とだ・まさお/神奈川県出身。高校卒業後、日本赤十字社などでのボランティア活動に励み、就職したのは30歳過ぎ。まずは介護ショップに勤務。その後、介護専門企業で新店舗立ち上げや企画・運営、売り上げ管理など様々な経験を積み、2006年に独立。
一番大切にしているのはスタッフマネジメント。介護業界で様々な経験を積んできた者もいれば、57歳でケアマネージャーの資格を取り、売り上げを伸ばしている人材も
1992年に介護ショップに就職して以来、ずっと介護業界で働いていました。介護保険制度がまだなかった当時は、「福祉に関することは、とことん利用する」という人がいるかと思えば、「よく知らないから、まったく利用していない」と、そんな人も多いという状態。つまり、基本的に平等に受けられるべき福祉が、不均衡で不公平な状況にあったんです。それで、「不均衡、不公平を是正し、コーディネイトするサービスが必要だ」と実感したのが最初です。といっても自分に何ができるかすら、まだわかっていませんでしたが。
2000年に介護保険制度がスタートしました。それに際して介護支援専門員、通称ケアマネージャーという職種が誕生したことは、私にとって「待ってました!」という出来事。その当時、大手企業の傘下にある介護専門会社で、介護ショップの直営店立ち上げや運営・管理に携わっていました。とはいえ、直接お客さまと接する機会も多く、個々の細かな相談にも乗っていました。ショップの運営業務で忙殺されながらも、「車いすが動かしにくい」「介護用品の扱い方がわからない」と連絡がくれば説明にお伺いする日々。その原因は、ケアマネージャーが担当すべき業務があいまいだったため、現場では混乱に続く混乱という状況だったからです。「そこを何とかしなければ!」と、ケアマネージャーのコンサルティングに特化した事業を考えるようになりました。
2008年秋に、神奈川県が主催した「かながわビジネスオーディション2008」に応募。「介護支援専門員の業務支援及び管理ソフトの開発と販売」のプランで入選を果たした
高齢者の介護というと、介護が必要な人をどう支援するかということだけに目が向けられがちですが、「支援をするケアマネージャーを支援する」という視点がなければ、結果、要介護者もケアマネージャーも共倒れです。多くの人がそこに気づいていながらも、ケアマネージャーの支援だけに特化した事業を行う会社はありませんでした。だからこそ、何が何でも自分がやらなければという使命感のようなものが生まれたんです。ケアマネージャーの給与体系の整備、能力評価方法の確立、モチベーションを高める処遇整備など、やるべきことは盛りだくさんでした。
独立に当たっては、高齢者介護の現場で経験を積んでいて、ケアマネージャーの資格も持っている人を当初からスタッフとして迎え入れることを決めていました。ところが会社設立と同時に募集をかけてみると、一向に志願者が現れないんです。その原因は、社会保険などの加入手続きをしていなかったことにありました。設立当初は私ひとりでしたから、社員が入ってからでいいかと考えていたのです。でも、社員を雇う予定なら、会社を設立した時点で社会保険や雇用保険などの手続きを済ませておくべきですよ。確かに、経営者としての義務であり、就職希望者にとっては会社選択の大切なポイントですからね。現在、当社には数名のケアマネージャーが在籍し、地域の介護事業所と連携して業務を進めています。当社の特徴は、こちらが一方的に決めた内容や時間だけでなく、要介護者からの要請に応じて臨機応変に対応していること。また、月ごとの予算管理も行いますが、要介護者の状態が良くなった場合の手当支給などでケアマネージャーの報酬も上げていきます。それによってケアマネジャーのモチベーションが高まり会社としての売り上げをアップさせることができるという仕組みです。
一番大切なのは人、つまりスタッフの確保だと確信していました。そのためには先行投資もいとわないつもりでしたので、国民生活金融公庫(現・日本政策金融公庫)に融資を願い出たんです。結果的に750万円の融資を獲得しましたが、実際の融資決定までが約1年と、それは長い道のりでした。最初にダメだと言われ、あきらめてしまう人が多いという話を聞いていましたが、私は絶対にあきらめませんでした。売り上げ目標や収支計画の立て方など、微細な数字を何度も訂正しては窓口に通い続けたんです。担当の方が親切に指導してくださったことも大きいですが、私の熱意が伝わってのことだと自負しています。
