先輩たちの独立事例集

先輩たちの独立事例集


鈴木厚子さんの写真

農業と農産物加工が
体験できるペンション

ペンション スズキアグリ / 千葉県館山市
鈴木厚子さん(60歳)

すすぎ・あつこ / 千葉県出身。絶対にやりたくないと思っていた農業に50歳を過ぎて取り組む。今はそのとりことなり、毎日畑まで軽トラを走らせている。自身の子育てはとっくに終えたが、今はリピート利用してくれる顧客の子どもたちの成長が楽しみ。

独立準備のがんばりどころ

きっかけは、夫と始めた家庭菜園

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まるで自宅がそのまま田園風景の中に移動したような、そんなくつろぎの空間を目指している宿泊ルーム。屋外での体験が中心なので、室内はあくまでもシンプルに

実家が農家で、両親の苦労を子どもの頃から見ていましたので、絶対に農業はやりたくないと思っていました。それで銀行に就職し、会社員だった夫と結婚したのですが、今こうして農業体験ができるペンションをやっているなんて不思議ですよね(笑)。しかも、それを楽しんでやっていますからね。やはりやるべくして巡り合った仕事だと感じています。

きっかけは、ふたりの息子が成長してから夫と始めた家庭菜園です。夫の実家も農家だったので、自宅の周りに残る畑を使ってやれば、ストレス解消にもなるだろうと。そんな気軽な気持ちで続けていましたが、ある時夫が、「定年退職後は小さなペンションをやりながら、この畑を使って体験農園をやろう」と言いだしたんです。そして、夫が定年退職してから準備を開始。最初の1年間は畑の整備や、ペンション用建物の建設計画に時間を費やしました。

宿泊施設としての申請書類づくりは、建築の専門家に任せる

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ペンションから少し離れた場所にある山の中にある水仙の畑は、11月?翌1月末まで長期間花が咲く。花摘みは誰からも喜ばれる体験なので、手入れを欠かさない

開業準備を進めているうちに、急に夫の元勤務先から復職の要請があり、交通関連の企業なのですが、ある営業所の運営を任されることになったのです。夫はその会社に恩義もあって、その申し出を断りきれませんでした。しかし、もうペンションをオープンさせる心づもりはできていましたので、結局、私が勤務先を早期退職して、平日は私が中心に、土日や祝日は主人も手伝うというかたちで開業を決意したのです。

ペンションといっても小規模なものをと考えていましたので、建物は大手ハウスメーカーの戸建て住宅に決定。その住宅に宿泊施設仕様のリフォームを加えました。たとえば壁の防音効果を高めたり、キッチンにお客さんが入れないように仕切り扉を付けたり。また、建築確認申請はもちろん、防火カーテンや火災報知機、避難器具などの手配と共に、消防関係の申請や届け出書類も整えていただきました。そういったことを建築の専門家に任せたことは正解でしたね。そのほかに保健所への申請もありましたので、すべて自分たちでやっていたら、時間も労力もものすごくかかったでしょうね。

年間を通じて農業体験ができるように、様々な作物を栽培

一番力を注いでいるのは、年間を通じて収穫体験ができるようにしていることです。幸い、ここは気候のいい南房総ですので、冬場に収穫できる農産物もたくさんあります。特に菜の花や水仙など、見た目がきれいな花き類はとても喜ばれています。また、加工体験も楽しんでいただきたいので、ビワやイチゴ、甘夏やハッサクなど、ジャムづくりができる果樹もいろいろと育てています。

嬉しいのは、一度来てくれたお客さんが、その後繰り返し利用してくれるケースが多いことですね。数年前に、「新婚です」と言っていたお客さんが、今度は3人で行きますと、赤ちゃんを連れて来てくれて。今ではその子が成長して、「おばちゃん、また来たよ」と言いながら、いろんな話をしてくれるんです。そのご家族は、年に3回ほど来てくれますね。宿泊は土日や連休が中心ですが、夫婦ふたりの小規模経営ですので、あまり欲張らずにこのペースを守っていこうと思っています。

取材・文 / 田村康子 撮影 / 小林佐孝

ちょっと気になる10問10答

  • なぜ独立した?

    長く会社員を続けてきた私も夫も、定年後の人生を楽しむために何かをやりたいと考えていました。夫は、仕事の関係で官公庁に行くことが多かったのですが、そこで政府や自治体が体験型宿泊施設の運営支援を行っていることを知り、農業体験ができるペンション経営を思い立ったのです。それでオープン直後に、農林水産省直轄の財団法人「都市農山漁村交流活性化機構」が推進している「農林漁業体験民宿」としての登録を行いました。ヨーロッパの体験民宿を手本にした「グリーンツーリズム」といわれているものですね。その登録施設であることで、お客さんも安心してくれるようです。

  • 開業資金は?

