先輩たちの独立事例集

先輩たちの独立事例集


木村 直人さんの写真

星空を子どもに届ける
移動プラネタリウム会社

オフィス木村/東京都江戸川区
木村 直人さん(52歳)

きむら・なおと/神奈川県出身。学生時代、ジャコビニ流星群の観測を機に星空のとりこに。「天文博物館五島プラネタリウム」に勤務。閉館を機に「郡山市ふれあい科学館」へ。「葛飾区郷土と天文の博物館」勤務を経て独立。趣味も星空の写真撮影。

独立準備のがんばりどころ

ターゲットを教育機関に絞って事業を考案し、起業家支援施設に相談

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エアドームは直径5m、高さ3.2mで、20人ほどが入れる広さ。学校では主に体育館で設営する。この日は少し高さが足りず、天井にぶつかってしまった。写真提供/天窓工房

日本でモバイルプラネタリウムを始めたのは、私が4番目。先人は子ども向けのイベント会場などに行くケースが多く、投影に必要な機材を車に載せて、かなり遠いところまで商圏を広げられて営業しています。私もいずれは全国へ行くことを想定しましたが、まずは自分のオフィス周辺をメインに営業しようと。また、私は教育として子どもたちに天体の面白さや不思議を伝えたいと考え、メインターゲットを幼稚園や小学校などの教育機関に絞りました。学校の先生方は多忙です。プラネタリウムのある施設に生徒を引率するには1日がかりで、往復の道中の危機管理もしなくてはいけません。だったら、学校へプラネタリウムを宅配すれば、「1時間目/算数」「2時間目/プラネタリウム」なんていう授業ができますし、今年投影したら来年も……と、リピーターになる可能性も高いと考えました。

プラネタリウムに関する知識や経験はありますが、起業のための知識がまったくなかったので、まずは「東京都中小企業支援センター」に起業するには何をどう準備していけばいいのか相談に行きました。個人事業で始めるにも開業届けを税務署に出す必要があるとか、青色申告のほうがお得だとか。そんな話から、事業計画書の書き方、自治体の融資制度についてなど、相談員の中小企業診断士に初歩の初歩から教わりましたよ。その後、開業までに必要な準備を書いた表をつくって、終わった項目はチェックして、必要なことを思い出したら書き足していくなど、入念に確認。融資の申し込みもトラブルなく、スムーズに借り入れることができました。

コストを徹底的に削減! 投影機はサイズを指定し、オーダーメイドで

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会計士の一言で、透明袋にパンフレットを封入してDM発送。茶封筒のシールは、木村さんが漏らした一言に応えたシール張り会社社長によるもの。ヒラメキはそこかしこにある!

開業のための手続きを進める一方で、プラネタリウムの投影に必要な機材を調達していきました。星空を映し出すエアドームは、日本製のモノだと高額になるため、移動プラネタリウム先進国でもあるアメリカの商品を日本の輸入代理店に発注。投影機に関しては、付き合いのある投影機を開発する会社に相談すると、「ちょうど新しいタイプを開発しているところだ」と。だったらとわがままを言って、必要機材を運ぶ車に収まるサイズでつくってほしいと依頼。言ってみるものです(笑)。オーダーメイドに近いかたちで投影機を製作してもらえました。でも、これって重要です。ひとりで事業を始めようと考えていたわけですし、以前から持っていた車1台に必要機材が収められないと車を新調しなくてはならず、初期投資が余計にかかってしまいますからね。

コスト削減はそれだけではありません。ロゴマークは友人に無償でつくってもらい、営業活動用の事業案内のパンフレットや送付用封筒のデザインと原稿は自分で制作。印刷に関しても、印刷会社数社から見積もりを取って、もちろん価格の安い印刷会社に発注しましたよ。また、税務署へ青色申告の申込をすると、会計士がオフィスまで来て、申告に関する指導サービスが無償で受けられるのですが、それで訪れた会計士からヒントももらいました。会計士の方が帰りがけに、パンフを入れる茶封筒を見て「このパンフ、この茶封筒に入れるんですか。もったいないですね」とボソッと言ったんです。なるほど、開封率を高めるには、中身が見えたほうがいいはずだと、さっそく透明な封筒を購入しました。視点が違う意見は非常に重要ですね。それを使ったおかげか、850機関に配布して1機関から連絡があればいいほうだと思っていたのですが、意外にも5機関から問い合わせがありました。

広報には地方新聞などを活用し、取材・掲載で認知度アップを図る

広報には、新聞を使いました。地方新聞や地域誌には、必ず「情報をお寄せください」と連絡先が小さく書かれています。そこに「こんな事業を始めました」と投稿。最初のお客さまは図書館だったのですが、区の広報誌にその情報が掲載され、そこから大手新聞社の取材が入ったことで認知度が上がり、問い合わせも増えました。また、ホームページも広報のためには重要なツールです。これも、参考書を見ながら自分で制作しました。開業準備に半年近くかかりましたが、極力お金をかけずに手間をかけ、できる限り自分でやることで、低コスト開業が実現したと思っています。

開業して間もないので、不安なことも多々ありますが、地域の子どもたちに天体の魅力を伝えられるのはたまらなく楽しいですね。私はキャッチフレーズに「東京モバイルプラネタリウム」と付けているのですが、この事業は東京の方々に愛されて育つものだと思い、そう付けました。きっと今後、モバイルプラネタリウムを始める人が、星のように全国各地に増えていくと思うんですよ。その時に、それぞれが地域名を冠に付けて、いつか全国のモバイルプラネタリウム事業者でネットワークを組んで力を補完できたら。天体の星座のようで素敵だなと思うんです。

取材・文 / 石田 恵海 撮影 / 加納 拓也

ちょっと気になる10問10答

  • なぜ独立した?

