先輩たちの独立事例集

先輩たちの独立事例集


大塚由紀子さんの写真

障害者自立を支援する
福祉施設コンサルタント

株式会社福祉ベンチャーパートナーズ / 東京都千代田区
大塚由紀子さん(44歳)

おおつか・ゆきこ / 岡山県出身。大学卒業後、コンサルティング会社に勤務。1999年より中小企業を対象にした経営コンサルタントとして活動するが「障害者が当たり前に働ける世の中」をつくるべく起業。全国の福祉施設を回る日々。

独立準備のがんばりどころ

福祉作業所を回って現実を把握し、中小企業との共通点を発見

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「豊かに生きる」を目指すFC「ほのぼのお好み鯛焼き本舗」に加盟。障害者と健常者が共に働く店頭では、老若男女がおいしそうにたい焼きを頬ばる風景が

福祉作業所向けのセミナー講師を引き受けることになったのが起業のきっかけですが、情報収集も兼ねて事前に多くの福祉作業所を見て回ったのです。そこで行われている仕事は箱折りやネジ外しといった、いわゆる昔の内職のようで……。かなり衝撃でした。福祉作業所とは「障害のある人が一般企業で働くための訓練の場」という位置付けの施設ですが、実際には一般企業に勤めることなく、一生をそこで過ごす人がほとんど。しかも、障害者の収入は月額1万円以下の施設が半数以上なのです。

それでは今の日本で自立して暮らすなど無理でしょう。とにかく、福祉作業所の存在を初めて知ったこと、そして障害者の人たちがこれほどの薄給で働いている現状を知らなかった自分にショックを受けました。と同時に、これまで自分が働いていた中小企業相手の経営コンサルティングの世界との共通点も発見したんです。

セミナー参加者の声から、福祉の世界で働く人のニーズに着目

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「体育会系のノリで……」と苦笑する大塚さんだが、起業から5年を経た現在でも、スタッフの会議は創業期と変わらない熱さ。ベンチャー魂が息づいている

中小企業コンサルティングのシーンでは、たとえば素晴らしい製品を開発していても、お客さまにうまく伝えられていないために売り上げが上がらないといったケースが多くありました。そこでまず、その会社や商品の強みを抽出して、また把握してもらいながら、問題を解決するお手伝いをしていたわけです。作業所もそれと同じように、仕事の生産性をあげたり、付加価値を付けることで、月給1万円未満の世界から脱することができるはずだと。

作業所の中には、パンやクッキーを製造・販売するところも多いのですが、オーガニックの素材を使ってていねいに手づくりしていても、それをまったくアピールしていなかったり、驚くほど低い値付けをしていたり……。いずれにせよ、商売が下手なんです。「経営のことを学べばもっと売上は増やせます。考え方自体を変えるべきです」と、セミナーに参加した作業所の経営者や職員たちに伝えていきました。障害者に高い給料を払いたいという気持ちのある彼らは、そもそも「ビジネスをしたい」ではなく「障害者の居場所をつくりたい」という福祉の視点で始めています。ですから、具体的にどう考え方を変えればいいのかわからない。私は、これこそがニーズだと確信しました。

「福祉起業家」の創出も支援。障害者が当たり前に働ける日本に

そこで、おいしいクッキーのつくり方をあるパティシエが伝授したり、店舗コンサルタントに店舗の動線の考え方、POPの書き方、商品の陳列方といった具体的な店舗経営の方法をレクチャー。私の思いに賛同してくれた作業所の職員が「現状を変えたい」と意欲的に行動し始めてくれました。そういった人の姿を見て、福祉の視点だけでなく、「福祉起業家」として障害者を雇用する会社を起こすことで、現状の仕組みを変える方法も考えられると。福祉起業家の創出支援と、福祉作業所の経営コンサルティングという柱を設け、本格的に事業をスタートさせたのです。

2007年には、側面的支援だけではなく、私自身も障害者雇用をすべきだと考え、地域に密着した「たい焼き店」を開業しました。障害者が当たり前に働け、当たり前の報酬が得られる日本をつくるために、活動の輪をもっともっと広げていかなくては。そんな創業時と変わらない使命感が、今なお私を突き動かしています。

取材・文 / 石田恵海 撮影 / 加納拓也

ちょっと気になる10問10答

  • なぜ独立した?

    フリーの経営コンサルタントになって2年目の頃です。私が加入していた中小企業診断士協会から、どういうわけか私に「ヤマト福祉財団が行う、福祉作業所向けのセミナーの講師をしませんか?」という話がきました。ヤマト福祉財団は、障害者の自立支援のためにヤマト運輸・元会長の小倉昌男さんが生前に立ち上げた組織です。当時、私は障害者就労に関してまったくの無知でしたが、フリーとして駆け出しでもあったので、何でもやろうと軽い気持ちでセミナー講師を引き受けたんです。しかし、障害者の半数以上が月給1万円以下という現状を聞いたり、労働の現場を見たり、作業所で働く人の話を聞くうちに、何とかこの状況を変えなくてはと。また、小倉会長から直接「相手が喜ぶことをすれば受け入れられる。受け入れられるか考え抜いてもわからない時は、やってみなさい」と言われたのです。それが本当にそうなのか起業して試してみたい。そんな気持ちもありました。

  • 開業資金は?