    約3000万円です。ペンション用の家屋の建設費、ベッドや布団類、カーテン、テレビなどの室内備品の購入費、さらに敷地の石垣を組み直しましたので、その工事費も含んでいます。ちなみに石垣組みは、館山市のシルバー人材センターに依頼してやっていただきました。一般の業者さんに頼むのに比べて、かなり出費が抑えられました。

  • 開業資金はどう集めた?

    私と夫の退職金でまかないました。ふたり共、「老後の人生を楽しみながらペンション経営を」と考えていましたので、借金をするつもりはまったくありませんでした。開業後も、身の丈経営を目標にやっていますね。

  • 周囲の反応は?

    当初の予定とは違って、平日は私がひとりで運営することにはなりましたが、もともと主人も私もやりたかったことなので、計画を先に延ばすとか、やめておくとか、そういう話にはなりませんでした。ふたりの息子は、それぞれ独立して都市部に住んでいますが、「楽しめるのならいいじゃない。ぜひやってみなよ」と賛同してくれました。

  • 不安だったことは?

    PRをまったくしないでスタートしましたから、ちゃんとお客さんが来てくれるかどうかということですね。ホームページはつくりましたけど。かといって、利益優先で経営するつもりはなかったので、どんどんお客さんを増やすというよりは、一度来てくれたお客さんに満足していただいて、繰り返しご利用いただけるように頑張ろうと考えていましたからね。「農林漁業体験民宿」としての登録後は、専用のホームページで紹介してもらえるようになり、それを見て知ったというお客さんが増えましたよ。

  • 役立った情報源は?

    どのような農業体験を企画すれば楽しんでもらえるかということに関しては、「千葉自然学校」というNPO法人があるのですが、そこで行われている自然体験活動の研修会に参加したことでいろいろな情報を得ることができました。中でも、外房の鴨川にある棚田での農業体験や、田んぼの生物の観察会など、自ら体験しながら学べたことがとても役立っています。また、館山市がうちのような体験宿泊施設の経営者などを集めて行っている1日研修にも参加。どのような体験が可能か、そのプランづくりも行うという研修でした。各々が実施している体験企画に関する情報交換ができることは貴重ですね。また、参加者が同じ地域というよしみもありますので、できるだけ参加するようにしています。

  • 相談相手は?

    豪華な料理より、ウドの芽や、柿の葉の天ぷらなど、私たち田舎の人間にとって当たり前のものが喜ばれることを教えてくれたのは、研修会などで知り合った同じような体験宿泊施設を経営している人たち。わからないこと、迷ったことなどは、同業の先輩に相談することが多いですね。

  • 独立して一番困ったことは?

    ものすごく困ったことはないですね。最初から、気張らずにムリをしないでやっていこうと決めていましたので。新しい体験プランを立てる時にも、ジャムづくりなど、まず自分自身が楽しめるかどうかを考えるようにしています。少し大変なことといえば、畑の除草でしょうか。春以降はどんどん雑草が生えますのでね。水仙の畑はペンションから少し離れたところにありますので、そこの除草は、市のシルバー人材センターに依頼して格安でやってもらっています。

  • 独立して一番良かったことは?

    様々な職業や、様々な人生を経験されているお客さんとの交流を通じて、世の中を見る視点といいますか、視野が格段に広がったことが良かったです。ずっと銀行勤めでしたので、どうしても銀行員として世の中を見てしまっていた自分に改めて気づきました。また、小さなお子さん連れの家族や、若いお客さんたちとお話していると、自分も若返ったような気分になれます。お客さん自身が収獲した食材を使った料理を、「自分で取ったものはうまいなぁ」と言いながら、たくさん食べてくれた時は感動しますね。

  • 独立を志す人へのメッセージ

    今、田舎での生活が見直されていますので、ペンションや体験民宿を開業したいという人は多いと思います。うちの場合は、新しい建物を建設しましたが、田舎には、母屋のほかに離れがあったり、農機具倉庫など、使われていない建物がたくさん残っています。そのような建物をぜひ活用してほしいですね。改修して耐震補強などを行えば、大丈夫。昔ながらの田舎の家は、都会のお客さんにとって新鮮なんです。また、農業体験に関する研修は、各地の自治体で盛んに行われていて、しかも受講料が無料というケースも多いので、ぜひ参加してみてください。私のように、老後の楽しみもかねてという方は、できるだけお金をかけないスタートを心がけるといいですね。

設立
1999年7月

従業員数
2人

年間売上高
非公開

アクセス
http://www.awa.or.jp/home/a-suzuki/


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