かとう・ふみお/東京都出身。大学卒業後にカメラ用スプリングの金属加工会社を創業。50歳でダーツに出合い、ボランティアでダーツ団体の運営、サポート、ダーツ機器の開発提供を開始。2002年に会社を閉じ、4年後に再起業。趣味はものづくり、ゴルフ、ダーツ。
1階はソフトダーツ場。パートナーの山口和子さんは、日本障害者ダーツ連盟の理事長も務める。金具ひとつで40cm低い障害者用になるスタンドも加藤氏が開発
初めてダーツを知ったのは、テレビで国際大会を見た時でした。「あんな狭いところに矢を放つなんて、何が面白いんだろう。変なスポーツだな」と思いましたよ(笑)。その数日後に、出入り業者の若者が、「ダーツって知っている?」と。テレビの感想をそのまま言ったら、後日にダーツボードを持ってきたんです。それで会社の壁にかけてやってみたら、面白いじゃないですか!(笑)。それからハマっちゃって、経験が浅いのに日本の大きな大会に出場して勝ち上がったものだから、余計にヒートアップしちゃったんですよ。
私はもともと誰かを応援するのが好きなのか、会社の従業員のために音楽スタジオをつくったり、プロゴルファーのパトロンのようなことをしたこともあるんです。当然、ダーツと出合ってからはダーツに夢中で、人生のパートナー、山口和子との出会いもダーツが縁です(笑)。ダーツの最高機関というのは、世界ダーツ機構(World Darts Federation/WDF)で、ダーツ・ワールドカップやアジア・パシフィックカップなどの国際選手権大会を主催しているんです。このWDFが公認している日本唯一の団体が、私たちが事務局を任されているジャパン・スポーツ・フェデレーションオブダーツ(Japan Sports Federation of Darts/JSFD)。年8回のトーナメントを行い、ランキングポイント制で国際選手権大会に派遣する日本代表選手を選ぶんです。そのために各地のトーナメントや国際大会に出向いて手伝ったり、ダーツスタンドや照明を自社で開発して低価格で貸与していました。
2階はトーナメントも行える競技用ハードダーツ場。料金は、入会金なし・時間制限なし・指導付きで月例会員が年齢別3000〜5000円、ビジタ−1000円
自宅も広かったので、開放して皆さんにダーツを楽しんでもらっていました。ダーツは老若男女、健障の有る無し問わず楽しめるユニバーサルなスポーツなんです。より多くの人に生涯スポーツとして楽しんでほしいと思ったのと同時に、世界レベルの日本人選手を育てて応援したかった。ただ、ダーツは日中でも照明をつけてプレーするし、朝まで楽しむ人もいる。自宅には100人以上来ていましたから、電気代だけで月10万円は超えていましたね。そのうち本業の会社が経営不振になり、自宅を手離さざるを得ない状況に……。これ以上、ボランティアで活動を続けることが難しくなったんです。
いっそ、サポートを辞めようかとパートナーの山口とも相談したのですが、やはり世界レベルの選手を育てるまでは続けていきたい。そこで、お店にしてプレー代をいただくようにすれば、サポート活動を続けられるのではないかと発想を転換。以前に湘南エリアのプレーヤーから、「湘南はダーツ人口が多い割にダーツスペースが少ない、ぜひ出店してほしい」と言われたことをヒントに、湘南エリアで物件を探しました。
ダーツをするには、ある程度の広さのスペースが必要ですし、ダーツの矢がボードに刺さる音が意外に大きく周囲に響くんですよ。さらに、皆さんがダーツを楽しみたい時間帯もバラバラ。たくさんの利用者が不規則に出入りすることになるので、隣近所との兼ね合いも難しい。だから、一軒家で、家屋が密集した住宅街ではなく、駅にも近くて駐車場もあったほうがいい。そんな物件を探して、1年後にようやく見つけました。ダーツの器具やイスなどは、自宅を開放していた時から持っていたので、開業資金をさほどかけずにオープンすることができたのです。
指導法やトーナメント運営法など、ダーツビジネスに関しては精通していますが、どうしてもボランティア精神が抜けなくて、経営的にはまだまだです。でも、ダーツの楽しさをもっと普及したい、世界レベルの選手を育てたいと頑張っています。以前に、トップクラス、障害者、ユース、シニア、一般の愛好家が集うトーナメントを2、3年続けたことがあって、とても好評だったんです。それを来年には復活させて、全国で月例トーナメントを開催しようと計画中です。継続できる組織づくりもサポーターの拡大も急務で、まだまだ課題は多いですが、やりがいは充分!このダーツスペースは、私の夢実現への第一歩なんです。
