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その(1) 偶然、エサを見つけた
森の中を一匹のキツネが歩いていた。若いのでまだ経験が少なく、エサを見つけるのにも苦労している。この3日間、森の中を歩き回ったが、エサらしいエサを口にしていない。おなかはペコペコだ。「ああ、こんな時、母さんがいてくれたら……」昔は母ギツネがおいしいエサを見つけてくれた。母ギツネはエサが見つけるのが上手で、母ギツネについてさえいれば、いつもおなかいっぱいになることができた。
しかし、今は違う。独り立ちし、自分一人で生活をしているので、誰も手伝ってはくれない。当たり前だが、エサも自分で見つけなければならない。それが独り立ちするということだ。何とかしなければ……。
「おなかがすきすぎたせいか、目の前がくらくらしてきた。このまま歩き続ければ倒れそうだ。ちょっと休んでみることにしよう」。身を隠せそうな場所がないかあたりを見回してみた。するとちょっとしたヤブが目の前にあった。ヤブの中は外からは見えにくくなっており、身を隠すのにはちょうど良い。早速、そのヤブの中にもぐりこんでみた。すると、足のあたりに何か堅いものがあたった。恐る恐るそこに鼻を近づけてみてびっくりした。大好物の木の実がたくさん落ちていたのだ。その幸運にキツネは大喜びをした。おなかがすいていたので片っ端から食べた。3日ぶりのエサである。おいしくないわけがない。木の実の渋みが口いっぱいに広がり、最高の幸せを感じることができた。しかし、おなかいっぱいになってみて、ふと我に返った。
「今日はラッキーだったから良かったようなものの、もしこのヤブの中に入っていなかったらどうなっていただろう? のたれ死んでいたかもしれない。明日からのエサの探し方をもっと考えなければならない……」
その(2) 学ぶべきことは体験の中に
そこでふと、母ギツネが昔、自分に言っていた言葉を思い出した。いつか、独り立ちした時に思い出しなさいといって何度も何度も聞かせてくれた話だ。
――教えてくれる人が誰もいなくなったら、自分で先生になるしかないのよ。自分が先生になるために一番良い方法は何だと思う? それは自分の体験を先生にするっていうこと! 体験の中にたくさんの大切なことが隠されているのよ。
「うん、今日のヤブの事件という体験からもいろんなことが学べそうだ」
――エサを探すことができた時も、エサを探すことができなかった時も、その理由を考えなさい。その理由が正しいかどうかはすぐにはわからないわ。でもね、とりあえず自分なりに、その理由を考えてみることが大切なの。
「なるほど、理由か……確かに、どうしてヤブの中でエサが見つかったんだろう? この3日間は歩きやすいところでエサを探していた。でもそこはいろんな動物が普段から歩き回っているところだ。そんなところにエサが落ちていたとしても、すぐに誰かが見つけてしまうに違いない。そうか、でもこのヤブの中はまだ誰も足を踏み入れていなかった。だからここに落ちたエサが手付かずのまま残っていたのだ。これが理由に違いない」
その(3) 目に見えないものを見る
――体験から何かを学ぶ時、大切なことは、見えるものだけを見ていてはだめだってこと! 本当に見てほしいのは、目に見えないもの! 結果を見たら原因を見るようにって私は言ったでしょ。実はそこまでは誰もがやっていることなの。でも、体験を本当に自分の先生にしたかったらもっと、そこから上を見ていかないとだめなの。それをルールって呼んでみましょう。ルールは、その場面だけではなく、将来にわたっておまえを助けてくれる本当の先生になる、とっても大切なものなの。
「ルールが大切だって、母さんは何度も何度も口を酸っぱくして言ってたっけ……。今日の場合は、何がルールなんだろう。ヤブの中でエサを見つけた。これが結果だった。みんなヤブの中にまで入らなかったので、エサがその中に残っていた。これが原因だ。この2つをつなぐ、目に見えないルール。将来にわたって僕を助けてくれるルール……。そうかわかったぞ! 今日の体験のポイントは、自分が今までと違う行動をしたっていうことだ。将来に生かせるルールとして『行動のパターンを変える時、新しい発見がありうる』っていうことが言えるんじゃないだろうか? うん、このことを覚えておけば、将来何かに困った時に生かせるに違いない」
