先輩たちの独立事例集

先輩たちの独立事例集


高 加寿子さんの写真

ネット販売も行う、
カフェ&バー併設の古書店

株式会社しましまブックスグループ/横浜市旭区
島原 亮さん(31歳)

しまばら・あきら/神奈川県出身。大学院の修士課程修了後、介護関連会社に約2年間勤務。「好きな本」を売ることで独立を決意し、退職。2005年、古書のネット販売を開始。4年後の09年に、「コーヒーとお酒が飲める古書店」として、実店舗もオープン。

独立準備のがんばりどころ

もんもんと過ごした介護会社勤務時代。その日常を打開するために独立の道へ

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「最近は、ゆっくりとくつろげる喫茶店がないから嬉しい」「好きな本を読みに来て、しかもコーヒーが飲めるなんて」など、まだオープン1カ月だが常連客が増加中

独立前は、今とはまるで違う仕事、介護関連の会社に勤めていました。本当は大学院のドクター(博士課程)まで行きたかったんですが、修士課程を終えた当時は、ひどい就職氷河期でして。今、就職しておかないと、ますます状況は悪化しそう……と。それで介護関連の企業に慌てて就職しました。ところが、新入社員にもかかわらず、いきなり支店長という名の責任者に。しかも、介護事業って、朝も昼も夜も関係ない世界で、深夜に呼び出されることなど日常茶飯事。365日、落ち着かない日々でしたね。また、社長が超ワンマンで、スタッフの意見などいっさい聞かないタイプ。だから常に職場が暗くて、その雰囲気たるや最悪です。「このまま自分の人生は続いていくのか……」。そう考えるたびにゾッとしていました。

そこで、「今のままではいけない。楽しくない毎日を楽しく過ごすために、動きださなければ」と。自分にとって一番楽しいこと。それはやはり、子どもの頃から好きで、大学院まで行った文学・文芸関連の本を読んだり集めたりすること。そんなことを考えているうちに、「文学や文芸関連の本を活用した仕事を始めるのはどうか?」と思うようになったんです。よく、「独立したいけど、自分に何ができるか? 何が得意か?」と悩んでいる人がいますよね。そんな場合は、やっぱり子どもの頃から好きだったことや、学生時代に没頭したことを思い出してみるといいですよ。若さゆえのエネルギーもあって、若い頃に熱中した趣味などには、いろいろなものが蓄積されているはずですから。そういう私自身も、一番好きなもの、「本」で独立しようと決意できたわけです。

買いためていた文芸関連の本を商品として、ネット古書店をオープン

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定年退職後の楽しみができたと、積極的に店を手伝ってくれるお父様の伸好さん。主に日中、コーヒーを楽しみながら本を選びに来るお客さんに対応している

独立を決意したといっても、そのための資金はゼロ(笑)。介護会社に勤務しながら準備を進めたこともあって、まずは自分が買いためてきた文芸関連の本を商品として、ネットの古書店をスタートすることにしました。もう時効だと思いますが、会社には黙って副業を始めたんですよ。それで、さっそく所轄の警察署に出向いて、古物商の届け出を。それが、2005年の1月でした。ホームページも自分でコツコツとつくりました。そして、ついに「2月にオープン!」したのですが、まるで売れませんでしたね(笑)。

介護会社には、その年の5月まで勤めていました。退職した後の2カ月間で、売れたのは数冊です。ネットショップですし、両親と一緒に住んでいる自宅で開業したので、何とか生活はできていましたけど。でも、両親に食費すら払えない、古本の買い取りの要望があっても引き取りに行く際のガソリン代さえまかなえない……。そんな状況から脱するために、急に思い立って運送会社で荷物の仕分けアルバイトをすることにしました。3日で辞めちゃうんですけど。「なぜ会社を辞めてまでネット古書店をオープンしたんだ?」、「このバイトでちょっとお金が入ったら、そこで満足しちゃうぞ!」と、自問自答した結果です。やはり、本の仕事に専念しなければと。

店主の顔を前面に出してアピール。そして、念願の実店舗にはカフェ&バーを併設

少しずつ売れるようになったのは、1年くらいたってからですね。そこそこ売れるようになると、次の悩みは在庫不足。手持ちの本は1000冊ほどしなかったので、とにかく、一般の方から、できれば貴重な専門書を大量に買い取りたいと。そこで、「古書の買い取り」をしていますという告知を強化。ネット検索で引っかかるように、SEO対策の本を読んで研究しました。また、自分自身、つまり店主の顔が見えることが大切だと考え、顔写真を掲載し、日記「しましまな日々」も毎日のように書きました。さらに、声も聴けるインターネットラジオ、旅行の様子をビデオに撮っておいて、編集した動画を配信したり。そんな総合的な工夫が、ネット古書店のPR効果を高めたのだと実感しています。その頃から、定期的に購入してくれるお客さん、それに買い取りの要望が急に増えましたから。特に買い取りは、それぞれのお宅にお邪魔することになるので、どんな店主なのか、それを事前に知りたいのは当然のことですからね。

そこそこ軌道に乗ってきた2年目の2007年に法人登記しました。そして、今年(2009年)の5月、以前から熱望していた実店舗もオープン。といっても、純粋な古本屋さんではなく、「コーヒーとお酒が飲める古書店」として、カフェとバーとを併設。ちなみに、喫煙も自由です(笑)。コーヒーとお酒が飲めるのは、それは、自分がそうしたかったから。お客さんと飲みながら、のんびりと古書談義。それが理想だったんですよ。実店舗の勝負はこれからですが、焦らずに、楽しみながらやっていこうと思います。幸い、定年退職した父が、喜んで店を手伝ってくれてるんですよ。健康のために体を動かしたいと、力仕事までしてくれています(笑)。

取材・文 / 田村 康子 撮影 / 小林 佐孝

ちょっと気になる10問10答

  • なぜ独立した?

