みやした・しゅうほう / 東京都出身。高校時代からモデルとして活躍し、パリコレの舞台にも立つ。モデル業の傍ら不動産会社で数年間の経験を積み独立。毎夜24時には就寝し、体力と精神力を維持。信条は「さわやかな朝を迎えることがいい仕事につながる」。
スタッフのそれぞれが個々のブログを執筆してホームページのトップでＰＲ。それが営業面でも役に立ち、スタッフ同士、お互いの思いを伝えるツールにもなっている
20代はいろいろと迷っても、30歳になった頃には地に足を着けて仕事をしていたい。そう考える人はきっと多いですよね。自分もそうでした。ただし、目指していたのは役者になるということ。というのも、高校3年の時からモデル事務所に所属してＣＭや雑誌、ファッションショーなどのモデルをやっていたんです。大学を卒業した頃ですが、モデルとして同時期に活躍していた仲間たちが続々とドラマや映画の主演に抜擢されるのを見るにつけ、自分もモデルとして仕事を待っているだけではダメだと焦ってきました。
そんな時に街を歩いていてたまたま目にしたのが、不動産会社の店舗に掲げられていたスタッフ募集の広告です。役者を目指しているはずなのに、なぜか吸い込まれるように店内に入り、「やってみなよ」の一言でアルバイトとして勤務することになったんです。
すぐ近くの駒沢オリンピック公園を始め、街の様子を詳しく案内できるように掲げた写真。進学・就職のために全国各地から上京してきた若者の家族にも安心してもらえる
なんとその当日、まったく未経験ながら、来店したお客さんに対応しているうちに2件の賃貸契約を成約してしまいました。賃貸や売買の正式な契約をする際の“重要事項の説明”を行うためには宅地建物取引主任者の資格が必要だと知って、さっそく試験勉強に取り組みました。試験の日まで半年しかなかったのですが、問題集を丸ごと覚えるくらい勉強した結果、無事一発で合格できました。
ところがですね、宅建資格を取得した後に不動産会社のアルバイトを辞めて、今度はケーキ屋さんでアルバイト(笑)。役者をやりたい、まだ人生を決めたくないという迷いがあったんでしょうね。不動産の仕事を再開したのが28歳の時で、30歳になった頃、もともとアルバイトをしていた不動産会社に呼び戻されたんです。当時、契約業務に限らず、売り上げ予測を立てたり新規開拓の秘策を練ったり、さらには人材育成など、トータルで仕事を任せてもらっていました。そんなある日、「宮下さんがやっている仕事って、ほとんど経営者だよ」と同僚に言われて、ふと我に返りました。
同時期に、世田谷区などの高級住宅地にマンションやアパートを複数所有していて、自分を認めてくれているお客さんが、「独立してやってみなよ。応援するから」と背中を押してくれたんです。さらに、「新築アパートの1階部分を店舗用に改装するから、どんな感じがいい？」とか、どんどん進めてくださって……。
慌ただしい開業でしたが、会社員時代に熟知した世田谷区や目黒区、特に東急田園都市線や東急東横線沿線の物件をメインに扱うことは最初から決めていました。不動産業は、地域に密着して、オーナーさんにも借り手にも信頼されることが一番ですからね。また、自分が外回りでオフィスを留守にする間、業務をスタッフに任せなければなりません。ですから、能力や経験、それに人柄などもよく知っている人に来てもらいました。現在は、オーナーさんと共に、新築物件の企画・設計から立ち上げ、賃貸開始後の管理までトータルで携わる物件も続々と誕生させています。
会社員として不動産業に携わっていた時は、契約件数など、常に目標を設定して突っ走っていました。それに、20代の頃から、30歳になった時が人生の一区切りだと考えていましたが、気がついたら30歳を過ぎていたんです。独立を決意したのは、会社員としてやっていた時代の業績など、自分自身が納得できるだけの裏付けができたこと。また、その仕事を認めてくれていたお客さんが、応援するからチャレンジしてみろと後押ししてくれたからです。モデル業も、今も仕事の支障にならない程度で続けています。まったく違う世界なので、これがいいリフレッシュになるんですよ。