    大学卒業後、ずっとプラネタリウム施設運営にかかわり、最後は好きな仕事をしたい一心で、非常勤という立場で自治体運営の施設に勤めていました。しかし、長く携わっていると自分の行く末が見え、行きづまる姿も見えてくるもの。そこで、50歳を越えていますが、新たな人生を歩む決意をしました。当初は天体望遠鏡のネットショップ開業なども検討したのですが、ネットショップは全国を相手にするので市場が広く、価格勝負になってしまいがち。好きだという気持ちだけで、後発で参入するのは無謀と結論を出し、途方に暮れていた2008年の夏、中国へ皆既日食を見に行ったんです。その皆既日食の様子を見て、自分の原点に立ち返り、やっぱり大好きなプラネタリウムでいくぞ!と。モバイルプラネタリウムでの起業を決断しました。

  • 開業資金は?

    800万円です。エアドームが100万円。投影機が500万円。パンフレットやホームページ制作費が100万円ほど。残りが運転資金です。

  • 開業資金はどう集めた?

    550万円は貯蓄と退職金です。250万円は、東京都江戸川区の融資制度「創業支援資金融資」を活用し、保証協会からの保証を受けて融資してもらいました。

  • 周囲の反応は?

    面白がられました(笑)。税務署では、担当者がどの事業に分類すべきなのかと困っていましたよ。両親は反対というか、ただただ心配していましたけど、人に止められて断念するような年齢でもないですし、それは家族もわかっていますからね。私が独身である気軽さもあるのでしょう。そう強く反対はされませんでした。

  • 不安だったことは?

    今でも十分不安ですよ(笑)。ニーズはあると確信して始めたことですが、お客さまがいなかったらどうしようかと。ずっと「お客さまからの問い合わせがない→不安になる→孤独になる→お客さまから問い合わせがくる→感激する」の繰り返しです。

  • 役立った情報源は?

    インターネットの存在は大きかったですね。私が活用した東京都江戸川区の融資制度の情報もネットで詳しく調べました。また、これもネットで知ってフル活用したのですが、「東京都中小企業支援センター」では、起業のイロハを教えていただきましたね。

  • 相談相手は?

    仕事関係の先輩に相談しましたが、「リスキーだから、やめろ」と。でも、それが「何クソ! 自分が好きで信じた道なんだから、とにかくまずチャレンジだ」と、自分にとっていい発奮材料になりましたよ。また、先にも話した「東京都中小企業支援センター」では、相談員の中小企業診断士に事業計画書の書き方や融資申請の注意点など、本当に様々な相談に乗ってもらいました。こちらは右も左もわからないわけですから、恥ずかしがらずにわからないことは人に聞く。これが大切だと思いましたね。

  • 独立して一番困ったことは?

    現在はひとりで運営しているので、何から何まで自分でやらなくてはいけないことですね。まっ、それも楽しかったりするんですけど(笑)。あとは、孤独感でしょうか。すぐ相談できる人がそばにいないのは寂しいものがあります。

  • 独立して一番良かったことは?

    とにかく仕事が楽しいことです。些細な雑用でも楽しいし、勤めていた時よりも断然喜びが大きい! お客さまから問い合わせが入ったら、即日、先方まで飛んでいってしまうくらいのフットワークの軽さです。それで、お客さまが驚いて喜んでくださることが、また嬉しいんです。

  • 独立を志す人へのメッセージ

    起業は誰でもできるものだと思うんですね。でも、続けるには先を読むことが大切なんじゃないかな。今は冬でも、夏はどうすればいいか、1年後はどうすればいいか……。先々の戦略を練っておくことが、結果、自分を支え、事業を継続させることにつながるはずです。また、事業を始める時はとにかく小さく、小さく。お金を極力使わないで、その分、知恵を絞ること。見栄を張らず、余計なものは買わない。できるだけ持っているものを使うことです。あとは「こういうこと始めるんです」と人に言いふらすことですね。私はよく行く居酒屋で「明日、封筒のシール張りをするんですよ」と常連さんに話していたら、実はそのひとりがシール張り会社の社長だったんです。それで「ご祝儀代わりに無償でやるよ」という話の展開になりました。言葉にすれば、誰かが助けてくれたり、ヒントをくれる。そういうものだと思います。

開業
2008年12月

開業資金
800万円

従業員数
1人

年間売上高
実績なし

アクセス
http://www.mobile-planetarium.com/


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