たなか・まゆみ/愛知県出身。ファッション関連の専門学校と美容学校で学び、有名スタイリストのアシスタントに。2000年に独立。フリーのスタイリストとして花嫁のトータルコーディネートに特化して活動。2005年から、デコネイルのコーディネーターも。
ブライダル用のブーケや頭に載せるティアラなど、アクセサリーはすべて田中さんの手づくり商品。現在、ブライダル関連の仕事は少ないものの、すべてがオリジナルということで花嫁の喜びもひとしお
スタイリストになることを目標に、高校卒業後はファッション関係の専門学校に進学しました。着る物をコーディネートするだけでなく、ヘアメイクも完璧にこなせる、そんなスタイリストになりたいと思っていたんです。そんな夢を担当の先生に相談すると、「それなら美容学校にも行ったほうがいい」と。そのアドバイスに従って、美容専門学校にも通うことにしました。ふたつの専門学校を卒業した後、とある有名なスタイリストのアシスタントとして働き始めたのです。
その方のアシスタントを6年間続けましたが、まさにスタイリストとしての修業の場。当時の経験は、今もかけがいのないものとなっています。何とかひとり立ちできる自信が生まれました。でも、名古屋というマーケットを拠点に、スタイリスト業だけで仕事を獲得していくのは難しいと判断。ちょうど、ブライダル業界でレストランウエディングがはやり始めたこともあり、フリーランスで花嫁さんのヘアメイクを担当する人材の需要も増え始めていました。そこで、花嫁さんが着る物やヘアメイクも含め、トータルでコーディネートするスタイリストとして売り込んでいくことと決めたんです。
「デコネイル」は1セットの価格もリーズナブルで、シールのようにつめに張るだけで、簡単にネイルアートが完成する。実演販売では、幼い女の子や高齢の女性にも大好評
最初に起こした行動は、ブライダル専門のスタイリスト兼ヘアメイクがどのような仕事をこなしているのか、それを知るためにレストランウエディングの現場を見学に行くことでした。そうこうしているうちに生まれたのが、スタイリングやヘアメイクの単なる担当者ではなく、自分ならではのブランドを確立していきたいという思い。とはいえ、自分で自分を売り込むために、どんな営業スタイルが必要なのか、まるでわからない状態でしたね。まさに暗中模索、試行錯誤を繰り返していたんです。
ブライダル情報誌から依頼された仕事で、ブライダル専門のショップ回りをして小物集めをしていた時のこと。自作のブーケを持ち歩いていたので、そのショップの方にも見ていただいたんです。嬉しいことにそのブーケが好評で、しばらくして、そのショップとの取り引きを開始することができました。ところが……。ある日、移動のため車を運転していたら、交差点でトラックにぶつけられてしまったんです。幸いにして、けがはさほど大きくありませんでしたが、通院のために考えていたような営業や仕事の展開ができなくなりました。でも、今考えてみると、それは私にとっての転機だったと思うんです。時間ができて、仕事のことをじっくりと考えることもできましたし。ある意味でラッキーだったのですが、事故の保険金で念願だったオフィス物件も借りることができました。
花嫁さんに特化したスタイリングとヘアメイクは、ドレスショップと提携するかたちで進めました。そして、ブーケやアクセサリーは、おひとりおひとりのご要望に合わせてオリジナルで製作。「どこにもない、友人たちもやっていないウエディング」として、新郎新婦、そして、それぞれのご家族にも大変喜んでいただきました。が、またもや、私を悩ませることが。そのひとつは、レストランウエディングが定着したことにより、お店側のルールが徹底されてしまったこと。それでは、個々の花嫁さんの意にそぐわないものになってしまうのではという懸念が生まれました。具体的には、自分の思っていたお客様へのサービスと、契約する会場の価格帯バランスが崩れたことが大きいですね。そのため、「提案したいプランを行うにはいくらかかるの?」と考えることが先になってしまって……。それで、少しブライダルの仕事を離れて、一歩引いた状態で見てみようと。
そんな時に出合ったのが、現在、メインで事業展開しているネイル用のシール「デコネイル」です。ネイルアートのブームとも重なり、シールを張るだけでネイルアートが完成するシールは、私にとっても、「待ってました!」というもの。そこでさっそく、デコネイル事業を展開している会社に、自分も扱わせてもらえないかと問い合わせたところ、「ちょうど名古屋で実演販売イベントを予定している」と。さらに、「専任で実演イベントを担当してくれる人材を求めていた」ということで、いきなり私が専任スタッフになることに。それが2005年の夏のこと。イベントは大盛況で、以来、今日まで私が中心となって、名古屋でのイベントを担当しています。ブライダル関係の仕事は激減しましたが、あえてそれにしがみつかず、その時の状況に応じて素早く行動を起こしてきたことが奏功したんですね。デコネイルは、全国でも名古屋地区の売れ行きがいいらしく、名古屋限定商品まで誕生しています。現在は、ブライダル関連は特別に依頼があった時のみに対応し、ビジネスの中心は、デコネイルを使用したネイルアート。また、東海地区で起業した女性に限定したSNS「ビタ☆ショコ」の事務局スタッフとしても活動中です。そのメンバーと共に新規ビジネスを生み出していくことも、これからの楽しみです。