――ルールは、1つだけじゃないの。いくらでも増やすことができるのよ。目に見えるものは1つしかないかもしれない。でも見えないものは、見ようとしさえすればいくらでも見ることができる。ルールも同じ。おまえが学ぼうとする気持ちさえあれば、いくらでもルールを増やしていくことができるのよ。ルールの見つけ方さえ身につければ、1回の体験から100冊の本を読むよりも多くのことを学ぶことができるようになるわ。
「ルールは必要な数だけ増やすことができる……。そうだ、確かに、今日の体験からいろんなことを学ぶことができる。さっきは、『いつもと違うことをすれば、新しい発見がある』っていうことだった。でも、こうも言えるな。『ほかの人と違うことをする時、ほかの人が見落としたことを見つけられる』、あるいは『見落としやすいところにエサは隠されている』、こんなわかりやすいのもいいかもしれない。こんな感じで考えていけば、確かにいろんなルールがつくり出せそうだ」
その(4) 具体的な次の行動につなげる
――ルールがいくつも見つかったら、次はネクストステップ! ネクストステップっていうのはルールを実際の生活に役立てていくための、具体的な行動のこと。これがないと、ルールをいくら見つけることができてもあなたの生活を変えることはできないわ。
「具体的な次に取るべき行動が、ネクストステップか……。じゃあ、明日からの僕の行動を考えてみよう。明日からどうやってエサを探せばいいんだろう。ルールから考えてみよう。まずは最初のルールが、『行動のパターンを変える時、新しい発見がありうる』っていうことだ。これを具体的な行動にするとしたらどんなことができるんだろう? 行動のパターンを変えてみようか。あ、そうだ、例えば、いつもと違う時間にエサを探してみたらどうだろうか? 朝早く起きて森の中を歩いてみたらどうだろう? もしかしたら、今までには見つけたことがないようなエサを見つけられるかもしれない。場所もそうだ。いつも同じ道を歩いていたな。明日は別の道を歩いてみよう。うん、これはいいぞ。1つのルールからさらにいろんなネクストステップを考えることができる。っていうことは、考えたいくつかのルールに対していろんなネクストステップを考えていけば、エサを探す方法なんて無限にでてきそうだ!」
――大切なことは、体験から学ぼうとする姿勢を持つこと。あなたが本当にそれをできるようになった時、本当の独り立ちができるようになったっていうことなのよ。
このキツネの寓話は、独立に必要な自己成長の本質をわかりやすく伝えるために作ったものだ。あなた自身、若いキツネのように、ぜひ、今日一日の自分の体験を振り返ってみてほしい。体験から学ぶことができる人は、日々の体験から、(1)原因と結果を見つけ出す。そして、(2)原因と結果をつなぐルールを見つけ、(3)ルールを生かしたネクストステップを考えていく。さあ、今日から自分の1日を振り返ってみよう。たくさんの宝物が隠されているはずだ。見えないものが見えるようになった時、あなたは、この物語に登場する若いキツネと同様、真の独立力を手に入れたことになるに違いない。
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アクテイブラーニングスクール代表
羽根拓也 |
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日本で塾・予備校の講師を務めた後、1991年渡米。ペンシルバニア大学、ハーバード大学等で語学専任講師として活躍。独自の教授法はアメリカで高い評価を受け、94年、ハーバード大学より優秀指導教授賞(Certificate
of Distinction in Teaching)を受賞。日米10年以上にわたる教育活動の集大成として、97年、東京・神田に「アクティブラーニングスクール」開校。これまで日本になかった「学ぶ力」を指導育成する教育機関として各界より高い評価を得ている。新世代教育の旗手として教育機関、政府関係機関、有名企業などより指導依頼がたえない。
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