先輩たちの独立事例集

先輩たちの独立事例集


五味渕のり子さんの写真

顧客にも働くママたちにも
喜ばれる事務代行

有限会社YPP / 東京都台東区
五味渕のり子さん(40歳)

ごみぶち・のりこ / 埼玉県出身。大学卒業後、新聞社、ITベンチャー企業を経て、経営コンサルティング会社に勤務。37歳で長男・音生(ねお)くん出産。月に1回は家族で近郊の山へハイキング。幼稚園のバザー出品やお弁当づくりも楽しい毎日。

独立準備のがんばりどころ

仕事大好き人間が予想外のおめでた。復帰を望む気持ちを抑え育児ノイローゼに

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会議なども全員が集まれないので、誰が見てもわかるよう議事録ノートで情報共有。ママならではのアイデアで引き出し内も手づくりで整理

結婚して13年、ずっと子どもができなかったので、不妊症だと思っていました。仕事が大好きで、ちょうど師匠とも呼べる経営コンサルタントと出会い、その師匠からも「ノウハウは墓場までは持っていけないから」と言われて、すべてを私に教えてくれようとしていました。

そんな意欲満々な時に、妊娠がわかったんです。もちろん嬉しかったですし、しばらくは育児に専念して、いつの日か仕事に復帰しようと漠然と思っていました。ところが出産したらすぐに、これまで仕事人間で走ってきたせいか一日中家にいることに耐えられなくて、育児ノイローゼのようになってしまったんです。それで出産半年後には仕事を再開して、経営コンサルタントとして独り立ちしました。

子どもを置いて仕事に出かける罪悪感、そして自信喪失。鼓舞するために法人化

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「自宅では子育てで何かと慌ただしいから、せめて会社では憧れのプチOL気分を」と、オフィスは白を基調におしゃれなデザインで統一した

私の仕事復帰には夫も両家の親も賛成してくれたし、とても協力してくれました。私自身もアクセル全開の気持ちでさぁ仕事だ!のはずが、どこか自分の中でブレーキがかかるんです。子どもを置いて仕事へ出かけることに対して罪悪感がある。仕事の勘が戻らない。このままじゃダメだと、自分に対してもお客さまに対しても“私は本気”なんだと示したくて法人化しました。

今思えば、そんなの関係ないのに。いざ会社はつくったけれど、会社をどうしたいのか模索する日々でした。そんな時に、コンサルティングをしていた会社で、経理や総務の事務処理を手離れしたら本来の経営者の仕事にもっと専念できるのに、と思ったんです。提案してみたら、じゃ任せるとなり、経営コンサルタントと並行して事務代行も始めました。

ママさんリレーの事務代行で事業一本化。社会的なミッションを感じアクセル全開

あるスタッフが子どもを持つママさんで、勤務時間は短いけれど、日々小さな仕事をコツコツ丁寧にこなしてくれて、お客さまからの信頼も厚かったんです。それを見ているうちに、自分も含め、ママたちの仕事への意欲の高さを改めて気づきました。勤務時間に制約があるので、一般企業が望む雇用形態とは逆行するけれど、私は頑張るママたちを支援していこう。そう決めたのです。

働くママの雇用促進にもなる、お客さまもママたちも幸せになれる、事務代行一本に事業を絞ろうと決めました。これまでは、自分が培ったコンサルタントとしてのキャリアを生かすことばかり考えていたけれど、自分のためじゃなく、周りのための会社にしよう。そう思った途端、ブレーキはかからずアクセル全開(笑)。法人化してから2年、紆余曲折もありましたが、もう迷いません。この事務代行で、全国展開を目指します。

取材・文 / 岡部 恵 撮影 / 依田佳子

ちょっと気になる10問10答

  • なぜ独立した?

    それまで仕事に夢中だったのと同じで、子育てはこうあるべきと、どこかまじめ過ぎる性格なのか、出産後すぐに育児ウツのような状態になっていました。3カ月目くらいに、以前にお付き合いがあったお客さまへ年末のあいさつにうかがった時、思わず言葉が出てしまったんです。「仕事を再開するのでよろしく」と。そんな予定はなかったし、まだ復帰時期など考えてもいなかったのに……。それで、あぁ自分は仕事に復帰したくて仕方なかったのだと、気づきました。その後法人化したのは、当時、自信がなかった自分を鼓舞するため。周りにも私の本気ぶりを示したいという思いからでした。

  • 開業資金は?

    100万円です。実際に使ったのは、2006年9月に事務代行一本に絞ろうと決めて、同年12月に現在の事務所を借りる時に70万円くらい使いました。パソコン5台と周辺機器で50万円、家賃月13万円、それと備品1万円くらいです。その他の備品は入居後に少しずつそろえました。テーブルセットで5万円、掛け時計は150円、靴べら98円、ラックなど、捨ててあったものを拾ってきてリサイクルしたものも多いですよ。ママですから節約は上手なんです(笑)。

  • 開業資金はどう集めた?

