つだ・ゆりこ／東京都出身。大学在学中、友人のイベント会社を手伝い、卒業後も同社で企画や教育に携わる。結婚後、携帯電話会社やダイナーの運営、IT企業勤務を経てフリーの経営コンサルタントに。その後、夫の岳彦さんと共に店を開業した。
ガラス張りでオープンな外観に、ハワイアンテイストの内装がまったりした空間を演出。カウンターには、料理を担当する夫の岳彦さんとトークしながらアルコールを楽しむお客さまが並ぶ
2007年だったでしょうか。食品偽造問題などが明るみになったことも影響し、食の安全がさけばれるようになってきました。また、お酒の飲みすぎで体を壊した夫に、玄米や野菜、乾物などを中心にした独特の食事法「マクロビオティック」を用いて、体調を整えていったりしていました。私自身も動物性タンパク質の摂取を控えると体調が良いことから、安全な食材を販売するネットショップをつくりたいと考えるようになったんですね。ただ、すでにそういった食材を専門に販売するネットショップはたくさんありましたから、実店舗の飲食店を拠点にして、そこから発信していくのがいいのではないかと。
最初はひとりで始めようと思っていたので、移動販売を検討したのですが、しっかりとした移動店舗をつくろうと見積もっていくと、実店舗を出す費用と、そう大差ないことがわかってきました。さらに、夫が勤めていた建築会社が経営不振のため規模縮小されることがわかり、「だったら、手伝ってよ！」とふたりで一緒に開業することに。夫はレストランに勤めていた経験もあったので頼もしかったです。ただ、世の中にはおいしいお店はいっぱいありますし、おいしいだけでお客さまが集まるわけではないとわかっていたので、人がやっていないことで勝負したいと独自のコンセプトを考えていきました。
店の雰囲気に合わせて開発したロコモコは、目玉焼きの代わりにパインを活用。鶏のから揚げにしか見えないものは、実はベジミート（大豆由来）。だが、味も食感も断面も鶏肉そのもの！
コンセプトを考えて行き着いたのが「レッツ・エンジョイ・ヴィーガンフード」でした。ヴィーガン（Vegan）とは「ベジタリアン」を短縮してつくられた言葉で、純粋菜食者のこと。乳製品やハチミツを含む動物性食品を避けて、穀物、豆類、野菜、果物を中心に取人（海外では革製品など食用以外の動物利用も避ける人も多くいます）を指します。国内のヴィーガン料理店は、海外に比べて圧倒的に少ないものの、日本にも数軒あるので、まずは食べ歩きを行いました。10軒ほど訪ねたでしょうか。そこで感じたのは、味の薄さやボリュームの物足りなさ。そして、「野菜料理店＝ナチュラルでおとなしいイメージ」を感じさせました。
そこで、見た目のボリューム感や味付けのバランスを大事にしてメニューを開発。マクロビオティックの考えに基づいた有機や無農薬栽培、化学添加物不使用の食材で、ヴィーガンの方も満足でき、かつ、ヴィーガンでない方でも満足するメニューを追求していきました。また、それでも物足りなさを感じる方のために、乳製品などをトッピングとして用意することに。内外装は明るく、くつろげる雰囲気を演出しようとハワイアンテイストのオープンスタイル。ヴィーガン料理だと知らずに店に入ってきた人でも、味と空間に満足してもらえる店、まさに「レッツ・エンジョイ・ヴィーガンフード」を表現しました。
独立準備を進める中でいちばん時間がかかったのは、物件探しですね。私は東京・世田谷区生まれ、目黒区育ちなので、土地勘のある地元でやりたかった。生まれ育って、よく遊んだエリアに絞って探していました。しかし、「リーマンショック後に独立・開業をする人が増えたので物件が少ない」と不動産会社の担当者に言われ、結局、現在の物件を見つけるまでに半年もかかったんです。両親との思い出がたくさんある三宿というエリアだったこと、前の店が中華レストランで居抜きだったことが決め手に。夫の前職が建築会社だったでしょう。彼の経験や人脈などを生かして、内外装は格安に仕上げることができました。
