起業を選ぶ女性たち ENTRE WOMAN

SUGAR MARKET
オーナー 
佐藤 可余子さん(39歳)

「育児や介護で家にこもっていた主婦たちが、働き始めてだんだん生き生きしていくのが楽しくって!」

と話す「SUGAR MARKET」オーナーの佐藤可余子さんも、3児の母。家事、育児と両立して、天然素材使用のベーカリーショップを営む。

佐藤さんは服飾デザイン専門学校を卒業後、調理に興味を抱き、多くの飲食店で経験を積む。そしてその頃お見合いで、今の夫と結婚。

結婚後は、夫の実家の酒屋さんを手伝う毎日。その後、子供ができると育児に追われる日々が続いていた。「3人子供ができて、もう毎日にぎやかに暮らしていました。趣味で子供たちにお菓子をつくっていましたね」

そのお菓子を、子供が通う学童の先生や子供たちに差し入れしているうちに、学童のおやつで出したいので、正式に契約したいという話が舞い込む。先生たちが、佐藤さんにお願いしたいと考えたのは、味はもちろんのこと、もうひとつ理由があった。佐藤さんのつくるお菓子やパンは、子供たちの体質に合わせて、様々なアレンジをしてくれることだった。卵アレルギーを持つ子供には、卵や乳製品を使わないパンやパウンドケーキをつくる。「自分も出産を機に小麦アレルギーになり、そういう人たちのつらさがわかるんです。だから、アレルギーを持つ子供たちにも喜んでもらいたかった」

そこは3児の母でもある彼女の親心。たとえ手間がかかっても、子供たちの喜ぶ顔が見たいという一心だった。

その頃、隣町にある彼女の実家を建て替えることになった。今まで自宅のキッチンでお菓子を焼いていたが、これを機に家族の一室のキッチンを業務用にして、工房にしようと考えた。

「けれども上の階では動力電気が引けず、これがないとおいしいパンは焼けない。あきらめかけた時に兄から、『1階に店舗をつくってそこで開業したらどうか』と勧められました。そんなことは全く考えていなかったので、最初はとても悩みましたが、今後、子供の手が離れて何か新しい職業に就きたいと考えた時、年齢や経験不足が障害になって思うような仕事に就けないかもしれないと考えたんです。それなら今、目の前にあるチャンスを生かして挑戦してみよう!と」

その思いを夫にぶつけてみたが、残念ながら最初は同意を得ることができなかった。何度も話し合いを重ね、最後には彼女が押し切る形でOKをもらい、準備スタートとなった。

とはいうものの突然の開業で資金など手元にない。佐藤さんは兄にお願いして、開業資金を借りることに。開業にあたってはできるだけ節約をしようと、格安の業務用ミキサーやオーブンを探し回り、交渉を続けた。

  手づくり感あふれる店内の装飾。季節に合わせて手芸などが得意なスタッフが、装飾してくれている。愛情が感じられる店内だ

こうして、2005年11月に、「SUGAR MARKET」がオープン。スタッフは、お母さん仲間に声をかけ、6人が参加してくれることに。全員育児中のため、勤務時間は午前と午後の2交代制で、平均週2日働く。子供や家族が体調を崩した時や、学校行事がある時はみんなで助け合い、無理のない働き方をしてもらえるよう心がけた。

「子育てや家事に追われて疲れていた主婦が、働くことによってどんどん明るくなっていくのを見て、お店をやって本当に良かったと実感しました」

オープン後数カ月たつとリピーターも増え始め、多くのリクエストが彼女の元に舞い込むようになる。最後のデコレーションを子供にやらせたいので、スポンジにクリームを塗っただけのバースデーケーキをつくってほしいとか、パーティをするのでキャラクターの形をしたパンが欲しいなど、要望は様々。それでも子供たちを喜ばせたいと、特別注文が入ると何日もかけて、スタッフとアイデアを出し合う。普通のパン店やケーキ店ではできないことをしてあげられることに、スタッフ全員がやりがいを感じている。

ところで、小麦アレルギーの彼女。味見はどうしているのだろうか?

「新作をつくると、周囲の主婦たちにも配って味見をしてもらうんです。おかげでたくさんの声が集まり、それがリサーチになっています」

逆境さえもプラスに転じてしまう彼女の行動力には脱帽だ。そして彼女はスタッフに、こんな感想を抱く。

「うちの自慢は、スタッフがお客さんを思いやる気持ちが強いこと。お年寄りの方にはすぐにドアを開けて差し上げるなど、その気遣いは私が見ていて本当に頭の下がる思いです。これこそ、主婦だからこその経験を生かしてできること。私はみんなを雇用関係ではなく、パートナーとして考えています」

主婦たちが経験を生かして、無理なく働ける場所を提供する。それだけでも、佐藤さんの始めたベーカリーショップは意義のあるものといえるだろう。

「女性も子育てを終えた後の自分の人生設計を、しっかり考えておくべきだと思います。アンテナを張ってチャンスは確実に生かしてください!」

取材・文
浅子 百合(クレッシェント)
撮影
鈴木 慶子
PERSONAL DATA
開業資金
手持ち資金がなかったため、彼女の兄にSOS。融資を受け、今は月々3万円ずつ返済している。
技術の修得
小さな頃からお菓子づくりが好き。パン店などで修業を積む。お菓子やパンを近所の人たちに配ることも多かった。
労働時間・休日
定休日は週1回。日曜日はなるべく仕事をせず、子供たちと過ごす時間をたっぷり取るようにしている。
収入
以前は専業主婦だったので収入はなし。現在は、1日2万円の売り上げで、なんとか自分の給料が出るとか。
会社概要
所在地 :東京都世田谷区
開業年月 :2005年11月
開業資金 :600万円
売上高 :初年度につき実績なし