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事務所イメージを覆す事務所代行サービスとは?
私が経営するアクティブラーニング社の事務所移転に伴い、どんなタイプの事務所を構えるか、様々な手法、方法を調査・比較検討した。そんな中で、最新の設備を導入した外資系の事務所代行サービスが日本に上陸していることを知った。結論から言うと私は、7年間続けてきたテナント入居のスタイルをやめ、この事務所代行サービスに事務所機能を移管することに決定した。
なぜか? これら新興の外資系事務所代行サービスは、私の事務所に対するイメージをがらりと変えてしまった。もともと外資系企業が、海外進出する際に利用してもらうことを想定して始まったというこのサービス。現地で即座にビジネスが開始できるように、ありとあらゆる事務所機能を提供してくれる。スペースの提供はもちろん、秘書機能、電話応対、郵便送付など、通常の会社が必要とする事務所機能のいっさいを肩代わりしてくれる。バイリンガル秘書の質も有名企業に勝るとも劣らず高い。しかし、何より興味を持ったのは、これらのサービスを利用することで、ほぼすべての会社が持つ「場所への縛り」という命題から開放されるという点であった。
様々な基本的事務所機能をラインナップ
アクティブラーニング社が利用を決定したある会社のサービスの事例を紹介しよう。この会社の事務所代行サービスを利用すれば、全世界20都市、日本国内では、東京、名古屋、大阪の3都市内(都内はなんと駅前一等地に10カ所)での事務所スペースの利用が可能になる。もちろん、自社専用スペースを持つことも、共有のPC施設やミィーティング施設だけの利用も、自分の会社の拡大に応じて自社の敷地面積を月単位で広げていくこともできる。
もしあなたが東京都内に在住なら、事務所利用法はこういう感じになる。今日は新宿の事務所でA社とミーティング、明日は品川の事務所でB社とミーティング、明後日には出張でロンドンへ出張! ただし資料作成の準備が間に合わず、飛行機からメールでロンドン事務所に資料を送信した。ロンドン事務所では担当秘書が必要な部数をプリントアウトして待っており、これを受け取ってクライアントへ直行。こんなエグゼクティブな事務所利用が格安で可能になる。
さらに最新のIT機器を駆使したサービスにも目を見張るものがある。
例えば電話応対では、かかってきた電話をバイリンガルのコールセンターが受け、それをそのまま希望する電話番号に転送してくれる。私あてにかかってきた電話をそのまま私の携帯に転送してくれるので、世界中のどこにいても電話に応対することができる。私がその電話をハワイのビーチで受けていたとしても相手に気づかれることはない。仕事に集中したい時に外部からの電話で邪魔されたくなければ「ボイスメッセージ」と呼ばれるサービスを利用することもできる。相手が残してくれたメッセージがメールで音声ファイルとして送信されるので、そのファイルを自社スタッフと共有化すれば、いちいちこんな電話がありましたと伝え合う必要もない。
全国を飛び回っている私にはさらにうれしいサービスがある。ネットを通じて自分のPCデスクトップを再現できるシステムだ。
私は講演の依頼を全国から受けているので、毎月、日本中のどこかの都市に出張している。しかし、地方でたまたま泊まったホテルからネット接続ができず、仕方なく繁華街のネット喫茶などを探し、PC作業を行うことがある。ただここで別の問題が発生する。ビジネスでは定番の「パワーポイント」がそのPCにインストールされておらず、必要な作業ができないということだ。しかし、この事務所代行サービスが持つネットサービスを利用すれば、どんなPCでもマイクロソフトの「オフィス」が利用可能になる。「ホットデスク」というその最新サービスを使ってネットにさえ接続できれば、マイクロソフト社の「オフィス」の利用、メールの送受信、ファイルの保存などが可能になる。「ホットデスク」のサービスを利用していれば、今後、オフィス製品を購入する必要はなくなるということだ。
会社経営の常識が思考停止を導く
