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事業を10年続けるための商品開発の方程式
アメリカから帰国して、新しい教育ビジネスを始めようと考え、会社をつくり、これまで走り続けてきた。それがなんと、ふと気がつくと設立10周年を迎えるまでになった。会社をつぶさずに10年も走り続けることができたというのはありがたいことだ。同時期に立ち上げられた多くの会社が消え去ってしまったという話をよく聞く。鳴り物入りで登場し、当時の雑誌や新聞に大きく取り上げられていた会社でさえも、その多くが今はない。起業して、ただ事業を継続するということでさえ、容易なことではないのだ。
10年続けるためには、何が重要なのか? 素晴らしい商品、自身のモチベーション、優れた組織、顧客との関係性などなど、様々な理由をあげることができる。今回は、その中でも商品開発の技術についてお話ししてみよう。
商品開発の方程式。差異×理解=評価
あなたが起業するとして、どんな商品、サービスを世の中に出したいと考えるだろうか? 物づくり? 飲食店? IT関連? いかなる分野の商品であれ、商品を世の中に出した以上、「売れる」ことが重要である。では、どういった商品が売れるのか?
ここに一つの重要な法則がある。「差異×理解=評価」という法則だ。簡単に言ってしまえば、「ほかにない要素があり、それが市場で理解されるもの」。つまり、消費者から欲しいと思ってもらえるものであれば、必ず売れるという法則だ。
大ヒット商品には決定的な「差異」がある
差異があるとはどういうことか? ほかにはない要素があるということだ。例えば、ユニクロ。誰もが知るカジュアル衣料のトップクラス企業だ。なぜあれほどにユニクロ商品は売れたのか? 答えは、値段における「差異」だ。それまでは、フリース、ジャンパーといった商品にはそれなりの値段がついていた。高くて当たり前だったのだ。しかしユニクロは企業努力をし、あっと驚く値段設定の商品を次々に市場に送り込んできた。値段における圧倒的な「差異」があったからこそ、消費者はユニクロを選択した。「値段の差異」が、ユニクロが市場で受け入れられた理由であることは疑いがない。
アップル社の「iPod」も、また誰もが知るヒット商品である。競争が激しい音楽携帯プレイヤー市場の中で、圧倒的な優位を誇っている。iPodが大ブレイクした原因は複数ある。しかし中でも、決定的だったのは、「楽曲のダウンロード機能」を始めて採用したことといわれている。これまでの音楽携帯プレイヤーは、データを入れ替えるために、わざわざCDの曲をMP3などのファイル形式に変換し、携帯プレイヤーに取り込む、といった手順を踏まなければならなかった。またそのCDも、一曲ずつ購入できるわけではなく、数十曲が入ったCDを1枚まるごと買ってこなければならなかった。iPodは違う。ネットにパソコンをつなげ、気に入った曲を一曲単位でダウンロードできる。その後は、iPodとパソコンをつなげるだけで、勝手に同期し、その曲が取り込まれる。2、3回のクリックだけで、気に入った新曲を屋外にでも、どこにでも持ち出せるようになったのだ。iPodにもユニクロ同様、明確な「差異」があったことが勝因の一つである。
アップル社はこの「差異」をつくることを明確に商品開発の主目標とした。携帯音楽プレイヤーの元祖であるソニーやほかのメーカーが著作権の問題をクリアしきれずにいる間に、アップル社は次々と大手音楽事務所と提携し、どこよりも先に新曲ダウンロードができる体制を構築した。これによって、それまでの音楽携帯プレイヤーとは明確な「差異」を打ち出せるということをアップル社は理解していた。アップル社は、音楽携帯プレイヤーの市場では、完全な新参者であった。新参者が市場をひっくりかえすためには、明確な「差異」が不可欠なのだ。
「差異」なくして開発なし。「理解」なくして販売なし
