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 ●第8回 集中、分散、そして集散「進化する組織」とは?


独立を目指す人は、「組織の力学」を理解する必要がある。
個人で始めたサービスであっても、売れ始めれば、
おのずと複数の人を雇用し、組織的にサービスの提供を
行わなければならなくなってくるからだ。
そこで今回のテーマは、自分のビジネスの拡張に
不可欠となる「組織の力学」である。
「組織の力学」の中でも特に、今、世界中の企業の
注目を集めている「組織の学ぶ力」を中心に語ってみよう。

 

組織成長力・体感ワークとは?
 私が主宰しているアクティブラーニング社は、現在、ソニーや松下電器産業、カシオといった大手企業に様々な研修を提供している。
 当社が有している多数のメニューの中で、「組織成長力・体感ワーク」というユニークな研修がある。この研修では、「合計100の単語を覚える」といったあらかじめ決められた課題をグループごとで自由に取り組み、その成果を競い合う。その日の課題は、事前には発表されず、開始直前になって初めて発表される。そのため、各グループでは、課題内容が明らかになった時点で、同じグループになったチームメンバーと知恵を絞り合い、どうすれば効率よく成果を挙げることができるのか、試行錯誤を繰り返しながら課題に取り組んでいく。
 この研修では、課題に対する取り組み、成果を検証するために、最後に、全グループ対抗でゲーム形式のテストを行う。メンバー一人ひとりが活躍しなければ、絶対に勝てないゲームであるため、誰もが自分のチームの足をひっぱらないようにと必死にゲームに挑む。そして、ゲームの結果を通して、全グループの順位が発表され、どのチームが最もうまく課題に取り組んだのかが一目瞭然となる。ここで、この研修の第1次段階が終了する。
 さて、この研修の面白いポイントはここからだ。実は、各グループが課題に取り組んでいる様子がビデオカメラで撮影されている。しかし、それぞれのグループは別室で課題に取り組んでいるため、自分以外のグループがどんなふうに課題に取り組んでいたのかを知らない。テスト終了後、みんなで撮影されたビデオを観賞し、自分たちのグループの課題に対する取り組み方と、別グループの課題の取り組み方を比較し、組織がどのようにして成長していくかを学ぶことができるのだ。
 ビデオを観賞すると、いつも同じ面白い現象を見ることができる。各グループが別々の部屋に分かれ、課題に取り組み始めると、自然に3つのタイプへと分かれていくのだ。「集中系」「分散系」「集散系」の3つである。この3つのグループに、組織成長の秘密が隠されている。

リーダーが仕切る「集中系」の強みと弱み
「集中系」とは、メンバー全体の方向性が、文字どおり「集中」しているグループを指す。例えば、そのグループにたまたまリーダーシップを発揮できる人、つまり「仕切り屋」タイプの人間がいると、このグループが成立しやすい。この場合、リーダーの指示のもと、グループ全体が早期に「統一」的な形をとる。リーダーの指示は、良い意味でも悪い意味でも強い影響力を持っており、グループ全体がリーダーの提案する方向に引っ張られていく。
 このグループの長所は、統一的であるため、初期の段階から一定の成果を挙げる可能性が高いという点。また、全体がリーダーの下に統制されているので、無駄が少ないということが挙げられる。一方で短所もある。最大の弱点は、もしもリーダーになった人の資質が低ければ、グループ全体を誤った方向に引っ張っていくことがあるという点だ。そして、グループ全体の資質は、残念ながらリーダーの資質を超えることはない。

自由を尊ぶ「分散系」の強みと弱み
「分散系」とは、文字どおり全体の方向性が「分散」しているグループを指す。そのグループにリーダーシップをとれる人材がいなかったり、そういった体制を嫌うメンバーが多い場合、このグループが発生しやすい。お互いに強制を嫌うので「各自でやって、後で確認しましょう」。といった意見が通りやすくなる。このグループの良い点は、「自由度」が強いということ。メンバーが、強制的に何かをさせられるということはないので、各自、自分のやりやすいように課題をこなしていく。しかし、この自由なやり方は、ともすれば統一感がなく、全体として低いパフォーマンスしか発揮できないこともある。誰かが「うまい方法」を途中で見つけたとしても、それがグループ全体に共有化されることはない。つまり、ここに組織力が発揮されることはなく、そもそも複数の人間が集まっている意味がないのだ。グループでありながらグループである意味がないところが、このグループの弱さだ。

