きまた・さぶろう/群馬県出身。美容専門学校を卒業後、3店舗のヘアサロンを経験し、美容学校の講師に。チェーンのサロンに勤務後、独立。事業を通じた社会貢献を理念に、売り上げの一部を福祉施設に寄付している。趣味はプロ野球観戦。
美容と喫茶のスペースが交じり合った空間をつくりたかった。が、それでは保健所の許可が取れなかったためやむを得ず仕切りをつくり、美容と喫茶の空間を分けた
利益だけではなく、自分とお客さまの心の豊かさを追求することで、社会に貢献できるヘアサロンをつくりたいというのが最初の発想でした。ヘアサロンは長時間滞在する場所ですから、長くいてもお客さまが癒しを感じられる空間を目指したかったんです。そこで、ヘアサロンだけでなくカフェも併設し、ゆったりと時間を過ごせる複合ショップをつくることに決めました。
物件探しは、電車を使って様々な駅を回り、街の雰囲気を把握することから始めました。その中で絞り込んだのが、以前勤務していて土地勘のある東京・中野と、ひとり暮らしの若者たちに人気のある三軒茶屋のふたつ。両方ともアクセスが良く、ヘアサロンが多い激戦区。でも、あえてそういうエリアを選んだんです。というのも、人が多く集まる場所でないと、スタッフがなかなか集まらないんですよ。結局、いくつかの物件を内覧し、三軒茶屋にエリアを定めました。結果、予想以上にスタッフ応募があったので、成功だと思っています。
キマタさんは経営に集中し、「サロンワークはスタッフが主役」と一任している。しかし、以前からの常連客や指名が入った時は、鍛え上げた技術を披露する
物件の決め手となったのは、自然光がたくさん入るガラス窓が多かったこと。それと路面店だったことです。バリアフリー設計にしたかったので、路面店という条件は譲れませんでした。内装は、昔の喫茶店のような落ち着きと温かみがあり、誰もがリラックスできる空間を目指しました。飲食店関連のインテリア本などを集めて方向性を決め、内装業者に細かく指示を出しながら工事を進めていきました。
ただ、予算の関係で内装に使用する素材のランクを落としたり、排水設備をつくるのに、床の底上げをしなくてはならなかったり。問題が次から次に起こりましたよ。さらに、カフェとヘアサロンが一体になった複合ショップをつくりたかったのですが、なかなか保健所の許可が出なくて……。結果、カフェとヘアサロンの間に仕切りをつくることでクリア。どうにか保健所の許可をもらうことができたんです。
店舗づくりで大変なのは、何といってもいろんな業者さんとの交渉ごとでしたね。たとえば、内装業者から「この金額では、希望の内装はできない」なんて言われると、僕が内装に関しての知識が乏しいと見られて、吹っかけられているんじゃないかと疑ってしまい、疑心暗鬼というか人間不信になったりして(笑)。もっと知識をつけておくべきだったと反省したところもあるんですけどね。
カフェとヘアサロンの複合ショップはあまり一般的ではありませんから、存在が認知されるまではカフェだけを利用するお客さまは少ないのではないかと思っていたんです。が、意外や意外! まだオープンして半年もたっていませんが、カフェ利用がけっこう多いんですよ。お祭りなど地域イベントも多い場所なので、焦ることなく少しずつ地域になじみながら、三軒茶屋に住む人々から愛される店を目指していきたいと思っています。
チェーンのヘアサロンで店長をしていたのですが、利益だけを追求する仕事に疑問を感じたことが最初のきっかけです。師匠とも言うべき先輩が、交通事故に遭って身体障害者になったのですが、彼が地域の人に支えられている姿を見て、美容師をしている自分にも何かもっと社会に貢献できることがあるはずだと。たとえば、福祉施設に寄付をしたり、福祉施設でヘアカットのボランティア活動をしたり。そんな社会貢献活動を自分の意思で行うためには、サロンを持ってオーナーになることだと考え、独立を決意しました。
3000万円です。物件取得費で600万円。内外装費や設備費などで1500万円。備品類や仕入れ費などで200万円。Webサイト制作やチラシ制作費で100万円。スタッフ募集のための広告費が30万円。残りの570万円が運転資金です。
すべて自己資金です。18年間、必死で貯めてきた貯蓄を使いました。
友人たちは、雇われているより、経営しているほうが僕らしいと応援してくれました。「絶対失敗する」と陰で言う人もいたのですが、そういうねたみのようなことを言う人はどこにでもいますからね。逆に「今に見てろよ」という、モチベーションアップの材料になりました(笑)。反対したのは、身内です。家族はみんな公務員なので、かなり心配されましたよ。「チェーンのヘアサロンに勤めているほうが、安定しているじゃない」と。でも、結局は身内の反対を振り切って、独立を決めました。
内装工事をしている間は、ずっとイメージどおりの店になるかどうか不安でしたし、スタッフ募集をした時はスタッフが集まってくれるかどうかが不安。計画どおりに売り上げが上がってくれるかどうかも不安。もう、不安だらけでしたよ! でも、初めての挑戦には不安は付きものじゃないですか。だから、不安になって当然と思うようにしていました。
内装のイメージを決めるに当たっては、飲食店関連のインテリア本を活用しています。あと、僕は朝4時に起きるんですが、この時間帯に放送されているテレビの情報番組が意外に面白いんですよ。最近のトレンドを知ることができ、役立ちましたね。
相談という意味ではいなかったですね。グチを聞いてもらった人はたくさんいましたけど(笑)。友人に対しても事後報告で、僕は人に相談するタイプじゃないみたい。そもそも人に相談すると、自分の考えがブレてしまいそうで怖かった。自分を信じて、自分の思いに忠実に進みたいという気持ちがあったので、相談しないことにしてたんです。
まだ開業して3カ月なので、ものすごく困るようなことはまだ体験していません。ただ、計画よりも売り上げが低いのが、現状の悩みどころではあります。1年間のワンシーズンを経験して、街の特性をしっかり把握できれば、改善策が見えてくると思っていますよ。
困ったことと同じで、開業して日が浅いですから、ものすごく良かったと思えることって、まだ実感がないですね。ただ、自分がやりたいと思ったことを、自分の意思で自由にできる幸せを毎日かみしめています。
独立したての僕が言うのもはばかれるのですが、信念って大事だと思います。「なぜ、この事業がしたいのか」という源ですから、つまずいた時も信念があれば立ち上がれるし、周囲からねたまれたりしても、事業にかける思いは揺るぎません。何よりもモチベーションが上がります。ぜひ、信念を大切にしてください。
独立した先輩の体験エピソード&独立支援情報