先輩たちの独立事例集

先輩たちの独立事例集


岡本幸助さんの写真

障害者と健常者が共に
IT技術で自立するNPO

NPO法人アイ・コラボレーション / 滋賀県草津市
岡本幸助さん(56歳)

おかもと・こうすけ / 滋賀県出身。自動車メーカーで技術者として勤務するが、通勤途中に事故に遭い、退職。車椅子ユーザーに。10年間のリハビリ生活、小規模作業所での勤務などを経て、NPOを旗揚げ。身体障害者福祉協会、脊髄損傷者協会の会長も務める

独立準備のがんばりどころ

自治体の施設を生かして、Webサイトづくりの基礎から勉強

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一軒家での活動を卒業し、現在はビル内にオフィスを構える。それぞれの得意分野を生かし、頑張りすぎないようマイペースで働くのが基本ルール

森喜朗元首相がITを「イット」と読んだ、あの直前の頃です。インターネットがますます身近になるという流れを感じていました。障害があっても、IT技術があれば、しっかり稼いで自立することができると思ったんです。自治体の施設には最新のパソコンがズラリとそろっているのに、誰も借りていない状況でしたから、この施設を生かさない手はないと。仲間に声をかけ、10人くらいでITの勉強会を始めました。

誰もがパソコン初心者でしたから、HTMLを初歩から学んだり、印刷技術に関して学んだり……。講師も手弁当で招いて、みっちり勉強していきました。当時、ワープロの購入には国から補助金が出たのですが、パソコン購入は補助金が出なかったんです。今は逆ですけど。だから、自分の道は自分で切り開けと、参加メンバーはパソコンをそれぞれ自腹で買って、自宅で復習したりね。そんな期間が半年くらい続いたでしょうか。

強みは、障害者だからこそ、障害者のニーズがわかること

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自治体から請け負った制作物は、障害があるからこその秀逸な着眼点。トイレマップはすべて写真を掲載し、段差やスロープなど詳細な情報が評価されている

周囲は「そんなこと、障害者にできるわけがない」と反発も大きかったんです。しかし、小規模作業所ではいくら頑張って働いても、約1万5000円の月例給。障害者年金を得ても自立は困難な状況ですから、「ITという社会で勝つための武器を手に入れるんだ」なんて言って必死でしたよ。

ただ、IT技術を身に付けたからといって、Web制作やDTPなどを行う競合がたくさんあるわけです。そこで何が我々の強みなのか考えました。出た答えは「障害があるからこそ、障害者のニーズがわかる」ということ。これまでボランティアで、障害者向けのトイレやホテルマップなどをつくってきましたから、これをデジタル化したら便利だろうと。時代も後押ししてくれました。「iモード」の登場です。これによって、ニーズが拡大していったんです。

先駆けてアクセシビリティーを実現するNPOに

今でこそ民間企業のWebサイトは、アクセシビリティー(広汎な人が支障なく利用できること、またその使いやすさ)を求めますが、特に自治体のサイトは先駆けて求めていました。我々は様々な障害のある人が周りにいましたから、リアルな意見をサイトの構築に反映できる。それが売りになりました。自治体のサイトや冊子づくりなどで実績と認知度を上げ、民間企業からも仕事を請け負うように。今では映像制作にも力を入れています。

風がビュービュー入るようなボロボロの一軒家から始まった我々の活動でしたが、今では6つの事業所を構えるまでになりました。時代は障害者自立支援法で、小規模作業所への国からの補助金が減額となり、小規模作業所はますます苦境に立たされています。そんな中でも、元気に障害者と健常者が共に働いて、成果に対して正当な報酬で評価をもらえる喜びをみんなで分かち合えるのは、本当に嬉しいこと。周りにいくら批判されても信念を貫いてきた、その努力がやっと報われたと感じています。

取材・文 / 石田恵海 撮影 / 笹木 淳

ちょっと気になる10問10答

  • なぜ独立した?

