先輩たちの独立事例集

先輩たちの独立事例集


高 加寿子さんの写真

地場産業を生かした
海外向け着物専門の通販

株式会社プチジャポン/新潟県十日町市
保坂 勉さん(32歳)

ほさか・つとむ/新潟県出身。大学卒業後、カナダへ語学留学。その後、エンジニアとしてフランス駐在を含め6年半企業に勤務。会社設立1カ月後にエディンバラ大学にMBA留学し、帰国後に事業を本格始動。趣味は読書とインターネット。お嫁さん募集中。

独立準備のがんばりどころ

海外生活で得た刺激がさらにふくらみ、退職。MBA留学前に会社を設立

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手芸素材としての布にニーズがあるため、仕入れた着物のほとん どは専門職人がほどき、裁断し、均一サイズ(幅36cm 長さ100〜200cm)で販売。サイトではインチで表示

大学で就活が始まる頃、母校の高専から送られて来た会報誌に、先輩の寄稿が載っていたんです。「学生時代にやっておけば良かったと思うこと」という題で、「英語をもっと勉強しておけば良かった」と。それを読んで、僕もきっと将来困るなぁと思いましたね。エンジニアとして社会に出ている先輩が言うことだから間違いないし、何より、僕は英語が不得意だったんです(笑)。いずれ困るなら、今のうちに勉強しようと、大学卒業後はカナダへ語学留学することに。「TOEICで700点を取れたら帰国する」と目標を定めましたが、最初のテストは325点……。もう泣きそうになりましたよ(笑)。それでも15カ月間必死に勉強して、目標得点をクリア。せっかく身につけた語学を生かしたかったので、いずれは海外勤務という前提条件で、帰国後に半導体メーカーに就職しました。

カナダでは英語力だけでなく、学友や日本人駐在員たちから大いに刺激を受けました。世界中から意欲的な留学生が集まっていて、中にはすでにスーパーマーケットを2軒も経営している起業家や、卒業後に現地の大学に編入して専門分野を究める学生も多かったんです。異国の地でバリバリ仕事する日本人の駐在員にも憧れました。「僕の頑張りなんて、大したことがない」という、ちょっと消化不良な気持ちが残ったんですね。そんな気持ちをずっと抱いたまま、会社員になり、フランスに3年半駐在していて、ヨーロッパ圏のビジネスに触れたことがまた刺激になったんです。「もっと勉強したい、MBA留学がしたい」。それで勤務先に休職願を出したのですが認められず、「それならば、退職して留学しよう」と。同時に、留学前に起業することを決めたんです。

身近すぎて気づかなかった故郷の魅力を、ニーズが見込める海外市場へ発信

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10坪のオフィス兼倉庫には、絹、綿、紬、ウールな ど、約1000柄を常備。顧客の8割はアンティークや 手芸好きな英国人。昭和初期の古布は特に人気だとか

普通なら、留学を終えて帰国後に起業する、という順番ですよね(笑)。でも、退職する=無職になるわけだし、どうせ帰国後に再就職するか起業するかで悩むわけでしょう? 会社を設立する、事業を起こすには相当なパワーがかかる。だったら、それは今でも後でも同じ。同じ大変なら、エネルギーがある今のうちにやろうと思ったんです。ただ、問題は事業プランでした(笑)。その時点で何の事業で起業するか、まだノーアイディア。そんな状況をフランス駐在時の先輩に話している時に、「十日町は着物で有名なんだから、海外向けに着物を売れば?」と言われたんですよ。僕の故郷、新潟県の十日町は、日本有数の絹織物の産地。両親はふたり共、着物関係の仕事に就いていました。あまりに身近すぎて、思い付かなかったけれど、確かにカナダやフランスに暮らしていた時も、日本の着物が現地では人気があったことを思い出しました。故郷の地場産業に貢献でき、留学中もネットを使えば活動できるじゃないですか。それで、海外向けの着物専門のネットショップで起業することを決めたのです。