ここらへんは大きな公園もあるので、犬連れの人が多いエリア。ですから、うちもペットOKです。また、私も夫もお酒が大好きなので、オーガニックビールを始め、アルコールメニューも豊富に用意しています。早い時間からビールを飲みながら、ぼんやり景色を眺めてのんびり過ごしているお客さま。ちょっとヴィーガン料理店らしからぬ風景がうちにはあります。そんなお客さまをもっともっと増やしていきたいですね。三宿の商店会（R420商店会）は誕生してまだ1年で、私たちも加入していますが、このエリアは若いオーナーが経営している店が多く、商店会長さんも若手なんですね。だからか、街を盛り上げるイベントも多数計画中。昔からずいぶん遊んできた三宿ですが、今度はお客さまに楽しんでいただくために、商店会のメンバーと力を合わせて、街全体を盛り上げていきたいと思っています。
これまで様々な職業を経験し、いつか独立したいと考える中で、まずはフリーで教育業界やアパレル業界などの経営コンサルタントで独立したんです。そんな中、食の安全がさけばれるようになり、安全な食材のネットショップをやりたいと。でも、ネットショップはすでにいっぱいありますし、これから始めるなら実店舗から発信していくほうが良いだろう――そう考え、現在のお店を始める決意をしました。
900万円です。物件取得費に600万円、内外装費に50万円、什器や家具の購入費に100万円、仕入れに40万円。残り110万円が運転資金です。
900万円全額、自己資金です。学生時代から25年近く、様々な職業を経験する中で、貯蓄をしていきました。
これまで様々な職業に就いてきましたしね。誰ひとり反対する人はいませんでした。母には多少、体のことを心配されましたが、信頼してくれていますし、強い反対はされませんでした。
不安か？と聞かれれば、そりゃ不安だらけですが、具体的に何が不安だったかと思い出すと、特にないかも（笑）。「こんな不況の時期にやらなくても」と周囲は思っていたでしょうが、景気の良くない時代だからこそ、逆に、景気をあてにしないという覚悟もできましたしね。
インターネットですね。ヴィーガン料理のレシピ本も役立ちましたが、やっぱりネット検索でレシピ探しをするのが一番役に立ちました。
外資系企業で経営コンサルタントをしている兄です。彼は若い頃、インドやヨガに興味を持っていて、私自身、そんな兄に影響されてヴィーガン料理に興味を持ったので。一度相談しました。お金はしっかり管理しなさいということと、信用が一番大事だから、仕入品について、本当にオーガニックか、本当に動物性のものが使われていないのか、といった確認を怠らないようにと言われました。また、ヴィーガンである外国人の友人に、日本のヴィーガンレストランの印象を聞いたり、アドバイスをもらいましたね。開業後もオーストラリア在住の親友が、当店のブログ作成から海外のヴィーガン事情まで、あれこれ教えてくれています。
夫とふたりきりでやっていることと、独特の調理法のために、お店が混んだ際、お客さまをお待たせしてしまうことです。食材の新鮮さを保つために、つくり置きができないので、お客さまから注文が入ってから提供するまでに、どうしても時間がかかってしまうんです。
いつも同じ場所で、誰かを待っているというのは、いいですね。最近、常連さんが増えて、ちょっとでも顔を出してくれると、とっても嬉しいんです。また、その常連さんたちがお友達を紹介してくれるのも感激ですが、「この店、あまり人には教えたくないんだよね」と言われるのが、実は一番嬉しいですね。
独立準備を進める際に、ポリシーやコンセプトをしっかり決めることが大切だと思います。その次に、そのポリシーを貫くための武器を準備すること。しっかりしたポリシーとそれを守り抜ける武器があれば、心がゆらぐことはありませんから。当店は「レッツ・エンジョイ・ヴィーガンフード」という、完全菜食主義の方だけでなく、誰もが気軽にビーガンフードを楽しめる店というコンセプトを掲げています。そのコンセプトを貫くには、どんな人でも満足度の高いメニュー、入りやすくてくつろげる雰囲気などの武器が必要。そうやって順序立てて考えていけば、リスクがどんどん消えていくと思いますよ。
独立した先輩の体験エピソード＆独立支援情報
