先輩たちの独立事例集

先輩たちの独立事例集


新関さとみさんの写真

山形のお袋の味を伝える
漬物専門の料理研究家

さとみの漬物講座企業組合/山形県山形市
新関さとみさん(44歳)

にいぜき・さとみ/神奈川県出身。山形県育ち。大学卒業後、東京の外資系製薬会社に勤務した後、山形にUターン。自然の豊かさや地元野菜のおいしさに改めて感動する。1995年に結婚し、義母の漬物の味にほれ込み、起業。1児の母でもある。

独立準備のがんばりどころ

漬物のつくり方をレシピ化するため、細かな統計を取って分析

写真

漬物で使用する野菜はもちろん地物で、色付けは紅花など天然素材を使用。漬物レシピはネットに公開し、ファンはその更新を楽しみに待っている

山形はいろんな野菜の漬物をつくるところで、地元で取れる野菜がとってもおいしいんです。でも、住んでいると、当たり前すぎて見逃しがち。私は大学時代と会社勤務時代、東京に住んでいました。その後、Uターンしたことで、地元の魅力に気づいたことが起業の第一歩となりました。また、嫁ぎ先の義母のつくる漬物がとってもおいしくて、あんまりおいしいものだから、つくり方をしょっちゅう聞いていたんですね。しかし、「塩はどれくらいの量入れるんですか?」と聞いても、「だいたいでいい」とか(笑)。義母にとっては長年にわたって当たり前につくっているものなので、数値では説明できないわけです。

そこで義母が漬物をつくる際、塩を入れようとしている手を取って、その塩を秤(はかり)に乗せて重さを量り、統計を取っていきました。すると不思議なことに、漬物づくりの文献に書かれている数値とほとんど一致していたんです。その数値を参考に、自分で何度も漬物をつくっていったのですが、時には失敗する時もあります。その時々に義母に相談すると、天候の違いや、重しの石の乗せ方など、いいアドバイスが聞けるんですよ。それで漬物の魅力にすっかりハマってしまい、この漬物の味を伝承していけないかと考えるようになっていきました。

直売所で手づくりの漬物を販売し、マーケティング

写真

オリジナルの漬物ダレのほか、顧客からの要望に応え、レシピ本『さとみの漬物講座』を2005年に上梓。県内の書店とネットでの販売だけにもかかわらず、静かに版を重ねている

義母の漬物の味が近所でも評判となり、一度、山形名物でもある青菜(せいさい)漬けをつくってほしいと頼まれたんです。が、あまりにも多くつくってしまい、漬物が残ってしまった。近所におすそ分けするとしても、地元ではみんなつくっている漬物だから迷惑だろうと。そこで、「近くの野菜の直売所に出してみたい」と家族に相談。「そんなの売れないよ」という反対を押し切り、雪の降る中、長男を背負って直売所に行き、販売させてもらいました。すると、驚いたことに一瞬にして売れてしまったんです。小銭が入ってきた喜びもあって、「漬物をつくっては直売所に持っていって販売」を繰り返しました。今考えると、マーケティングみたいなものですよね。

ある日、直売所に行くと、お客さんのひとりから「あなたの漬物は飽きないの。つくり方を教えて!」と言われ、レシピを教えると感激して帰られたんです。そんなこともあって、さらに漬物のレシピづくりにのめり込んでいた時、知り合いから「地元のケーブルテレビの番組がもうすぐ終わるので、次の案を探している」と聞きました。そこで「料理番組はあるけれど、漬物の番組はないので面白いのでは?」と提案。すると、「じゃあ、出てよ!」と。まさかでしたが、山形のお袋の味を伝えていくにはいい機会だと出演することにしたんです。

「夫が醤油醸造会社を経営」というメリットを生かし、オリジナル商品を開発

ケーブルテレビの出演によって、そうとう鍛えられました。ネタ切れにならないように、常に漬物レシピを考える必要がありましたし、季節感や手軽さも重要。直売所での販売とテレビ出演によって、「私の漬物は、古くからの手間隙かけてつくる山形のお母さんの味と、メーカーが大量生産する味の真ん中を狙うべき」なのだというポジションも把握できました。伝統の味を少し現代風にアレンジして手軽さをプラスしたもの、それが私の漬物がウケている要因なのだとわかったんです。そこで、夫が三代目として醤油醸造会社を営んでいるメリットを生かし、より手軽に漬物がつくれるよう、オリジナルの漬物ダレと醤油を考案。ネット販売をスタートしました。

ネット販売やテレビ出演の影響により、漬物講座の開催などを依頼されるケースが増加。それもあって事業として体制を整えようと、企業組合を設立しました。この組織形態を選んだのは、最低資本金の規定がなかったことや、漬物の師匠でもある義母と叔母、私の母親と一緒にやりたかったことが理由です。現在、漬物を販売しているのは、直売所と農産物のイベント会場が中心。ネットでも少し販売していますが、私は山形のお袋の味を残して地域の伝統文化を絶やさないよう、あくまでも自分で漬物をつくる楽しさやおいしさを伝えることにこだわっていきたい。ひいてはそれが、地域の活性化にもつながるはずだと。そう考えています。

取材・文 / 石田 恵海 撮影 / 魚住 貴弘

ちょっと気になる10問10答

  • なぜ独立した?

