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組織の進化を司る「構築」と「変化」
先月号のこのコラムで、組織には、大きく分けて3つのタイプが存在するという話をした。まずは、強いリーダーが全体を統一的に引っ張る「集中系」タイプ。様々なメンバーがそれぞれ自立し、各自が自由に活動したがる「分散系」タイプ。そして、その2つのタイプの特性をうまく併せ持つ「集散系」タイプの3つだ。
それぞれのタイプに、メリット、デメリットはあるのだが、3つのタイプのうち、「組織の進化率」が最も高いのが3つ目の「集散系」である。私が主宰するアクティブラーニング社が行っている企業研修の中で、グループ同士で成長を競い合うゲームがあるが、このワークショップでの勝敗の結果から統計的にこのことが証明された。なぜ「集散系」をとるグループの進化率が高いのか?
それは集散系のグループには、組織の成長を促進させる「構築要因=Construction」と「変化要因=Change」という2つの力が備わっているからだ。アクティブラーニングでは、これらの2つの要素を、成長を導く「C2」と呼んでいる。一見相反するこの「C2」が同時にある時、組織の成長が引き起こされやすくなる。どうやって? 今回は、実際にこの「C2」のメカニズムを利用し、急成長を遂げたある会社の事例を織り交ぜながら解説してみよう。
積み重ねることが成長を引き起こす
組織の成長を引き起こす第一の要素は「構築要因」である。「構築要因」とは、物事の成長に不可欠な「積み重ね」を指す。例えば独立し、業務を開始すれば、開業前には見えなかった様々な生きたナレッジデータが蓄積されていく。お客さんが怒った時にはどう対応すればいいのか? 資金繰りが苦しくなったらどうやってお金を集めればいいのか? これらのナレッジデータこそ、会社が安定的に業務を行っていくために重要な役割を果たしてくれる。それらのナレッジデータが、問題発生時の解決法や将来の予測に極めて重要な意味を持つからだ。
しかし一方で、「構築要因」はマイナス的な側面も持っている。多くの情報が蓄積され、それらが組織の規範となっていくと、会社のすべての思考や行動がここから導き出されるようになる。そうなれば、組織がその規範に縛られてしまい、他の思考や行動をとりにくくなってしまう。「構築」が「硬直」を引き起こすということだ。強みは、ある時点を過ぎると弱みになりうる。成長を助けるはずの構築要因が実際には途中から成長の妨げになってしまうのだ。しかし、多くの企業がそのことの重要性に気づいていない。
動かすことが成長を引き起こす
「硬直」を引き起こさないために必要になるのが「変化要因」だ。環境はどんどん変化している。その変化に対応し、生き残っていくために必要なこと、それは環境の変化に合わせて自分自身も変化させていくということだ。組織成長における「変化要因」とは、その会社が生き残るために必要な「動き」を意図的に取り入れるということだ。新しい業務手法を導入したり、外部から別の社長を引っ張ってきたりという手法がそれにあたる。日産自動車(以下、日産)が、カルロス・ゴーン氏をCEOとして迎え、大変革を自らに引き起こし、生き残りに成功したことは記憶に新しい。
日産を救った2つの手法
そのカルロス・ゴーン氏が行った日産の改革プロジェクトはあまりにも有名だが、ゴーン氏が行った改革には、2つの注目すべき手法があった。「NPW(=Nissan Production Way)」と「CFT(=Cross Functional Team)」だ。この2つの手法にこそ、「構築要因」と「変化要因」が含まれている。
まずNPWとは、世界中の日産工場において生産方式を標準化するプロジェクトだ。ゴーン氏がCEOになるまで、日産では世界中の各工場で異なった生産方式をとっていた。驚くべきことに、同じ日本国内の工場においても、地域によって微妙な違いが混在していたという。ゴーン氏はこの違いを問題視し、全世界統一の日産生産方式をつくることを決定した。それがNPWである。日本、アメリカ、欧州のすべての工場において、統一的な生産方式をつくり上げる。これによって実に様々なメリットが生まれる。まず、コスト削減だ。全世界で統一的な方式をつくり上げれば、その工場で使う部品など、すべて大量発注がかけられるようになる。結果、自社商品の値段も下げることが可能になるので、会社自体の競争力を上げることができる。
