のだ・あゆみ / 愛知県出身。名古屋大学経済学部卒業直前に起業。失敗にもめげず、交流会で知り合った先輩起業家の叱咤激励で成長しつつあることを実感中。ストレス解消は、マンガ喫茶で好きな漫画を徹底的に読み込むこと。
顧客とは何度も打ち合わせを繰り返して要望をすくい上げる。制作の場も、打ち合わせを行うスペースも、起業を後押ししてくれた会計事務所所長が提供してくれた
実は、大学を卒業する直前まで起業だなんてまったく考えていなくて、ある会計事務所への就職も決まっていたんです。内定後は実習もかねて、その会計事務所でアルバイトを始めました。その時、私が担当することになったのがホームページの制作です。パソコン操作でさえ基本的なことしかできなかったのですが、ホームページ制作ソフトとガイド本を相手に格闘しつつ、何とかつくり上げたんです。そんな日々を送るうちに、Web制作のスキルが徐々に身についていきました
ある時、会計事務所の所長が、今後のスキルアップにもつながるからと、異業種交流会への参加を勧めてくれました。それが転機になるとは知らずに、学生という気軽さもあって、ためらわずに参加してみたんです。
愛知芸術文化センターの依頼で開催された「チームお嬢」の座談会。「若い女性客を呼ぶためにはどうしたらよいか」というテーマで、白熱した議論が展開された
内定先のホームページが立ち上げられたことで、Webに対する面白さをものすごく感じていた私ですが、なんと、その交流会の場で、ある会社のホームページ制作を受注してしまったんです(笑)。よほど私が楽しそうに語っていたんでしょうね。それで、「もしかしたらWeb制作の仕事って、こんな感じでやっていけるのでは!」と思い始めました。結婚や出産を経ても女性である自分が一生働いていける場は、将来自分自身でつくらなければならないと感じていたものの、それはもっと先のこと考えていたんですがね。
それが、いや、将来でなくても今と、思い切って所長に相談してみました。すると、「そういう考えがあるなら応援しよう」と、背中を押してくださったんです。しかも、「学生起業家として注目が得られるように、早く早く、卒業前に」というアドバイスまで。
無理な営業は考えず、ホームページからの受注を中心にスタートしました。そこで、自社ホームページをどんなキーワードで検索してくれるのかをアクセス解析したところ、“女性”や“女性向けの”といったキーワードに注目していることがわかったんです。ビジネス現場では、女性というだけでネックになるとばかり考えていたので、目の前がパーッと開けたような感じでした。
そこで、“女性ばかりを集めて、皆で商品開発のヒントを出す”というビジネスを成り立たせようと考えました。それも地元名古屋に特化して「名古屋女性の声を反映します」という打ち出しで。メンバーをWeb上で募集したところ、予想以上に反応がよくて。「チームお嬢」という名称の組織を立ち上げたんです。この新ビジネスをある起業家コンテストで発表する機会を得たこともあって、当初から新聞社などマスコミにも注目してもらえました。現在、全売り上げの3割ほどを「チームお嬢」の仕事でまかなっています。
将来のことを考えてです。というのは、子どもの頃から、結婚して出産した後もずっと仕事を続けていたいと思っていたから。融通が利く勤務時間や、子どものための託児所などが完備された企業は、まだまだ少ないですよね。そこで、それなら自分で会社をつくって、女性が働きやすい会社をつくればいいのでは、と思ったんです。しかも、学生起業家として目立つように、大学在学中に会社設立を果たすべく大慌てで準備しました。
200万円です。いきなりの起業だったので、そのほとんどを利益が出るまでの運転資金と、最低限の生活費として使わざるを得ませんでした。半年後に通帳の残高が20万円になってしまった時はかなり焦りました(笑)。
大学在学中に内定が決まっていた会計事務所の代表が、「起業するなら応援したい」と、ポケットマネーをポンと貸してくれました。会社は資本金1円で設立したのですが、正直言って、自分で準備していたお金はほとんどなかったので、その方のサポートがなかったら生活さえままならなかったはず。元手のかかる事業ではないのですが、起業して半年後に利益が出せるまではつらかったですね。
両親には事前に話をせずに、設立手続きが済んで明日が登記という日に初めて打ち明けました。反対するような両親ではないことがわかっていたからですが、「頑張ってやってみなさい。でも悪いことだけはしないで」と言われました。大学の同級生たちは、「へーっ、そうなんだ」という感じで、驚いたような様子はなかったです。外国の大学に留学したり、税理士試験を目指したりと、就職しなかった人も多かったですからね。
やはり、ちゃんと利益が挙げられるのか、ということです。最初は、自分ひとりが食べていければと考えていたのですが、1年目はその自分ひとりでさえ……、と不安になることもしばしば。なんとか受注が安定するようになるまで、会計事務所の代表や先輩起業家など、いつも応援してくださる方々の激励をバネに突進しました。自分の武器は若さだと考えて、不安な時でもハツラツと行動するように心がけました。
インターネットでの情報収集と、異業種交流会で知り合った先輩起業家たちからの情報です。また、起業直後にちょっとしたトラブルで悩んでいた時、信頼を寄せている女性起業家がデール・カーネギー氏の本、『人を動かす』を読んでみればと。夢中で読み進めると、目からウロコの「なるほど!」と思えることばかり。イヤなことや落ち込むようなことがあっても、あまりムキにならずに、しなやかにやっていこうと思い直すことができました。
繰り返しになってしまいますが、異業種交流会で知り合った先輩起業家たちです。大学卒業直前の起業で、まるで仕事の経験がない私に、あーだ、こーだと、どんな質問にも答えてくれたことには本当に感謝しています。きっと、「えっ?」と思われるようなことまでお聞きしていたと思いますが、そこは若さとやる気で躊躇することなくぶつかっていきました。今思えば、その点を評価してくださったのも大きかったと感じています。
最初の1年目の収入が不安定だったことです。そうなることはわかっていたので、お金を使わないように、ホームページの制作も自分で開業直前に、しかも徹夜して一晩でつくり上げました。会社の設立手続き書類も、行政書士事務所の知り合いから書式のテンプレートをもらって自分で作成しています。また、飛び込み営業や人前でプレゼンすることも苦手だと思っていたので、顧客が獲得できるかどうかがとても不安でした。
企業での勤務経験がないので単純な比較ができないのですが、自分の意思で仕事ができることが一番でしょうか。自分がやりたいことをやっているのだから、少しくらいつらいことがあっても、楽しんでやれているのだと思います。それと、どのお客さんとも自分が直接向き合って仕事をしているので、反応がダイレクトに伝わってくることです。
「やりたい!」と思うことがあったら、まず着手してみることです。ただし、リスクを最低限に、人に迷惑をかけることなくできることがわかったうえで。当初から大きな資本を投下しようとか、立派なビルにオフィスを開設しなければとか、体面的なことはやがて利益を得てからと考えて、自分に合ったサイズで起業することが肝心だと思います。
独立した先輩の体験エピソード&独立支援情報