先輩たちの独立事例集

先輩たちの独立事例集


松嶋匡史さんの写真

島の活性化に貢献する
手づくりジャム専門店

瀬戸内Jam's Garden/山口県周防大島町
松嶋 匡史さん(37歳)

まつしま・ただし/京都府出身。中部電力に約11年間勤務。パ リでジャムの魅力に出合い、5年計画で独立準備。妻の実家があ る周防大島に移住し、カフェとギャラリーを併設した手づくり ジャム専門店をオープン。趣味は農業と園芸で、自家農園も運営。

独立準備のがんばりどころ

地方の利点を存分に生かし、ライフワークとしての事業も考案

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自家農園や島内で取れた旬の果実を使い、年間約100種類のジャムをすべて店内厨房で手づくり。妻のちあきさん(写真中央)はシンガーソングライターであり寺の副住職でもある

新婚旅行で訪れたパリで出合った、コンフィチュール(ジャム)専門店。その素晴らしさに衝撃を受け、「ジャム店で独立できたら面白いだろうな」と思ったのが始まりです。飲食業は未経験。実現できるかというよりも、事業モデルを考えること自体が楽しくて。最初は都市部で開業したほうがお客さまも多いだろうし、出身地の京都で町屋を改築して和風なジャム専門店も面白いなと。でも、よくよく考えてみると、何がアピールポイントになるのか、コンペティターが出てきた時にどうすれば生き残れるのかなどなど、真剣に考えるように。その結果、果実生産者と常日頃からかかわれる田舎での起業がベストだと。そして、これは田舎での起業に向いているビジネス。また、田舎を元気にできるビジネスでもあることに気づいたんです。その瞬間、自分の力で日本の田舎を元気にすることが夢となり、自分の人生のテーマになりました。

以前から妻には「パン屋さんをやりたいな」とか「こんな仕事もしてみたい」など、冗談交じりに話していました。だから、今回もその部類だろうと、なかなか本気にしてくれなくて。そこで、企画書を作成して見せたところ、今までと違うレベルの話だと気づいてくれました(笑)。その企画書を妻が彼女の父に見せたところから、話は急加速。義父は周防大島にある「荘厳寺」の19代目住職で、妻はその3人姉妹の長女。義父としては寺を継ぐ人が欲しいけれど、過疎・高齢化の島で寺を継いでも食べていけないから言い出せない。そこにジャム専門店を起業する企画書が届いたわけです。

5年計画で準備し、ネット販売、夏季限定営業を経て、正式に移住&開業

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目の前に瀬戸内海が広がる絶好のロケーションの店内。カフェではスイーツ系はもちろんジャムを使った様々な料理を提供。ジャムの試食コーナーもあり

場所が決まったとはいえ、ジャムの製造法をイチから勉強しなくてはなりません。まず本格営業までの5年計画を立て、ジャム関連の様々な本を読みまくりました。岐阜、長野、東京など、おいしいと聞いたジャム店へ、製造法や瓶づめの方法まで教えてもらいに行き、そしてひたすら思考錯誤。テストでジャムをつくる果実にもお金がかかるので、煮込みはかなり小さな鍋で行い、数限りなく実験を繰り返しました。商品の多品種生産を目指していたので、果実の種類ごとに煮込み方法も下処理方法もいろいろ変え、同じ果実でも味付け方法によってどのような加工方法が最善かを徹底的に考え、何度も試作。何種類試したのか、数え切れないくらいです。試作と並行して、いろんな店へ行っては、店舗づくりやサービス内容をリサーチしました。

そして2003年秋に、最初の商品をネットで販売。当時はまだ会社員だったので、私が計画を練り、実動部隊の妻が2カ月に1度島に行き、ジャムをつくり貯めして、卸し、自宅へ帰ってくるという生活が続きました。そして、2004年に夏季限定で、島にカフェ併設のジャム専門店を開業しています。2007年6月末に会社を退職し、7月に移住して通年オープンを果たしたのです。こうして徐々に段階を踏んで事業を拡張してきたので、当初の5年計画の予定よりも早かった。まぁ、店を新築するに当たり、義父が土地や工務店をどんどん先に決めてしまったこともありまして(笑)。いずれにせよ、島の現状が一刻の猶予もない、差し迫った問題を抱えていることに気づいたので、早く本格営業が始められて良かったです。