最初は確認有限会社として、資本金200万円で設立しました。株式会社として組織変更したのは今年(2008年)で、資本金も1450万円に増資しています。現在は、有限会社を設立することはできませんが、少ない資本金で、徐々に増資していくという方法はお勧めですね。増資していることで、しっかりと収益を挙げていることの証明になりますし、事業そのものへの賛同者が増えたと理解してもらえるからです。ケアマネージャーの支援に特化したこの事業、今後、全国に浸透させていくことが目標です。それが、高齢化社会に向かって突き進む日本の不安払拭につながると信じています。
介護専門企業に勤務していた当時、高齢者福祉サービスの質向上のためにはケアマネージャーの支援が必要だと痛感していました。ところが、それを何とかしようという動きは公的にも民間にもなく、だからこそ自分がやらねばという思いが募っていきました。まさしく、その思いを凝縮するごとく、2年間かけて事業計画書を作成。「絶対にやり遂げて見せるぞ!」と、満を持して独立しました。
800万円です。当初からオフィスを借り、社員も雇うつもりで用意した金額です。が、思うような物件に出合えず、自宅を事務所としてスタートしたため、資本金に200万円を充てたほかは、ほとんど使いませんでした。結果的にほぼ全額が、人材採用への先行投資と、運転資金となりました。
800万円は貯蓄していた自己資金です。1年後、国民生活金融公庫(現・日本政策金融公庫)から融資を受けました。
反対されるようなことはありませんでしたが、不安に思っていた人は多いでしょうね。妻は、「きっと反対してもムダだろう」と思っていたはずです。ケアマネージャー支援に特化し、居宅介護支援だけを対象にするという業態は珍しいんです。だから同じ介護業界の人たちも、「それで大丈夫なのか?」と感じていたようです。
開業前に不安だと感じたことは一度もありません。ただ開業後は、社員がなかなか雇えなかったり、資金繰りが難しい月など、不安になることも多少はありましたよ。でも、常に不安を払拭する方法を考え、時には人の支援を受け、常に悪い方向に進まないように、自分と会社を操縦してきました。
インターネットでの情報収集が一番役に立ちました。会社設立のために必要な書類、その記載の仕方。さらに融資に関することなど、情報を得るために毎日パソコンに向かっていました。また、中小企業庁、中小企業基盤整備機構、それに神奈川県の起業支援制度に関する部署などには足繁く通いましたね。司法書士などに設立も融資も任せるという方法もありますが、自分の会社ですから、やはり自分で動くことが一番だと考えたんです。
藤沢市の商工会議所の担当者です。商工会議所は、起業に関するあらゆる相談に乗ってくれる最も身近な機関ではないでしょうか。社会保険や労働保険の加入方法など、ことあるごとに相談しました。また、地域密着の機関ですから、地域とのつながりができます。今も定期的に開催される交流会に必ず参加するようにしています。起業を予定している個人でも入れますから、お勧めですよ。
特別に困ったことはありませんでしたね。というのも、以前の勤務先で介護ビジネスに関する様々な艱難辛苦を経験していたからでしょう。たとえば直営店を任された時は、「これまでの売掛金をすべて洗い出し、なぜ売り上げがアップしないのか、その原因を突き止めろ」という指示が。大企業でしたから、その細かさは半端ではありませんでした。過労で体を壊してしまったこともあり、当時は本当につらかったですね。でも、その経験があったからこそ、起業後のいろいろな出来事に冷静に対処できたのだと思います。
自分がやりたいと思ったことができることです。会社勤めでもできないことはないですが、社内での説得など、実行までに時間がかかってしまうでしょう。それが自分の会社なら、自分の意思で、自分が立てた計画で、自分のやり方で実行できる。それが何より嬉しいことですね。
独立したら、何があっても継続すること。これに尽きますね。そして「これをやる!」と決めたなら、あっちこっちとフラフラせず一点に集中することです。私の場合、ケアマネージメントサービス向上のために、ケアマネージャーの支援に特化した業態ということに徹していこうと決め、それだけに集中しています。あきらめずにとことんやっていれば、たとえ調子が良くない時でも不安になることなく、「こういうこともあるさ」と冷静になれますから。本田宗一郎さんなど成功した起業家は、どんな困難に出遭っても決して逃げていませんよね。特に若い人は何度もやり直しがきくんですから、やりたいことが決まっているなら、ぜひチャレンジしてほしいです。
独立した先輩の体験エピソード&独立支援情報