会社設立の手続きをし、呉服店から新品の着物を仕入れ、英語版のサイトをつくり、1カ月後にエディンバラへ。朝から晩まで大学で勉強をすると同時に、デザイナーが加盟している現地の起業家グループにも参加しました。そこで、日本から持参した着物を見てもらい、意見を収集したんです。とにかく反応をじかに知ることに努めました。「海外向けにしてはサイズが少ない。オーダーメイドするのは高い。その前にそもそも着方がわからない」などの問題点も浮上しましたが、得たものは大きかった。たとえば、「着るというよりは、インテリアとしての装飾ニーズが高い」。また、意外というか、なるほど!と思ったのは、ヨーロッパの中でも特に英国のお国柄もあって、新品よりもアンティークの着物に高いニーズがあること。そんな意見を参考にもっと見てもらおうと、留学中も日本から着物を送ってもらい、3回ほど販売会を開きました。が、下宿先はどんどん在庫の山に……。着る、飾る以外に、何か用途はないのか。そんなことをずっと考えていました。

市場の真のニーズを現地で収集し、新品の着物からアンティークの布へと転換

帰国直前、起業家グループのイベントでビジネスコンテストの優勝者による講演会があり、質疑応答もできるというので、思い切ってふろしきにいっぱい着物を包んでいったんです。そこで、「着物を何かに使えませんか? どうしたらいいと思いますか?」とぶっちゃけな質問をしてみました。そうしたら、「染めも刺繍もすばらしい。表地よりも裏地のほうが鮮やかでいい。常に素材を探しているけど着物の布はまさにそれに使える。着物としてではなく手芸用の布としてならもっと売れる」など、日本人では思い付かない意見をたくさんもらえたんです。お客さまが着物をどう使うか、楽しむかを、僕の固定観念や価値観で決めてしまわずに、広く意見を聞いたことが大いに役立ちました。起業後の1年間は情報収集のためと割り切ったのが結果的に良かったです。最初は、「新品の着物を海外へ」と考えていましたが、今では手芸素材としての古布をメインに販売しています。それによって市場がグンと広がりました。

最近になって、日本語版のネットショップもスタート。それまで海外市場ばかり見ていましたが、着物そのものでなく手芸素材となると、日本にもニーズがあることがわかったから。地元メーカーのほか、月に数回、新潟や群馬県高崎市で開催される着物の競りや骨董市に出向き、欧米人の好みを意識して仕入れています。ここ十日町には、地場産業で培われた技術が今なお受け継がれています。織り、染め、縫製だけでなく、着物専門のクリーニング、修正、ほどきなど、それぞれの職人も多くいるので、仕入れた商品をメンテナンスして販売するには最高の環境です。ただ、その第一線で活躍している職人の多くは60歳以上。海外からも高い評価を得ているこの技術を、後世に伝えたいですよね。やはり僕自身がエンジニアでしたから、伝統工芸の技術を応用した「ものづくり」に貢献できたらと。今は小売業ですが、いずれは売りたいものを自社でつくれる生産工程を開発して、メーカーになるのが夢なんです。

取材・文 / 岡部 恵 撮影 / 羽鳥 宏史

ちょっと気になる10問10答

  • なぜ独立した?

    大学は工学部だったのですが、アントレプレナーの授業を受け、家庭用風力発電の事業アイデアをプレゼンしたことが、独立を意識した始まりだったと思います。そのプラン自体は「悪くないけれど実現までは遠い」との評価でしたが(笑)。社会人になってからも、「いずれ独立」という意識が高く、英国のビジネススクールへの留学を機に退職。学生=無職になるし、「どうせ帰国後に再就職か独立かを選択しなければならないなら、今してしまえ!」と会社を設立しました。1日でも早く起業すれば、それだけ修正もしやすい。留学後だとひとつ年を取るし、熱が冷めるかもしれない。そう思って決断しました。

  • 開業資金は?

    100万円です。会社登記、古物商申請手続きに20万円、着物の仕入れに約50万円、事務所開設費に30万円です。

  • 開業資金はどう集めた?

    貯蓄を充てました。資本金もそうです。

  • 周囲の反応は?