    障害者が働く場というと小規模作業所ですが、重度障害のある人はなかなか働けないですし、作業所で働いても月に1万5000円程度の給与を得ることしかできません。一方で、一般企業に就職できても、何とか認められたいと頑張りすぎてしまって、それで体を壊してしまう人も見てきました。これでは自立ができません。この現状を何とかしたいと思っていた時、ちょうどパソコンが普及し始めます。インターネットの世界はバリアフリーですし、IT技術を身につければ、障害に関係なく、技術で勝負できる。そこで、障害者年金プラス10万円の報酬が得られる仕事現場をつくろうと。そんな思いから、障害者と健常者が一緒になってWeb制作やDTP、映像制作を請け負うNPOを立ち上げたんです。

  • 開業資金は?

    400万円です。家賃3万円という超格安の一軒家をオフィスとして借りられたのは良かったのですが、江戸時代なら傘張りをする武士が住んでいそうなところで、窓もうまく閉まらないくらいボロボロ(笑)。土間までありましたから、スロープを付けてバリアフリーにしたり、障害者用の水洗トイレに改装したりと、ほとんど内装費に使ったという感じですね。

  • 開業資金はどう集めた?

    NPOを設立して半年後に、県や市から補助金が出ましたが、最初はコツコツと集めてきた自分たちの貯蓄と、知人からの借金などで始めました。

  • 周囲の反応は?

    いや?、もう反対の声しかなかったですよ。IT業界も現在ほど確立されていませんでしたし、批判の声ばっかりでした。でも、やるといったん口にした以上、後には引けませんしね。今では妻はあきらめているというか、あきれているというか(笑)。今は逆に、いろんな地方の方から「うちでもやりたいから、ノウハウを教えてほしい」と言ってもらえることも多くなりましたけど、当時は大変な騒ぎでしたよ。

  • 不安だったことは?

    事業として成り立つかどうか、というのと、組織としてどこまでできるだろうか、という不安はありました。私自身、IT技術に関しては素人でしたし、みんなで勉強して立ち上げようという話でしたからね。不安じゃなかったら、おかしいですよ。

  • 役立った情報源は?

    私は脊髄損傷者協会のメンバーでもありますし、福祉系団体の知り合いも多かったですから、そういった各障害者団体からニーズを聞き出せたことは良かったです。また、設立メンバーの中で、小規模作業所の経験者は私だけだったので、通常の小規模作業所についての現状などを知らない人ばかり。だから、変な先入観や情報を持っていなかったのが、逆に良かったともいえますね。自分たちで新しいものをつくるという意識にもなりましたから。

  • 相談相手は?

    いなかったですよ。相談してもみんな「そんなことできるか!」と大反対でしたし、それで激論をして怒ったりはしましたけど(笑)。だから、相談できなかった、とも言えますね。

  • 独立して一番困ったことは?

    いかに仕事をつくり出していくか、ということと、技術をどう上げていくか、ということですね。また、全体のスキルが上がっていけば、企業から求められるニーズも上がっていきます。そうすると、初心者向けの仕事がなくなっていく。そのバランスに苦心しました。

  • 独立して一番良かったことは?

    当初、目指していた「障害者年金+給与10万円」は早々にクリアできましたし、仕事ができて、その対価としてちゃんとお金をもらえるという、当たり前のことが実現できた喜びは大きいです。それに、参画メンバーが喜んでくれたのは、やっぱり嬉しいですよ。実績ができるごとに参画メンバーも集まっていって、集まりすぎて困ったくらいですしね。

  • 独立を志す人へのメッセージ

    自分がやりたいという志を持つことも大切ですが、ネットワークを持つことも非常に大事です。仲間でもいい、スタッフでもいい、応援団を付けることです。助けてもらったり、助けてあげられたり、といった関係がないと長く続かないと思いますし、人間同士、誰かを助けると、必ず自分に返ってくるものです。

設立
2000年4月

会員数
80人

年間総収入
1億円(2006年4月期)

アクセス
http://www.i-collabo.com/


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