約500万円です。一番の出費は東京都の宅地建物取引業協会や、全国宅地建物取引業保証協会などの入会金や保証金などで、合計220万円ほどです。さらに電話機やパソコン、机や椅子などの備品購入に約100万円。オフィス兼店舗は、その、応援すると勇気付けてくれたお客さんが、新築アパートの1階部分を店舗用に改装を済ませた状態で貸してくださったので本当に助かりました。それには感謝しきりです
会社員時代に貯めていた貯金です。2年間で500万円貯まったのは、忙しくて使うヒマがなかったからですね(笑)。それが独立する時に役立つなんて、貯め始めた当初は考えていませんでした。
まず母親には、「現状で安定した収入があるのに、何でまたそんな冒険をしたがるの」と反対されました。貿易関係の事業を行っている父親は、一番相談したい相手だったのですが、残念なことに独立当時も今も体調を悪くして療養中で、心配をかけたくないという思いもあって、きちんと相談できないまま今に至っています。モデル仲間の友人たちは、「本当にできるの？」といった感じで冷ややかでした。不動産業といってもピンとこないんでしょうね。
当時は不安な要素を考える暇がなく前ばかりを見ていました。今になって考えると無計画すぎて怖い、それが正直なところです。不動産業の業者間では、業者営業といって、ある業者が持っている物件をほかの業者にも紹介するのが通例なのですが、最初からそれが100件くらいあればOKだろうと軽く考えていました。実際、そのとおりになったのですが、もし開業当初に肝心の物件がそろってなかったらと思うと恐ろしいです。いいスタートが切れたのは、会社員時代から信頼してくれていた他社の営業さんや、懇意にしてくれていたお客さんのおかげですね。
会社の設立や登記、開業のための東京都知事への免許申請などは、すべてインターネットで調べて自分で行いました。同時に、いわゆる社長本を読んで勉強しようと買い集めたのですが、何冊読んでも自分にとって役に立つと感じたものはありませんでした。やはり、不動産業は経験ナシではできないので、会社員時代に実地で身に付けたことが一番の情報源だといえます。
独立を後押ししてくれたお客さんは、ご自身の物件を自ら立ち上げて管理し、マンションやアパートオーナー対象のコンサルティングもされているので、いろいろな経験談を聞くこと自体がためになりました。独立することを考え始めたのが2006年の年頭でしたが、忙しくて時間がなかったので、4月から準備を開始しました。5月に会社設立の登記や不動産業の免許申請を済ませましたが、結局、7月20日に勤務先を退職し、8月1日に開業という慌ただしさでした。
やはり、経営者としてスタッフ一人一人の行動など、細かいところが気になってしまうことでしょうか。社長として当然なことでしょうが、気にしすぎる自分、それを言ってしまう自分がイヤになってしまうこともあります。ですからスタッフには、お互いのいけない部分を注意し合おう、そして僕のことも社長だからと思わずに、こうしたほうがいいと思うことがあったら遠慮なく指摘してほしいと常に言っています。
自分で決めたことを自分の意思で実行できることが一番の醍醐味です。営業の方法にしろ、新しいアイデアにしろ、会社員時代は何かを提案しても採用してもらえなかったり、その時の業務の流れの中で、せっかくのアイデアがうまく実行できずに埋もれてしまいがちでした。また、大きな組織ではないので、社員旅行などの息抜きに関しても、全員が納得できるような計画をみんなで立てて実行できるのも嬉しいですね。温泉に行ったり、釣りに行ったり、現在年に4回の社員旅行を実施しています。
独立したい、起業したいと考えていても、ベンチャー企業の社長が書いた本や会社設立のマニュアル本を読んで「自分には無理」と、二の足を踏んでしまう人もいるでしょう。そんな時は、「この社長はこうしたけど、自分ならどうするか」ということを考えてみるといいのではないでしょうか。独立の決断はもちろん、その後の経営も、自分自身の考えや意思がブレてしまうことが一番危険です。準備期間にしても、いつまでに何をやるかを具体的に決めて、それを妥協せずに実行し、ひとつずつクリアしていくことで進むべき道が見えてきますし、独立後の自信にもなるはずです。
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