    父は着物メーカーに勤務していて、会社設立の翌年に定年退職の予定でしたから、喜んで従業員になってくれました(笑)。母も和裁の仕事をしていますので、協力してくれました。友人知人は、2対8で冷ややかな反応でしたが、好意的な意見として「扱う商品はいいから、ビジネスとして回転するシステムさえできればうまくいくのではないか」というものがあり、励みになりました。勤務先には当初、英国のビジネススクールへの留学中は休職扱いにしてもらおうと願い出たのですが、認めてもらえずに退職。海外に駐在している先輩や同僚は、ニーズはあるはずだと言ってくれました。

  • 不安だったことは?

    もちろん、すべてが不安でしたよ。どんな着物が売れるか、誰に売れるか、いくらで売ればいいか、すべてが手探りでしたから。ただ、海外向けの着物専門ネットショップの成功事例を知っていたので、「成功している=市場はあるんだ」という期待はありました。そのショップと同じではなく、差別化すればいいんだと。それと精神的なことですが、自分ひとりで事業を起こすと、何もかも自分で考えて決めないといけませんよね。起業する前は、「なぜ会社には相談役とか顧問がいるんだろう」と不思議に思っていましたが、起業してみて、アドバイザーがいないと何かと不安になるものだなと思いましたね。

  • 役立った情報源は?

    大学生の時に受講したアントレプレナー講座は、大企業向けの成功事例だったのでいまひとつ……(苦笑)。どちらかというと、会社を設立してから出会った人たちからの意見が役立ちました。留学直前に、新潟県中小企業再生支援協議会に相談に行き、面接してくれた人から「考えが甘い!」と頭ごなしに怒られまして。「留学するのなら、商売に全力を注げない。それならサンプルを持っていって、いろんな人に意見を聞いてみろ」とアドバイスされました。そのとおりに実行したことで、今の事業が回りだしたと思います。留学先で実際に顧客になり得る海外の人たちに商品をじかに見てもらい、忌憚のない意見をもらったことが何より役立ちました。

  • 相談相手は?

    起業当初は新品の着物を販売するつもりでしたので、仕入れに関しては両親や、両親の知り合いの呉服店に相談しました。英国留学中は、知り合った友人や先輩です。両親は今も良き相談相手です。

  • 独立して一番困ったことは?

    困ったわけではありませんが、特に気を付けているのはクレーム対応です。「注文して届いてみたら思ったモノと違う」という場合、返品してもらわずに返金しています。顧客はすでに「商品を選んで注文した労力」を注いでいるわけですから、「違う」ということに対してさらなる労力を負担させるのは、会社のエゴにほかならないという考えだからです。そうすると、2度目以降のリピート率が上がりますから。前職では顧客サポート部門のエンジニアでしたので、当時の経験が生かせているなと思います。

  • 独立して一番良かったことは?

    「思い立ったら吉日」ということを身をもって感じていることでしょうか。留学前に思い切って起業したからこそ、事業経営に必要となる具体的なアドバイスを留学中にいろんな人からもらえたと思うんです。その出会いや刺激は、会社勤めを続けていたら味わえなかったものだと感じています。

  • 独立を志す人へのメッセージ

    まずはある程度、自己資金を貯めてからチャレンジしたほうがいいでしょう。人に借りると、頭を下げるだけでなく収支報告の義務が発生しますし、事業プランも出資者の意向で影響されやすくなります。また、年間売り上げ計画は最高のケースと最低のケース、その下ぶれリスクを考えて、起業前に自己資金を多めに用意することをお勧めします。それと英国では、日本のテレビで昔放送していた「マネーの虎」と同じような番組があるのですが、そこに出演していた投資家のひとりが、「起業というのはアイデア5%、残りの95%は実行力だ」と言っていて、まさにそのとおりだと。考えているばかりでは何も動きません。小さなアイデアでも思い立ったら実行、失敗したら修正、うまくいっているならその要因を分析して、前に進むこと。これに尽きると思います。

設立
2007年7月

資本金
250万円

従業員数
2人

年間売上高
1000万円(2009年7月見込み)

アクセス
http://www.petitjapon.com


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