    1300万円です。1200万円は運転資金と人件費です。経営コンサルタントという職業柄、設備はあまり必要ないですから。残りの100万円で、オフィスを借りたり、中古のデスクをそろえたりと、やりくりしました。

  • 開業資金はどう集めた?

    友人や取引先の知り合い8人からの出資です。事業計画書を作成し、ひとりずつにプレゼン。出資の依頼をしていきました。ひとり100万?200万円の出資をしてもらいましたが、現在は配当なしで、利益は事業資金に還元するかたちを取っています。というか、出資者全員、「配当するぐらいなら、次の事業展開に回せ!」と口をそろえてくれます。本当にありがたいです。

  • 周囲の反応は?

    「立派なことだと思うけれど、きっと無理だよ」というのが大半の反応でしたが、出資者たちは皆「大塚なら出資したお金が紙クズになってもいいから」と出資してくれました。夫からは「それって障害者の役に立つことなの?」と聞かれ、「もちろん!」と答えたら、「それは社会に必要とされていることだから、素晴らしい活動だ、やるべきだ」と応援してくれました。今でも、夜遅く帰っても出張が多くても文句を言わず私を支えてくれているので、周囲からは「できすぎた夫」と言われてます(笑)。

  • 不安だったことは?

    なかったですね。今考えると稚拙なビジネスプランだったと思いますが、経営コンサルタントとしてプランをつくることは慣れていましたし、自信もありました。それにもう、当時は熱にうかされた状態でしたしね。また、セミナーなどで出会った人たちは「福祉作業所を変えたい」「障害者就労機会を増やしたい」と、動機がとてもピュアで、目を輝かして吸収できるものは吸収しようと意欲的なわけです。少しでもそんな人たちの力になりたいと、不安を感じるどころではなかったと思います。

  • 役立った情報源は?

    起業家向けのセミナー講師をすることもあったので、起業ノウハウ的なことは特に学んでいません。ただ、京セラ創業者の稲盛和夫さんの私塾「盛和塾」で経営哲学などを学ばせていただいたので、それが情報源といえるでしょうか。また、情報発信しているところに、情報は入るものだと私は考えているので、自分からいかに発信していくかということを大事にしました。特にコンサルタントは、何をしているかわかりにくい職業ですし、福祉の世界では特にそう思われるので、起業当初からニュースレターやメルマガなどで情報を発信していきました。結果、全国の福祉作業所や支援団体、自治体などからたくさんの情報をもらうことにつながっています。

  • 相談相手は?

    コンサルタント仲間や、ヤマト財団の小倉さんですね。また、盛和塾ではたくさんの経営者と出会うことができたので、そこで知り合った経営者に様々な相談に乗っていただきました。盛和塾では不遜にも稲盛さんに直接ご相談することもありましたが、そのたびに稲盛さんに「そんなこと、自分で考えなはれ」なんて笑われてましたよ(笑)。

  • 独立して一番困ったことは?

    起業して、最初の頃は資金繰りに苦労しました。国民生活金融公庫に融資の相談にも行きましたが「立派な仕事ですね。でも、前例がないので融資できません。1年間、頑張ったらまた来てください」と言われたことも。預金残高が40万円になって焦ったこともあります。資金繰りの苦労はしてみないとわかりませんね。現在は、資金繰りも安定してきていますが、当初は本当に苦労しました。

  • 独立して一番良かったことは?

    少々のことでは落ち込まなくなったことです。我ながら、人間的に成長したなと思いますね。問題に直面したら、否定的に考えるよりも、どう解決すればいいかと前向きに考えるようにもなりました。それが良かったこと、かな?

  • 独立を志す人へのメッセージ

    福祉起業家を目指す人は障害者のご家族や福祉作業所の職員など、問題と直面している人が多いですが、それだけに理念先行型で採算を取る、という意識が乏しいケースも。とにかく事業を組み立て、地域に愛され、経営として成り立つようにしていきましょう。経営として成り立たなければ、持続性のある活動ができないのは当然ですし、障害者の月収も上げられません。しかしその当たり前の発想が欠けた人が多いのも事実です。たとえばチラシをまくことひとつ取っても、いつもより多くまけたことを「成果」と考えがち。イベントの集客のためのチラシなら、集客に役立って初めて成果といえるものですから、何のためのイベントなのか、誰に訴えたいのか、ひいては起業してどうありたいのか、その姿を明確に描いてください。コンサルティングの場面でも、そう伝えています。

設立
2003年5月

資本金
1000万円

従業員数
15人(パート含む)

年間売上高
9600万円(2008年4月見込み)

アクセス
http://www.fvp.co.jp/


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