組みづくりにも注力したい。いずれにしても、“人の役に立ち、自分自身も納得する仕事”を貫いていきますよ。
いくつか理由があります。ひとつは、独立した友人の会社の経営が立ち行かなくなったこと。アドバイスは何度かしていましたが、組織に属しているコンサルという立場が邪魔して、もう一歩踏み込んであげられなかったのです。雇われの身でなければ、もっと踏み込めたのではないか、役に立てたのではないか。その精神的な理由が、独立した一番の動機です。もうひとつは、26歳でコンサル会社に転職し、いずれ独立と考えていたものの長居してしまって(笑)。役員の立場にもなって独立のきっかけがつかめずにいました。ちょうど、社内をSOHO化することになったことと、部下がすでに育っていたことで、このタイミングでなら退職できると判断できました。
資本金は150万円。そのうち開業時に使ったのは、約30万円の会社設立登記費用のみです。自社の商品は私自身ですから、事務所開設費用を使ってまで体裁を整える必要はないと考えていたので、オフィスも構えず、PC類も自前です。Webサイトや名刺も、見た目よりも更新スピードを重視したので自作です。
これまでの貯蓄を充てました。
家族には相談や説得ではなく、決定事項として伝え、構想を話して協力を要請しました。覚悟を決めて話しをしたのでスムーズでした。親には事後報告でしたが心配していましたね。勤め先はちょうどオフィスを廃し、SOHO化した時だったので、退職を申し出るタイミングも良く、代表も部下も納得してくれました。
不安でしたよ。ゼロベースのスタートでしたから、世間に認めてもらうまでには3年は種まきの期間だと覚悟していました。もちろん今でもその時と同じくらい不安ですが、それは恐れているのとは違います。独立したからこそ実感できましたが、常に不安と隣り合わせなのは経営者としての当然の心理だと考えています。
会社設立の諸手続きに関しては、『アントレ』を購入して勉強しました。雑誌なので最新の情報が載っているわけですから。法律は変わりますから要チェックではないでしょうか。それ以外は、特にありません。
独立前は特にいません。現在の相談相手は、経理に関しては税理士ですし、自分にかかわる人全員が何かにつけて相談相手というか、話し相手です。NICeのメンバーも今は大きな心の支えになっているだけでなく、その中から仕事のパートナーもできています。
勤めていた時は、片道1時間半の通勤時間でしたが、それが独立後はないので、快適すぎることでしょうか(笑)。会社員当時と同じく朝6時に起きれば、すぐに仕事を始められる。子どもが帰宅後にキャッチボールをする時間もできた。夜も家族と一緒に夕飯が取れて、その後に仕事もできる。困ったことというよりも、こんなに快適でいいのかと不安になっちゃいます(笑)。
やはり、雇われコンサルの時には味わえなかった醍醐味を感じられることが一番です。自己責任ですが、すべてを自分で決められることですね。独立直後、700万円の仕事を断った時は、気持ち良かったですよ(笑)。確かに収入は増えるし、独立直後に断るには勇気も要りましたが、あまり依頼主の役に立つとも思われない下請け仕事だったので。勤め人ならきっと断ることなんてできませんよね。でも、金額よりも自分がなすべき仕事かどうかで判断しました。自分の意志で立つ、そこが独立の本当の意味だと思いますから。
自分がなすべき道を自ら切り拓くことが、営業であり、経営であり、独立だと思います。会社は辞めたけれど、勤務先の下請け仕事だけをして寄りかかっているとしたら、それは身分が変わっただけで本当の意味での独立と言えるのか? そこをしっかり自問して、それでも独立する意味があるのかを考えてほしいと思います。また、独立後は新規開拓をしなければなりません。でも、日々の業務に追われて時間が取れない経営者が多くいます。継続的な成長を図るためにも営業にかける時間を優先的に確保してください。そしてそうやってやるべきことをやっていくと、不思議にいろいろな縁にも恵まれてきます。意志あるところに必ず道は拓けるものです。
独立した先輩の体験エピソード&独立支援情報