2つの利点を兼ね備えた「集散系」の可能性
 そして、3つ目のグループが「集散系」である。このタイプは、簡単に言うと、「集中系」と「分散系」が融合したタイプである。課題を行う間、「集中系」になったり「分散系」になったり、2つの異なった状態を行き来する。このグループは、個と全体がうまくバランスをとりながら、課題に取り組んでいるといえる。このグループでは、特に強権的なリーダーは存在せず、基本的に合議制で方向性が決まっていく。それぞれのメンバーが自由に意見を出し、緩やかなる統一性を保ちながら、全体を動かしていく。各メンバーの力をうまく引き出し合っているのが、「集散系」の優れた点である。
 さて、これら3つのグループの中で、最も優れたグループはどれか? この流れでいくと「集散系」が最も優れており、どのゲームでも「集散系」が1位になるという答えがもっともらしい。しかし実際は、「集中系」、「分散系」、「集散系」のいずれのチームも一位になる可能性を持っている。
 様々な企業で何度もこの研修を実施しているが、絶対的な唯一無二のタイプがあるわけではない。優れたリーダーに恵まれた「集中系」が、圧倒的な強さをほこることがある。天才がいれば「集中系」も悪くないのだ。
 また、個性派がそろい、それぞれ独自に課題に取り組んだ「分散系」が勝利を収める場合もある。個性派を無理にまとめるよりは、自由に羽ばたかせる方が良い時もあるということだ。
 では、「集散系」はどうか? 実は予想どおり、このグループが勝利する可能性が最も高い。それはなぜか? このグループが他の2グループより明らかに優れているのは、「組織成長力」である。「集中系」の場合は優れたリーダーが、「分散系」の場合はほぼ全員が優れた資質を持っていなければならない。これら2つのグループは、メンバーの中に優れた資質を持った者がいなければ勝つことはないのだ。
 しかし、「集散系」の場合は、ずば抜けて優れたメンバーがいなくても勝つことがある。他のグループではあり得ない。開始時点でそれほど優れた資質を持ったメンバーがいない場合であっても、時間がたつにつれ、組織そのものが成長し、強い力を発揮し、結局は勝利を手中にしていたといったケースが多々ある。彼らは一人の圧倒的な力に頼らない。みんなの頭に入っている、異なったデータベースや解法をフル活用して課題に取り組んでいくことができる、「組織」というシステムを最大限に利用したシステムなのだ。

独立後、「集散系」の組織をつくることが成功の近道
 独立し、自分のビジネスがうまく動き始めたら、組織を持つ必要性が出てくる。その時、自分の組織が、以上のどのタイプであるかを知ることは有益である。あなたが強いリーダーシップを発揮すれば「集中系」となり、複数の仲間といっしょに業務を始めれば「分散系」の組織になるかもしれない。しかし、それぞれに強みと弱みが存在する。継続的な成長を自分の組織に望むのであれば、「集散系」のメカニズムを理解し、このようなグループに育てていくことがカギである。ではどうすれば、自分の組織を「集散系」にすることができるのか? カギは、「統治」と「自由」といった相反する2つの要素を組織の中に盛り込んでいくこと! 実はここにこそ、「組織の成長」の最も重要なエッセンスが隠されている。来月のコラムでその秘密をより深く語ってみよう。


PROFILE
photo アクティブラーニングスクール代表
羽根拓也
日本で塾・予備校の講師を務めた後、1991年渡米。ペンシルバニア大学、ハーバード大学等で語学専任講師として活躍。独自の教授法はアメリカで高い評価を受け、94年、ハーバード大学より優秀指導教授賞(Certificate of Distinction in Teaching)を受賞。日米10年以上にわたる教育活動の集大成として、97年、東京・神田に「アクティブラーニングスクール」開校。これまで日本になかった「学ぶ力」を指導育成する教育機関として各界より高い評価を得ている。新世代教育の旗手として教育機関、政府関係機関、有名企業などより指導依頼がたえない。


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