事務所移転の調査途中で、これらの最新の事務所代行サービスを知り、自社で事務所を持つということの意味を改めて考えるようになった。自社でこれだけの施設を整えようと思ったら莫大な費用がかかるに違いない。だったらこういった会社に事務所維持の機能をアウトソーシングし、自分たちは自分たちにしかできないことに特化すべきではないかと考えたのだ。
会社を経営すればわかることであるが、オフィスを維持するためには様々な経費と労力がかさむ。特に我々の業態はお客さまが日常的に訪問してくる教育事業であるため、掃除はもちろん、調度品をそろえ、花を飾り、音楽を流しと、やるべきことが数多くある。様々な仕組みを考え、それらを回すことに精いっぱいになってくると、ほかに何も考えられなくなる。そう、会社を経営していると無駄なものが増えてくる。しかし困ったことに、そこで働いているとそれらが無駄なものであると気づかなくなってくるのだ。
例えば、通勤時間についてあなたはどう考えるだろうか? 通勤は楽なことではない。誰もがそのことを理解している。しかし、だったらそれをなくす方法はないかと考える人は少ないだろう。「大変だけど、まあそれは当然だし、仕方ないよね」で終わっているのだ。私自身がそうであった。
事務所代行サービスを使い始め、数カ月がたつ。今、アクティブラーニング社では、事務所維持の仕事、決まった場所への通勤という「2つの常識」から開放された。事務所を管理運営しなくてもよい。決まった場所に通わなくてもよい。これは我々に革命的な変化をもたらしてくれた。
例えば毎日2時間を通勤時間に費やしていたとしよう。週に10時間、月に40時間、年間で480時間である。なんと1年間で1人あたり20日間もぶっ通しで通勤という行為に時間と労力を費やしていたのだ。
事務所代行サービスを利用し、我々の事業形態が音を立てて変わり始めた。いかに多くの常識にとらわれていたかということに、今、日々、驚嘆している。スタッフと毎日会わなくて大丈夫なのか? 社外からの信用は保てるのか? こういった心配も、その多くが杞憂であるということがわかってきた。それどころか、こんなこともできる、あんなこともできると、多くの新しい試みに取り組める毎日が刺激的で、楽しくてしょうがない。
誤解のないように言っておこう。多くのメリットを享受しながらも、事務所代行サービスの利用が最善であるとは考えていない。事務所代行を利用することで生じたデメリットもある。事務所を手放すことで、見えなかった事務所所有の良さも認識することができた。将来的には、また事務所を持つかもしれない。しかし、今回の事務所移転を通じて、大切なことを学ぶことができたことは間違いない。人間は、同じことを繰り返す限り、必ず「常識」に縛られるようになり、成長の機会を失うようになるということだ。どんな現場で仕事をしていてもこれは起こりうる。これを防ぐ唯一の方法は、自らの仕事や生活に、「意図的な変化」を定期的に取り入れるということだ。
これまでつくり上げてきたものをすべて否定しろとは言わない。「構築」してきたものの本当の良さを知るためにも、「変化」が不可欠だということだ。「構築」と「変化」、この繰り返しこそが、永続的な成長を我々にもたらしてくれる。
「常識」を疑うことから始めよう。大きな成長がその向こうであなたを待っているに違いない。
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アクティブラーニングスクール代表
羽根拓也 |
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日本で塾・予備校の講師を務めた後、1991年渡米。ペンシルバニア大学、ハーバード大学等で語学専任講師として活躍。独自の教授法はアメリカで高い評価を受け、94年、ハーバード大学より優秀指導教授賞(Certificate
of Distinction in Teaching)を受賞。日米10年以上にわたる教育活動の集大成として、97年、東京・神田に「アクティブラーニングスクール」開校。これまで日本になかった「学ぶ力」を指導育成する教育機関として各界より高い評価を得ている。新世代教育の旗手として教育機関、政府関係機関、有名企業などより指導依頼がたえない。
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