2次産業のジャム生産で、1次産業の農業と3次産業の観光にも活力を

過疎・高齢化の進んだ島であり、島の農業も限界に近いと認識していたつもりですが、それ以上に、限界集落ならぬ限界島ということを肌身で感じて……。この島はみかん生産量が県下トップで、新鮮な果実類が多品種手に入り、田舎だからこその地域性を生かした、これまでにない発想のジャムづくりができると実感しています。ですが、この2年半で知り合った農家さんが「もう体力的に難しい。今年いっぱいで果樹を切る」とか「脳卒中で倒れた」とか。でも、島の主要産業であるみかん栽培では生計が成り立たないので、息子や孫に継がせない。若者は次々と島を離れていき、さらに高齢化・過疎化が加速する。年配の方々が、採算を度外視したライフワークとして、みかん栽培をしているのが現状です。

島で起業して地域を元気づけるだけでなく、この島で、農業で生計を立てられる仕組みをつくる必要があると強く感じました。島のジャム店として、またライフワークとして、加工や直販など農産物の付加価値を高め、農家さんへ利益を循環させていかねばと。それで現在、島の農業を元気づけるために「雇われ農家制度」を実施中で、その第1号として、いちじく農家さんの畑の維持管理を受け持つことが決定しました。また、果実の収穫やジャムづくり体験、農産物の販売所の設置、手づくりマーマレード生産を島の基幹産業にするなどの計画を構想しています。田舎にしかできない事業があるはずで、それによって島の過疎・高齢化問題も改善されるのではと考えています。その成功事例をぜひ、この島でつくりたいと頑張っているところです。

取材・文 / 岡部 恵 撮影 / 西山 喬

ちょっと気になる10問10答

  • なぜ独立した?

    2001年に新婚旅行でパリへ行った時に、たまたまコンフィチュール専門店に入ったんです。壁一面に、見たこともないジャムが並んでいて、日本にはない光景、食文化の違いに感銘を受けました。その店で20種類ぐらいのジャムを買い、帰国後、それらの説明をフランス語辞書片手に解読していくうちに、感動がさらに深まって、ジャム店を始めたい衝動に駆られました。そして妻と開業までの5年計画を立て、カフェとギャラリーを併設したジャム専門店で独立したのです。

  • 開業資金は?

    2500万円です。新築の店舗建設費に1500万円、設備備品に500万円、運転資金に100万円、厨房などの備品付きリース物件の礼金に100万円、内装工事に100万円、あとは備品や食材などの仕入れ、土地借用費などです。原材料の9割以上を占める果実は、地元の農家さんから仕入れました。ジャムが売れた時点で支払っていく方式なので、資金繰りに困ることはありませんでした。田舎ならではの、ありがたい人間関係です。

  • 開業資金はどう集めた?

    約1000万円は、義父からの借金です。義父はお寺の住職でかつ大学の教授でもあるので、信用のある義父の名義で借り入れしてもらい、金利分を含めて現在返金しているところです。残りは自己資金です。

  • 周囲の反応は?

    妻を説得するのに3カ月かかりました(笑)。納得後は、様々なアイデアを出してくれるだけでなく、最強のビジネスパートナーに。もともと妻はカフェが大好きで、「ジャム店をするなら、そのジャムをその場で楽しめるカフェが併設されている必要がある」と、複合店舗を提案してくれました。義父母は、島での起業にとても好意的でしたが、私の父母は心配性なので、十分やっていけると思えた2006年の年末に初めて打ち明けました。ありがたいことに、勤務先からは引き留める声が多かったです。

  • 不安だったことは?