それだけではない。NPWにはさらに、大きなメリットがある。それはNPWが、「構築要因」として会社の成長を引き起こすメカニズムを持っているということだ。全世界統一の生産方式をつくったということは、成長のプロセスを共有化できることを意味する。例えば、アメリカである事故が起きたとする。そうすれば、同じ生産ラインを持つ日本でも同じ事故が起きる可能性がある。しかし、その問題の対処法を見つけることができれば、即座に全世界の他の工場にその情報を飛ばし、事故が起こることを未然に防ぐことができる。NPWという「共通言語」が、そのことを可能にした。逆もしかりだ。ヨーロッパでラインの効率性を上げるうまい方法を見つけたとしよう。その方法は、生産方式が統一化されている日産では、即座に世界中の工場で採用することができる。修正点であれ、向上点であれ、成長に必要なエッセンスを積み重ねやすくしたことが、NPWの特徴なのだ。
硬直した組織に動きをもたらすCFT
もう一つの改革の柱は「CFT」だ。CFTとは先述したとおり、Cross Functional Teamの略で、部門や役職を超えた会社の改革チームを指す。
通常、改革チームをつくる場合は、本社の管理職などがプロジェクトチームを組む場合が多い。しかし、その人員では今までと同じ「硬直」した解決法しか出てこない。そこで、ゴーン氏は、部門や役職が違う人材を集め、業務改善の手法を考案させた。企画と営業では通常異なった意見を持つことが多い。だからこそ、これまでにはない新しいアイデアが出る可能性がある。そこに期待したのだ。
CFTは期待どおり、今までにはなかったアイデアを日産にもたらした。ゴーン氏はCFTに多大なる権限を与えた。CFTが導き出したアイデアを尊重し、それに抵抗する勢力を許さなかった。硬直した組織に新しい可能性を与え、成長に導いていく。それがCFTの特徴なのだ。
相矛盾する2つの力が組織を成長に導く
この2つの手法を使って、ゴーン氏は日産を成長へと導いた。ここで特筆すべきことは、ゴーン氏が、NPWとCFTという2つの相反する対策を、同時に導入したということだ。組織を固めることと、組織を崩すこと、一見、矛盾しているこの2つの要素であるが、ゴーン氏は、この2つの力を同時に導入することを意図的に行った。2つの相反する力は、組織の新陳代謝を早めることにつながる。反対の方向に引っ張り合うからこそ、その間にある組織に、「残すもの」と「捨てるもの」をはっきりとさせていくのだ。
「構築」と「変化」というC2を盛り込んでおけば、成長は知らず知らずのうちに導き出されるに違いない。
独立、起業し、自分のお店や会社を立ち上げ、運営する上で組織が必要な時、ぜひとも「構築要因」と「変化要因」を意図的に盛り込んでおこう。日産のようなすばらしい「構築要因」と「変化要因」をつくり出すことができれば、あなたの組織の成長は保証されたと言っても過言ではないだろう。
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アクティブラーニングスクール代表
羽根拓也 |
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日本で塾・予備校の講師を務めた後、1991年渡米。ペンシルバニア大学、ハーバード大学等で語学専任講師として活躍。独自の教授法はアメリカで高い評価を受け、94年、ハーバード大学より優秀指導教授賞(Certificate
of Distinction in Teaching)を受賞。日米10年以上にわたる教育活動の集大成として、97年、東京・神田に「アクティブラーニングスクール」開校。これまで日本になかった「学ぶ力」を指導育成する教育機関として各界より高い評価を得ている。新世代教育の旗手として教育機関、政府関係機関、有名企業などより指導依頼がたえない。
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