    最初の開業資金100万円は自己資金です。事務所を借りる時に、先輩が200万円出資してくれて、国民生活金融公庫からも300万円借りました。借金することに以前は抵抗があったのですが、事務代行一本で行こうと決めてからは怖いものなしでした(笑)。ここ台東区に事務所を構えた理由のひとつは、子育て中のママが近隣に多く住んでいる場所であること。もうひとつは、下町で中小企業の職人気質的な経営者が多いというのが決め手でした。ママたちが自転車で通勤できるし、職人気質のある経営者に認めていただければ自信がつく、深いお付き合いもできる。新聞社で広告営業をしていた時、そういう“ほかの人がちょっと対応が難しいと思うような経営者”ほど私は好きでしたから(笑)。

  • 周囲の反応は?

    出産後、どこか私の心の中で母親とはこうあるべき、仕事に復帰したいと思ってはいけない、言葉に出すなんてとんでもないと無意識に抑制していたのだと思います。夫や親のほうが私の気持ちをわかっていたようで、仕事を再開することに大賛成してくれました。事務代行のみでいく宣言をした時は、スタッフもお客さまも周囲の人も、思った以上に喜んでくれました。事務代行はひとつの業務を複数のスタッフで対応するママさんリレー方式なので、みんなでアイデアを出し合いました。どのパソコンでデータを作成したか誰でもわかるようにモニターの脇に動物シールを張るなど、小さくも楽しいアイデアがいっぱいなんですよ。

  • 不安だったことは?

    ママによる事務代行、この挑戦が成り立つのか漠然とした不安はありました。ですが、今は挑戦して良かったと実感しています。働くママが一番つらいのは、急に子どもの体調が悪くなること。それにより職場への気使いをすることなんです。大切な会議の日に限って子どもが熱を出す。これは「熱なんか出したらどうしよう」という母親の緊張感が子どもに伝わるからだと私は思うんです。働くママは特別な日だけではなく、365日緊張している。そのストレスを解消することに努めました。子どもが急に体調を崩した時も“お熱対応”できるよう仕事は複数の人数で対応し、その分、しっかり情報を共有して引き継げる体制を整えました。

  • 役立った情報源は?

    師匠である経営コンサルタントから学んだこと、それといろんなセミナーや本、お客さまやスタッフの生の声です。まだ経営コンサルタントと事務代行の2本立てだった頃に、お客さまからうちのスタッフのことを褒められたんです。「モチベーションが高いし、限られた時間内で効率良く、ていねいに仕事をこなす。会社の重要書類を部外者に見せるのはためらうものだけれど、お母さんたちなら安心だしね」と。そう言われたことが、事務代行一本に絞るきっかけにもなりました。

  • 相談相手は?

    一番最初に仕事を任せてくれたお客さまである、前の会社の先輩。それとセミナーなどで知り合った経営者たちやお客さま、スタッフのみんなも相談相手ですね。特に交流会などには属していませんが、知り合いから知り合いへと、いろんな経営者の方に引き合わせていただくことが多いです。会社の業務に直接かかわらなくても、経営者としてためになるお話を伺える機会なので、ありがたく喜んでうかがっています。

  • 独立して一番困ったことは?

    困ったというより、つらかったのが、スタッフが心ストレスから体調を崩した時です。申し訳なくて落ち込みました。事務代行に絞る前のことだったので、会社の先行きも不透明で、私のジェットコースターに無理やり乗せてしまったような感じでしたから。スタッフにストレスをかけないためにはどうすればいいか。これまで以上に真剣に考えるきっかけにもなったので、つらかったですが貴重な体験だったと今は思えます。問題が発生したということは、対処法を見つけるチャンスなのですから。会社にとってトラブルもすべて財産です。

  • 独立して一番良かったことは?

    お客さまにもスタッフにも喜んでもらえることが一番です。私もスタッフも、互いに“ママ”という立場でわかり合えるし、励まし合えるので、精神的にもリラックスできる。それが、仕事にもいい影響を及ぼしています。それと、2007年の6月にスタッフを増やそうと募集をかけたら、80人も問い合わせがあったんです。驚きでもあり、喜びでした。世の中にはこれだけ働きたいママたちがいるんだ、私の挑戦は間違っていないと勇気をもらいました。同時に、お断りせざるを得なくて責任も感じました。もっと仕事を軌道に乗せて、会社を大きくして、働きたいママたちをどんどん受け入れられるようにしていきたいと、改めて意欲がわいてきました。

  • 独立を志す人へのメッセージ

    才能がない人はいない、何かしら人それぞれに才能があると信じることです。これは起業家セミナーに参加した時に実感したのですが、それぞれが事業プランを発表した時、リスナーから「すごい」と言われると、必ず「いえいえ私なんて」と言うんです。誰もが、人から褒められると「いえいえ私なんて」と言う。それを聞いているうちにイライラしてきて(笑)。でも、私自身もそうだなぁと気がついたんです。自分はたいしたことないと思っていても、人から見たら優れている面がある。それが才能だということに。その才能を何かのために、誰かのために生かす。その方法を考えることが事業につながる。起業家には大切なことだと私は思います。

設立
2005年2月

資本金
300万円(2007年4月に増資)

従業員数
12人

年間売上高
700万円(2007年11月実績)

アクセス
http://www.omakase-ypp.jp


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