    ある程度おいしいジャムはできるようになりましたが、持続可能な事業にできるか……。やはり独立前は不安でした。持続するためには、個性、つまり私だからこそできるジャムづくりができるかどうかにかかっていると考えていました。いざ島に入ると、あらゆる人が応援してくれて。農家さんが「これはジャムにならんか?」と様々な果実類を提供してくれたり、「みかんは青い時の方が酸味と香りが強いから、その時期にマーマレードにしては」など、都会では得られない知恵もいただける。この島でしかできない、そして私たちにしかできないジャムづくりは、この島にしかない人間関係によって生まれるのだとわかり、不安は自然と消えました。

  • 役立った情報源は?

    ひたすらジャム関連の本を読み、岐阜や長野などの手づくりジャム屋さんのもとへ行き、果実下処理の仕方や煮込み方法、長期保存させるための瓶づめの方法など、ジャムづくりに必要な技術を勉強したことです。またジャムにかかわらず、店舗運営・工房や店舗の構造の参考にと、様々な店舗や工房を調査し、ネットでもどのような商売の仕方があるか、実際に取り寄せて、そのサービス内容をチェックしました。ほかにも、『アントレ』で読んだ先輩起業家たちの経験談、自己啓発本、起業塾や起業相談で学んだ事業計画・資金計画なども参考になりました。

  • 相談相手は?

    ありとあらゆる人々が相談相手といえます。果実農家さんに、商工会の仲間、税理士さん、お客さま、従業員まで、すべての人が何かしら得意としていることを持っていて、誰もが先生だと感じています。

  • 独立して一番困ったことは?

    島へドライブに来る方々をターゲットにしていたので、想像どおりというか当たり前なのですが、実店舗営業を始めた初めての冬は、ほとんど売り上げがありませんでした。まさに“晴耕雨読”の日々(苦笑)。この時期に人を呼び込むこと自体をあきらめて、次への準備期間としました。たとえば、マーマレードの下処理・煮込みなど、冬の時期にしかできない人手のかかることをひたすら行い、春以降の需要に備えました。ほかにも、定期購入制度「ジャム屋の季節便」サービスを企画し、年間安定販売を目指したり、果樹は冬が剪定・移植に最適なので、果樹園を改造したり。その冬に行った取り組みが、今の糧となり、発展につながったと感じています。

  • 独立して一番良かったことは?

    お客さまだけでなく、果実生産農家さん、地域の人々、そして近親者など、人に喜んでもらえることの喜びを肌で感じることができること。自宅と職場が徒歩5分の距離なので、忙しくても家族と顔を合わせる時間が多くなったこと。当たり前ですが、今の年の我が子に会えるのは今しかないですからね。そして、生涯のライフワークとしてのマイビジネスを持つことができたことです。大きな目標を持つことにより、毎日が充実し、生きている実感を得ています。また、ここは過疎の島なので、若者が島に来て頑張っていることを多くの人から応援していただいています。そのエールに応えながら、この島で働ける自分は最高に幸せです。

  • 独立を志す人へのメッセージ

    自分に何ができ、何ができないかをまずは知ることです。できないことは、できる人に聞いたり、できる人にお願いすればいい。自分もそうですが、飲食業界で働いた経験もなく、自分の地元で起業したわけではありません。「わかりません。イチから教えてください」と素直に頭を下げて、なぜ教えてほしいのかという自分の思いや夢を相手にきちんと伝えれば、多くの人が快く答えてくれることを体感しました。一歩踏み出して自分をさらけ出すと、不思議と熱意は伝わるものです。目指すべきことがあるのなら、いくらでも未来を変えることはできると思います。「どこかにたどり着きたい所があるのなら、今いる所から旅立つことを決意しなければならない」。これは、私の座右の銘です。

開業
2004年7月(通年オープンは2007年7月)

開業資金
2500万円

従業員数
14人

年間売上高
4000万円(2009年12月実績)

アクセス
http://jams-garden.com/


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