有名なスタイリストのアシスタントをしていた時に感じたのが、当然ですが、いつまでもアシスタントを続けていては、自分自身を売ることはできないということ。そして、世の中に大勢いるスタイリストのひとりとして、ただ、「私、スタイリストです」というだけではお客様に選んでもらえるわけがありません。そこで、ターゲットを花嫁に絞り、ヘアメイクもできるスタイリストとして、独立することを決めたんです。
20万円ほどです。ブライダル用のブーケやアクセサリーづくりのための材料費。それと、サービス案内の資料づくりのために使ったくらいです。しかも、最初の2、3月くらいで、こまごまと使ったのがこの金額。スタート当初は自宅を事務所として開業していましたし、そもそも大きな出費は考えていませんでしたね。
すべて自己資金、自分の貯蓄でまかないました。
そもそも両親は、スタイリストのアシスタントの頃から、「どこか会社にお勤めしたほうが……」と言い続けていたので、かなり心配していたようです。でも、私自身、人に使われることに限界を感じていましたので、どんなに反対されても、独立することを決めていました。
やはり、収入が安定しないことですね。開業1年後にオフィス用物件を借りてからも、「このままでは家賃も払えない……」というピンチを迎えたことも。私は、営業経験がなかったので、営業の仕方については本当に悩みまくりました。自分自身を売り込むわけなのですが、「それって、どうすればいいの?」と。でも、やっているうちに、無理に売り込むのではなく、お客様に満足いただける仕事を重ねていくことが一番。その積み重ねで依頼は増えていくものだということが、実感としてわかるようになりました。
異業種交流会には積極的に参加していましたので、そこで出会った方たちとの情報交換はとても役に立ちました。また、お客様との何げないおしゃべりも貴重な情報源ですね。女性同士の世間話、たとえば、どんなファッションがはやっているのかとか、どんなお店が女性に人気なのかなど。女同士のおしゃべりタイムは、時代の流れを知るためにも大切なことだと思います。
異業種交流会で知り合った先輩起業家の皆さんです。といっても、面と向かって深刻な相談をするわけでなく、お会いした時の雑談の中で、ごく自然に、話題が相談につながっていったという感じでしょうか。たとえば、悩むというほどでなくても、考えがまとまらなかったことに対して、「視点を変えて考えてみれば?」などという一言があるだけで、「あ、そうか……」と、気持ちがスッキリ。
ブライダルは、夏と真冬は急激に仕事が減るんです。その閑散期、収入をどうやって得ようか悩みましたね。悩んでいても何も始まりませんから(笑)、ブーケやアクセサリーづくりに没頭することに。今考えてみると、そのような時期は、モノづくりに専念すると割り切ってしまえば良かったんですよね。でも、開業当初は、シーズンによってこれほど需要の増減があることすらわかりませんでした。
私にとって、日々の仕事に、何か少しでも変化があることが次への意欲につながっています。今もシーズンによる波がありますし、はっきり言って、リーマンショックに端を発した不景気の影響が確実に出てきています。それでも以前のように焦ることがなくなったのは、やっぱり、「私は、自分の意思で、自分の好きなことをやっているんだ!」という喜びを日々感じているから。また、お客様とじかに接する仕事なので、「嬉しいです」「ありがとうございます」などと、感謝の言葉をいただけた時は最高の気分になれます。
独立相談を受けることがありますが、必ずお伝えしているのが、「やりたいことを、やらないままで考えているだけでは何も始まらない」ということです。やってみて失敗したら、それを教訓に、またチャレンジすればいいですからね。致命傷になるような大きな失敗は避けなければいけませんが、小さなやけどくらいの失敗なら、同じことを繰り返さないようにすることの教訓になります。また、独立によって大きな利益を得たいのか、儲けはほどほどでも、やりたい仕事に専念することで幸せを感じたいのか、そこをはっきりさせておくべきですね。
独立した先輩の体験エピソード&独立支援情報