    独立したいと思って始めたことではないですし、どこからが起業と言えばいいのか難しいです。でも、子育てしながら主婦をしていた時、社会から遠ざかっていることに寂しさがあったことが背景としてありますね。漠然と何かしたい、という気持ちもありましたし。地元ケーブルテレビでの漬物の料理番組出演や、漬物講座の講師依頼も増えてきたことで、ちゃんと組織にしたほうがいいと企業組合を設立。そこからやっと事業という意識を持ち始めるようになったという感じですね。

  • 開業資金は?

    80万円です。漬物を製造する場所を確保するために、夫が経営する醤油醸造会社の従業員休憩所になっていたスペースを改装。その費用に充てました。

  • 開業資金はどう集めた?

    企業組合員である、義母と叔母、母親と私が20万円ずつ出資して80万円を集めました。私が出資した20万円は、直売所で漬物などを販売して得た利益を少しずつ貯蓄していったものです。

  • 周囲の反応は?

    義母、叔母、母親と一緒につくった組合ですから、家族はみんな応援してくれました。地元のご年配の方も、私が漬物を研究していることを知り、秘伝の漬物レシピを教えてくれたりと応援をしていただいています。なるほどと思ったのは、都会に住む大学や勤務時代の友人たちの反応です。都会で暮らしからUターンしたので、友人たちは私に「都落ち」の印象を持っていると思ってたんです。でも、友人に「私、漬物の先生になっちゃった」と話すと「そんな感じになると思ってた」と。「私って、そうなの!?」と聞くと、「学生時代、あなたの家に泊まった翌朝、手づくりの漬物が2種類と切り干し大根の煮物が出てきて、料理で生きていく人だと感じた」のだそう。それを聞いて、当時から今の道に進む背景があったのだと知りましたね。

  • 不安だったことは?

    大きな借金をして倒産したらどうしよう、という不安はありました。だから、「身の丈以上のことはしない」「借金も絶対しない」と決め、コツコツとした事業を営むことを自分に約束しました。

  • 役立った情報源は?

    企業組合の設立手続きに関しては、地元の中小企業団体中央会に大変お世話になりました。あとは、ここ大曽根地区のおばあちゃんたちからの漬物レシピ情報。「誰にも教えてなかったんだけど、おまえは頑張ってるから。自分の漬物を覚えてくれるか?」と。嬉しいですね。それと、私が出演しているケーブルテレビの漬物番組は、漬物をつくったことのない人にもわかりやすく、簡単にできる漬物を教える番組なのですが、その番組を制作するスタッフは20代がメイン。彼らと打ち合わせしていると、「まさか、こんなことも知らないの!?」ということがけっこうあって(笑)。そんな反応から、わかりやすさをさらに追求したレシピづくりに発展できました。

  • 相談相手は?

    レシピに関しては義母ですね。私の漬物のもととなったのは、義母の味ですから。経営に関しては、醤油醸造会社の三代目である夫が頼りです。人材のうまい活用など、相談することも多いですね。商品の値付けやパッケージのアイデアに関しては、主婦でパートとして働いてもらっている仲間。主婦感覚を生かしたアドバイスは本当に大事にしています。

  • 独立して一番困ったことは?

    自分だけの時間がないことでしょうか。「常にオン!」の状態で、休日でも仕事の電話が入ったら、その時点で仕事モードにスイッチしますしね。

  • 独立して一番良かったことは?

    自分の生きがいを見つけた。一番は、これですよ! 「醤油屋の奥さん」でもなく、「峻(しゅん)くんのママ」でもなく、「新関さとみ」として生きている実感が持てることも大きいですね。また、受け身で言われたままに仕事をするのではなく、自分から攻めていくことができるのも醍醐味のひとつです。

  • 独立を志す人へのメッセージ

    まず、失敗を生かすことですね。仕事は自分がいいと思ったとおりに、思いっきり頑張ることが前提ですが、それでも失敗することは必ずあります。その時に、失敗の原因をしっかり分析して、対策を練ることが大事です。次に生かせば、自分の力も大きくなります。事業アイデアに関しては、誰でもひとつは得意なことが必ずありますから、それに気づくことがポイントです。私は実家の母から自分で料理をすることを教え込まれてきたこともあって、昔から料理が得意なほうでした。その得意を生かすことで、事業に発展させています。どんなことでもいいですから、自分の得意なこと、好きなことを、ぜひ探してください。好きなことは続けることができますから。

設立
2003年9月

資本金
80万円

従業員数
6人

年間売上高
1900万円(2008年7月実績)

アクセス
http://tsukemono.info/


アントレnet で独立の道を見つける!

独立した先輩の体験エピソード&独立支援情報

・会員登録がまだの方
会員登録
・アントレnet会員の方
ログイン

INDEX(インデックス)

業種は?

独立前の仕事は?

独立前の年齢は?

ページの先頭へ