    会社勤めに先行きの不安を感じて。しかも、環境の悪い会社でしたから、このままではいけないと独立を考え始めました。それで、「好きこそものの上手なれ」ではないですが、自分が一番好きで、一番打ち込める「本」をネットで販売しようと。最初は、会社勤めと並行して、副業的にスタートしました。現在扱っている本のジャンルを列挙しますと、文芸、古典、言語学、評論、演劇・戯曲・舞踊、思想・哲学、社会学・社会科学、精神・心理学、歴史、宗教・神智学・神秘、映画・芸能、メディア・出版、美術・アート、音楽、写真、ほか雑誌などです。残念ながら、アントレnetユーザーから要望が高そうなビジネス書は扱っていないです。すみません(笑)。

  • 開業資金は?

    0円です(笑)。開業時の支出はまったくありません。事務所は自宅、商品は自分がそれまで趣味で集めてきた古書が約1000冊。パソコンなどの備品も新調していませんし、ホームページも自作です。

  • 開業資金はどう集めた?

    資金はまったくナシという前提での開業でしたので、お金を集めようという発想がなかったです。そもそもお金をかけて開業するつもりもなかったんですよね。

  • 周囲の反応は?

    独立前に友人たちと話している時は、誰からも反対意見を聞きませんでした。でも、親しい友人たちから独立後に聞いたら、「ネットで古書店だなんて、きっとメシも食えないよ」と思っていたらしいです(笑)。今になってわかりましたが、友人・知人の9割が、「絶対にムリ」と感じていたということ。そういえば、一緒に住んでいる両親は、会社を辞めて独立するということに対して、何も言わなかったですね。自分と同様、「まあ、何とかなるさ。ダメならダメで、バイトにでも出て、やり直せばいいさ」と思っていたようです。

  • 不安だったことは?

    自分でも、簡単には売れないとは思っていたけど、最初に直面した不安は、「本当に売れない」ことでした(苦笑)。スタートして半年すぎて、やっとポツポツと売れるようになり、1年たった頃に、何とか固定客が付いてきたという感じでした。

  • 役立った情報源は?

    いい商品がなければどうしようもないので、まず、持っている在庫を買ってくれるお客さんより、いい古書を安く買い取らせてくれるお客さんが早急に必要でした。そこで、キーワード検索で引っかかるようにしようと、SEO対策の本を読みあさりました。わかったことは、ホームページの全テキスト中、5%ほどを検索でひっかかるキーワードにすると効果的ということ。といっても、そんなにバランス良くはいかないですよね。それでも、ホームページのテキストには、「古書」「買い取り」といった基本のワードや、買い取りに行ける場所の地域名などを散りばめておきました。

  • 相談相手は?

    特に相談はしなかったです。人の話に影響されやすいほうなので、「独立なんてやめておきなよ」と言われてしまうと、本当にやめていたかも(笑)。また、独立した当時は、古書を専門に扱うネットショップがさほど多くなかった。ですから、先に始めている人に相談するということもできなくて。それより、「自ら着々と準備して、さっさと始めてしまおう!」という気持ちが強かったです。

  • 独立して一番困ったことは?

    それはやはり、「売れない」ということです。自宅が事務所といっても、出かけなければいけないこともあるし、遊びにだって行きたいし、本当にお金がなくて、悲しくなるようなことがたくさんありましたよ(笑)。買い取りのために自宅から横浜市の中心部まで、自転車で40分もかけて行ったり、八景島の花火大会に誘われた時も、自転車をえっちらおっちらこいで、確か1時間半ほどかかったような……。今となっては、笑い話ですけどね。

  • 独立して一番良かったことは?

    会社員時代との大きな違いは、常に自由であるということ。僕の場合、好きな古書に囲まれて、好きな本を買い取ったり、売ったりすること自体が楽しいわけです。売れる・売れないはともかく、そんな、ニヤニヤしてしまいそうな毎日が始まったことが嬉しくて仕方なかった。もちろん、プレッシャーは大きかったです。同じプレッシャーでも、会社員時代に感じたプレッシャーとはまるで違う。決して心の重荷にはならない心地良いプレッシャーなんですよ。

  • 独立を志す人へのメッセージ

    独立して何かやりたい。そう思っているなら、行動を起こすことが第一ではないでしょうか。「あれをやりたい、これもやりたい」と、ただ言っているばかりで全然行動に移さない人もいますが、それではダメですね。とはいえ、新しい行動を起こす時は、ものすごいエネルギーが必要です。先が見えない部分がたくさんあったとしても、そこを突破する時のイメージとしては、目を閉じて、「えいっ!」と飛び込む感じです(笑)。不思議なことに、動けば何かがそこに連動してついてくるんですよね、必ず。ですから、「まず動く」。これ、本当に大事です。

開業
2005年2月(法人設立は2007年12月)

資本金
200万円

従業員数
2人

年間売上高
非公開

アクセス
http://shimashima-books.ocnk.net/


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