起業家はすべての努力を「差異」の開発に注力すべきだといっても過言ではない。逆の言い方をすれば、「差異」さえあれば、起業家がつくった小さな商品でも、大手が巨額の資金をつぎ込んで開発した商品に打ち勝つことができる。厳しく言えば、「差異」が見いだせないのであれば、商品として世の中に出すべきではない。「差異」がない新規商品をどうしてわざわざ消費者が選択してくれるであろうか? 既存商品につぶされるのが関の山である。徹底して「差異」を商品に盛り込むことを意識し、商品開発を進めていかなければならない。
例えば、今あなたが何がしかの商品やサービスを世の中に出したいと考えている。この時、はっきりとその商品にしかない「差異」を商品に盛り込むことを考えなければならない。具体的には、商品開発のキャッチコピーとして既存商品との明確な差異を言語化できるようにする。例えば、「これまでの商品はこういう特徴(=否定的)があった」。しかし、「この新商品にはこんな特徴(=肯定的)がある」といったコピーを作成するのだ。もし今考えている商品にそういった「差異」がないのであれば、明確な「差異」が打ち出せるように、再度、商品開発に取り組んでみるべきだ。
通販などのTV番組において、必ず既存商品との違いを明示するシーンが出てくる。これは視聴者に商品の「差異」をはっきりと「理解」させるための仕掛けだ。「今までの商品はこんな問題点がある」「でもこの商品にはこんな良さがある」と、あえて比較するからこそ、消費者はその「差異」を素晴らしい「理解」へとつなげてくれる。
一見、後者の「アフター」だけでも良さそうであるが、実は「ビフォー」が重要なのだ。あえて比較することで、はるかに高い「理解」が発生するからだ。1時間で1億円を超える売り上げをはじき出す通販番組があるというのも、徹底して「差異」を「理解」につなげる番組づくりをしているからにほかならない。
以前、ある企業で商品開発の研修を行った時、「ワインでできた指輪」という商品を考案した人がいた。大のワイン好きらしい。確かにワインでできた指輪というものは聞いたことがない。差異がある。しかし、残念ながら、「理解」が発生しない。ワインでつくるという必要性がよくわからないのだ。もちろん、ワイン色だとおしゃれだとか、ワインの香りがすればちょっと気分が良くなるのかな、といった予測はできる。しかし、決定的な要因にはなり得ない。差異があっても「理解」される度合いが低ければ、当然、売れない。「フリースなのに圧倒的に安い」「ネットで手軽にダウンロードできる」。こういった一発でわかる「理解」が、商品開発には不可欠なのだ。
既存商品の否定的要因を開発の骨子にする
「理解」を発生させる簡単な方法は、既に世の中に出回っている商品やサービス、常識といったものを解決する機能を商品に盛り込むことである。あらゆる商品、サービスには問題点がある。どんなに完成度の高い商品であってもだ。炭酸飲料はべとべとする、机は重い、ラーメンは伸びる……などなど。これらの現存する否定的要因を開発の骨子にすれば、基本的に一発で理解が発生する商品開発が可能になる。毎日、電車で通勤する時、会社で会議をする時、自宅でネットサーフィンをする時、ありとあらゆる環境にビジネスチャンスが転がっている。せひ、「差異」を「理解」につなげられないかと考えながら、生活してみてほしい。
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アクティブラーニングスクール代表 羽根拓也 |
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ハーバード大学などで語学専任講師として活躍。独自の教授法が高い評価を受け、94年、ハーバード大学より優秀指導教授賞(Certificate of Distinction in Teaching)を受賞。日米10年以上の教育活動の集大成として、97年、東京で「アクティブラーニングスクール」開校。これまで日本になかった「学ぶ力」を指導育成する教育機関として各界より高い評価を得る。新世代教育の旗手として教育機関、政府関係機関、有名企業などから指導依頼がたえない。現在は、デジタルハリウッド大学・大学院専任教授兼CLOも兼任。
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