これまで20年以上、ボランティアでダーツ団体をいろいろサポートしてきて、いつか世界レベルの選手を育てたいと思ってきたんです。日本国内でトップになれても、海外の大会ではまだ実績が残せないのが現状です。ところが自分の会社が経営不振になり、経済的に今までのようにすべてボランティアで活動を続けるのが困難になってしまいました。そこで、この活動をビジネスにすればサポート活動も継続できると、オープンを決めたのです。
150万円です。物件取得費が100万円、内装の材料費と運転資金などが約50万円です。ハードダーツの器具やイス、テーブルなどの備品は自宅で使っていたものを流用できました。内装工事も自分たちで行って経費節減。ソフトダーツ(ダーツライブ/マトリックス各1台)は日本障害者ダーツ連盟のスポンサー企業でもある株式会社エム・ジェイ・エスさんからのご厚意でリース契約にしてもらいました。
ダーツのスタンドを自作し、販売して得た売り上げを資金としました。
「やめたほうがいい!」と言われました。み〜んなに(笑)。「もうのんびり暮らせば?」とも。でも、世界レベルのプレーヤーが育つまでは、のんびりできません。ダーツを喜んでくれる子の笑顔が忘れられないんです。皆さん最初は遊び感覚で始めるのですが、少し指導するとすぐに上達するんですよ。そうすると目の色まで変わるんです。そのうち、自分の実力を試してみたいとトーナメントに参加するようにもなる。そういう人たちを数多く見てきたので、周囲の反対も気になりませんでした。
何もないですよ。世界レベルの選手を育てるという夢にワクワクして、気持ちが前に進んでいましたから。早くオープンしたくて仕方なかったです。
周りの若い子どもたち、そしてインターネットです。物件探しは当初、じかに地元の不動産屋さんをまわって1件1件見ないといかんと考えていたんです。それが、ネットで簡単に調べられると、自宅に来ていた若い子に教えてもらいました。「お金はないけど店を出したい」と公言したことで有益な情報を入手できました。言ってみるものですね(笑)。
パートナーの山口とふたりで何でも相談します。アイデアを出すのは私のほうが多いんですが、「できるかな〜」と不安を口にすると、「やる!」と言い切るのは彼女。女性のほうが度胸は据わっているんですかね? それで、働かされるのは私ですが(笑)。
運転資金です。開店当初は私たちのほかに従業員を3人雇っていたので、人件費が大変でした。辞めてもらったのではなく、自然と辞めていきました。あまりに儲からないと感じたのでしょうね(笑)。多くのダーツ店は、お客さんがお金を投入して楽しむコイン制のソフトダーツで収益を挙げています。が、うちは競技用のハードダーツがメイン。何時間ダーツをしても利用料金なしで、ドリンク代をいただく程度でしたから、売り上げがなかなか上がらなかったんです。そこで、今年からは利用料金を少しでもいただくように月例会員制をスタートさせました。周りからは「遅い!」と言われましたが(笑)。
やはり、いろんな出会いがあること。ダーツの楽しさを知って目を輝かせる子、将来が楽しみなプレーヤー、応援してくれるサポーターに出会えることです。夢が徐々にカタチになって見えるので、あきらめずにオープンして良かったと思います。「辻堂に行けばちゃんとした指導が受けられる」「自分のダーツに迷いがあったけれど、辻堂で見てもらったら迷いがなくなった」とプレーヤーが店の評判をクチコミで広めてくれていることも嬉しいことです。
どんなビジネスでも、熱い思いがないと継続しないと思います。自分がどこまで耐えられるか、苦しい時に乗り越えられるかどうかは、精神的な部分が大きいですから。人生の最期にいよいよ動けなくなった時、「これだけのことをやったんだ」という満足感を得られるか、どこまで気持ちが満たされるか、そう思える事業なのかをじっくり考えてみたらいいと思います。自己満足の世界ですが、いくつになっても夢を追いかけていたいですからね。
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